「おい!馬鹿!やめろ!!」
ロナルド様の叫ぶ声が聞こえる。だけど、魔王が復活した今、もう一度封印出来るのは私しか居ない。
アナベル様は……無理だ。彼女の恐怖が力を淀ませている。コントロールが出来ていないのだろう。
まだまだ牛の様な魔物が彼等を襲う。私はもう一度力を集中させる。弓を構えるとそこには大きな光の矢が出来た。
私は魔王目掛けて、その矢を射る。
『ほう。面白い』
魔王は私の矢をいとも簡単に槍で薙ぎ払った。
「き、効かないの?」
私は唖然とした。随分と力を込めた筈なのに。
『お前は面白そうだ』
魔王はそう言うと、私に向けて赤黒い光を放つ。私はそれを辛うじて避けると、小さな白い盾を作り、自分の腕に纏わせた。
少しはこれで防げる筈だ。
ロナルド様とディグレは私を気にしながらも、魔物と戦っている。
私も次々と放たれる赤黒い光に翻弄されながら、何とか魔王に攻撃を繰り出すが全て彼の体を傷つける前に魔王の槍で薙ぎ払われていた。
何か、何か打開策はないものか……。
焦ってしまった私に一瞬の隙が出来る。
「危ない!!」
気づけば私はロナルド様の腕の中で、地面をゴロゴロと転がっていた。
と同時に私達二人を赤黒い光が襲う。私は既の所で二人を守る結界を張る事が出来た。
「大丈夫か?」
「す、すみません。このままでは皆の体力がなくなっていくだけで……どうしたら良いのかと焦ってしまって」
私はロナルド様に手を引っ張られて立ち上がる。結界にはヒビが入ったが、何とか持ちこたえてくれた。
「お前は一人じゃない。抱え込むな」
「ロナルド様……」
私は自分だけがこの窮地を救えるのだと自惚れていた事に気付く。
「おい!気をつけろ!!」
ウィリアム様の声が聞こえ、気づけば赤黒い光が結界を破り、ロナルド様の背中に突き刺さっていた。
「うぅっ!!」
踞るロナルド様の姿に私は無意識に白い弓を構えていた。怒りが私を支配する。
大きく弓を引く。白く光る矢は真っ直ぐに魔王の元へと飛んで行った。いつもの様に魔王は無表情で彼の持つ槍でそれを薙ぎ払おうとしたが……
『パキン!!』
魔王の槍は私の矢によって真っ二つに折れた。
『なっ……!』
魔王の表情が一瞬変わる。直ぐ様私はロナルド様の手当てを行った。
「しっかり!」
ロナルド様の背に私の癒しの力を流し込む。ロナルド様の苦悶の表情が少し和らいだ瞬間。
「危ない!!」
ウィリアム様が私の作り出した盾を持ち、私達の前で赤黒い光線を遮っていた。
「くっ……!これは……っ」
ウィリアム様がその勢い少しずつ押され、その靴で足元の土を削る。
ウィリアム様が力負けしてしまう!私はありったけの癒しの力をロナルド様に注ぎ込むと掌を合わせた。
掌に白い力が満ちる。私が空へと力を放つと、たくさんの白い盾が私達の周りに降り注いだ。
『ガンガンガンガンガンガンガンガンガン』
それは壁の様に私達を取り囲んだ。
「ロナルド大丈夫か?」
ウィリアム様がロナルド様の肩に手を置く。
「あぁ……大丈夫だ。流石に痛かった」
ロナルド様は一瞬顔を顰めたがウィリアム様の手を借りて直ぐに立ち上がる。
「この壁もきっと長くはもちません。手だてを考えなくては」
私の言葉に皆黙り込む。圧倒的な力の前で私達は成す術を見失っていた。
「さっき槍を折っただろう?あの力は?」
ロナルド様に尋ねられたが、私も上手く答える事が出来ない。
その間も魔王の手や目から放たれる光線に壁がボロボロと崩れ始める。
「分かりません……無意識で。ロナルド様が攻撃されたのを見て力が入って……」
「そうか……あぁ、壁が……クソッ急がなきゃな。もうこの壁も無理みたいだ」
ロナルド様が舌打ちする。
私はその間もずっと、ウィリアム様、ロナルド様、ディグレの三人に手を翳し続けた。
「無理すんな」
ロナルド様が私の手を掴む。
「クラリス……君はずっと力を使い続けてるが、大丈夫なのか?」
ウィリアム様は不思議そうに私に尋ねた。
「大丈夫です、夜なので。なんてったって魔女ですから」
私がにっこりと微笑むとウィリアム様は少しバツの悪そうな顔をした。
「あの時はすまな……」
ウィリアム様が謝罪を口にしようとしたその時、
「キャーーーーー!!」
と絹を裂くようなアナベル様の叫び声が聞こえた。