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第68話

魔王はそれを一つはヒラリと躱し、一つは掌から放たれる光で消失させる。


徒労に終わろうとも、私はこの手を休めるつもりはない。腕が痛む。手が震える。しかし、私は矢を放ち続けた。

時に魔王の放つ赤黒いが私の結界を破る。ディグレも同じだ。私は二人に何度も何度も結界を張りながらも休まず矢を放つ。しかし魔王にはかすり傷一つ負わす事も出来ない。何と自分は無力なのだろうと思い知った瞬間だった。


矢を放ちながらチラリと剣を取りに行った二人に目をやる。その様子がどこかおかしい。二人は瓦礫の下を懸命に探している様だ。扉となる岩壁が崩れ落ちた時、剣はその姿を隠してしまったのかもしれない。


ふと、魔王が私から目を逸らす。ロナルド様とウィリアム様の二人の姿を魔王の視線が捉えた。

二人に向けて魔王はゆっくりと旋回した。魔王の背が私の視界に入る。


今だ!私は両方の掌を合わせ、力を貯める。腕が痛い。しかし今はこの腕がどうなっても良い。

掌が熱い。私は大きな光の弓を作ると、ありったけの力で引いた。


魔王は彼等二人に掌を向ける。剣を必死で探す二人は気づいていないようだ。


(間に合え!!)

私が矢を放つのと、魔王が二人に攻撃したのはほぼ同時だった。


『ドカーン!』

『ズシャッ!!』

魔王の放った赤黒い光は瓦礫ごと二人を吹っ飛ばす。それと同時に私の矢は魔王の背に深々と突き刺さった。

魔王が纏ったオーラが変わる。


(不味い!)

魔王の背中の一部が黒い霧となる。サラサラと風に舞う黒い霧。が、それと同時にその部分がみるみる元へと戻っていった。


やれたと思った。今度こそ手応えがあったはずなのに……しかしそんな事を考える暇もなく、魔王は私に向かい大きく口を開いた。

黒くまるで闇の様な口から『ゴオオオオ』と音が聞こえる。私はディグレを背に隠し力の限りの結界を張る。魔王の口から出た真っ黒な光線が私達を襲う。


魔王の怒りを纏ったその光線は私達を結界ごと吹き飛ばした。


『グシャッ』

吹き飛ばされた衝撃で結界は破れ、私達は岩へと打ち付けられた。


「うっ…………」

『グルルルル………』

「ディグレ!」

私と共に吹き飛ばされたディグレが苦しそうな声を上げた。私は急いでディグレに治療を施す。


すると魔王が空から降りてきて、ゆっくりと私達の方へと歩いて来た。

私はディグレに強く結界を張る。


『もう終わりだ』

魔王の声が頭の中に響く。

私は立ち上がる。体中が痛い。魔王は先ほどの私の攻撃ですっかり目の色が変わっていた。もう本当にこれで終わりなのか……


諦めそうになったその時、

「うぉーーりゃあ!!」

魔王の背後からロナルド様が走り込んでその背中を斬りつけた。


魔王はロナルド様に斬りつけられながらも、その大きな腕でロナルド様を吹き飛ばす。


「うぁぁぁ!」

吹き飛ばされたロナルド様の手に、二つの剣がある。私はそれをしっかりと目の端に入れていた。


あれは……聖なる剣!!

ロナルド様は吹き飛ばされながらも、聖なる剣を私の方へと投げた。剣が地面に転がる。私はそれに向かって駆け出した。


『させるか』

魔王の声が聞こえる。魔王は地面に転がる聖なる剣目掛けて掌を向けた。

私の手と、魔王の光線が交差する。


「うっ!!」

手の甲に痛みが走る。光線が私の手をかすめていたが、聖なる剣は私の手にしっかりと握られていた。走り込んだ勢いのまま、私は地面を転がった。

直ぐさま私は立ち上がる。もう体が悲鳴を上げていた。しかし、聖なる剣を手にした瞬間、私の月下美人の印が熱を持った様に熱くなる。


熱い……体が燃えてしまいそうだ。

だが、それに伴い力が漲ってくるのを感じた。


……この剣をどう使えば良いのだろう。私は自分に結界を張りながら、封印の扉があったと思われる瓦礫の元へと駆け出した。


聖なる剣の力のお陰か魔王からの攻撃にも結界は破れない。魔王は少し焦った様に私への攻撃を止めなかった。


「ハァハァ……ウィリアム様!」

さっきの魔王の攻撃で吹き飛ばされたウィリアム様が倒れている。


ウィリアム様にも強く結界を張り、彼に手を翳した。ロナルド様の様子も気になるが、今、彼の元へと向かうその暇もない。


「ウウッ……」

ウィリアム様の瞼が震える。


「ウィリアム様!!大丈夫ですか!?」

魔王は一旦攻撃を止め、今度はまた空へと舞い上がった。私はそれを見上げる。魔王は何をするつもりなのか……。


「ク、クラリス……」

ウィリアム様の震える声が聞こえ私は彼に視線を向ける。


「ウィリアム様、ご無事ですか?」

「あぁ……剣は……」

「此処にあります!」

私は自分の手に握られた剣をウィリアム様に差し出した。しかし、ウィリアム様は苦しそうに、


「封印の扉は全て壊されている……」

そう言って、眉間に皺を寄せギュッと目を閉じる。


「では……魔王を封印する事は……」

「出来ない」

目の前が暗くなる。


ウィリアム様は地面に手をついて何とか体を起こした。しかしその顔には絶望という二文字を張り付けている。


「もう……本当に終わりだ」

ウィリアム様は何とか立ち上がるが、その瞳は虚空を眺めていた。



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