「下りは此処までだ。ここからはまた登るが、昨日までこ険しさはないはずだ」
昼を過ぎ、私達はやっと魔王の封印された山へ続く道へと辿り着いた。
「この山が……」
「あぁ。ここを少し登って向こう側に回ると、大きな洞窟がある。そこが目的地だ」
「洞窟……」
「あぁ。一説では初代の聖女の攻撃に魔王が逃げ込んだ場所らしい。隠れていた魔王を探し出すのに聖女か破壊した場所が洞窟になった……と」
「山を二つに分ける魔王に、山に穴を開ける聖女ですか……どちらも規格外過ぎて……」
私は目を丸くした。
「初代聖女は魔王と対峙出来る程の力だったんだ。それからの聖女は封印を掛け直すだけ。魔物は多かっただろうが、初代程の力は必要なかっただろう」
私はレオナ様との会話を思い出す。初代に似ているって言われたっけ。
「だが……」
ロナルド様は言葉を切る。
「どうされました?」
「ここまで魔物が凶暴になっている事を考えると、魔王の復活は近いかもしれない」
「先を急ぎましょう」
私の言葉に、私達はまた歩き始めた。魔王が復活したらどうなるのか……考えるだけでも恐ろしい。そして同時に思った。まだアナベル様とウィリアム様も封印は出来ていないのだと。
「大丈夫か?」
緩やかな……とは言えない上り坂、岩や石がゴロゴロと転がっているが、昨日に比べればマシだ。まぁ……少し息は上がってしまうが。
「はい、大丈夫です」
そう言ったのだが、
「ほら、手」
とロナルド様はぶっきらぼうに言うと私の前に手を差し出した。
「え?」
「ほら、引っ張ってやるから」
そっとロナルド様の顔を窺おうとすると、ロナルド様は顔を背けたままだった。その耳は少し赤くなっている様に見える。
「でも……」
「お前を癒す事は出来ないんだ。これぐらいさせろ」
相変わらずぶっきらぼうな物言いだが、私の心は温かくなる。
「ありがとうございます」
私は素直にその手を取った。私を引っ張るその手はとても温かい。ロナルド様の優しさがお互いの手を通じて流れ込んでくる様だ。
「クラリス」
「はい」
「そう言えば大切な事を言い忘れていた」
「大切な事……?」
「お前、魔王の封印方法を知っているか?俺は知らん」
「は……い?」
思わず私は口をポカンと開けてしまった。知らない?今更?
「そんな……私も詳しくは……」
私が思わず歩みを止めそうになるのを、ロナルド様はサクサクと引っ張って歩く。
「俺もだ。俺もふんわりとしか知らん」
「王族なら知っているのかと……」
「俺も聖女候補なら知っているのかと思っていた」
「ど、ど、どうするんですか?!」
「うーん……まぁ、どうにかなるだろ。二人のふんわりとした知識で」
急に楽天的になるロナルド様に呆れる。
「私を下剋上に誘う前にちゃんと調べて下さいよ!!」
「聖女から選ばれた人間にしか教えられないんだよ!お前こそ聖女試験で歴史とか学んだんだろ?その中に無かったのか?封印方法」
「ないですよ!聖女になった時に大司教様に教わるんです!」
さっきまでちょっと良い雰囲気だと思っていたのに、物凄い速さで学園の同級生時代に戻されてしまった。
しかし……この方が私達らしい。私は何故だかホッとしてしまった。
「封印に必要なのは剣と聖なる力。それは知ってる」
「私もそれぐらいなら。ただ、剣とは名ばかりで鍵の様な物だと聞いたことがあります」
私はまたレオナ様との会話を思い出していた。