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第14話 不穏な気配

 次の日になってコルクは朝食を食べると【別にうちはダーのもんは取らんから安心しぃや?】と言い残して帰って行った。

これで暫くはいつもの日々に戻ったんだと思う……何で思うかって言うとやたらダートがぼくの事を気に掛けてくるようになったからだ。

コルクが家に泊まった時にいったい何の話を二人でしたのかはわからないけど……常に視線の範囲に居る気がするし、新術の開発中も何故かぼくの部屋に入って来て隣に黙って座っている。

視線に入るだけならぼくの勘違いで良かったのだけれど、こんなあからさまな態度がこれもう三日も続いているとなると気になってしょうがない。

まぁ……新術の開発は無事に終わったから良いけど終わらなかったら今頃不機嫌になっていただろうけど……ぼくがいったい何をしたというのか。


「ねぇダート……ぼく何かしたかな?」

「いえ?何もしてないよ?ただ私が近くに居たいなーって思っただけ」


 近くに居たいって言われても一緒に住んでる以上常に一緒に居るような物だろう。

診療所に来た村人達の診察をしている時も同じような態度をするせいでこのままでは在らぬ疑いを掛けられそうで気まずい物がある。

これは早急に何とかしないといけないのかもしれない。


「流石に用が無いのに近くに居られるのは気まずいというかさ……ダートが逆の立場に立ったら嫌じゃない?」

「私は別に嫌じゃないよ?……でもレースが人の気持ちを慮ろうとするなんて珍しいね何があったの?」


 これはダメかもしれない、コルクを相手にしてるのとは違う意味で面倒な気がする。

幸い今日は診療所を閉めてるから誰にも見られる事は無いけどこれが見られていたらと思うと暫く村には行けないだろう。

……とは言えもうそろそろ開拓に同行しなければ行けない時期だ。

一週間前後と言っていたからそろそろ誰かが迎えに来てもおかしくない。

そんな事を思っていると玄関のドアを勢いよく叩く音がした。


「レース先生っ!迎えに来たっすよー!ケイっすー!アキ先輩と幻鏡もいるっすよー!」

「来たみたいだね。ダート準備は出来てるし行くよ」

「うん、レースは決して前線に出ないでね?あなたの事は私とコーちゃんが守るから」



 ダートに守られるよりも守りたい……けどそれが出来ないのがもどかしい。

そんな思いを抱きながら迎えに来た3人と合流した。


「詳しくはコルクさんにお聞きしましたので私とケイも彼女の指示に従わせて貰いますので、本日は宜しくお願いします。」

「って事で早速新たな開拓の地に行くっすよー!いやぁまだ見ぬ冒険心躍るっすねぇ!」

「ちょっ!あんた……勝手に行くのやめーや!」

「なんか統率が無いね……」

「レース、気にしないで行こう?私とコーちゃんがいるから大丈夫だよ」


 そんな賑やかな雰囲気を出しながらぼく達は目的の場所に向かう事になった。

村の開拓地に向かって進む中で見知った顔や見知らぬ顔を見かけるけど特に仲が良い人はいないので挨拶する事もなく進んで行く。

ダートからは村に定期的に出て皆と仲良くしろと言われてはいるけど正直距離感が分からないからどういう話をすればいいのか分からないし、ぼくが話しかけると相手が何故か警戒される事が多い。

何でか悩んでいたら、マローネさんに呼び止められ話して見るとどうやら無意識に人の地雷を踏むヤバい奴だと思われてるらしくて大変不服な思いをさせられた。


「アキさん、ここが合流場所でええんかー?」

「はい、問題ありません。……ケイ?今日は静かにしていてくださいね?」

「……わかったっす」


 どうやら着いたようで周りを見回すと木を切る為の刃物や安全に根っこを取り除く魔導具等を持った作業者に護衛だろうか、様々な武器を持った人達や魔術師の得意属性を洗わず様々な色のローブを着込んでいる集団が見える。

その中の一人と眼が合うとぼくの事を睨みながら近づいて来た。


「てめぇ……俺が誘うと来なかった癖に他の奴が誘うと来るとは良い度胸してんじゃねぇか」

「……すいませんどなたですか?」

「なっ!ふざけんなっ!」


 この人は誰なんだろう……目の前で肩を震わせて怒りを抑えてるようだけど全く持って身に覚えがない。


「レース、先週私達を誘いに来た人じゃない?」

「……あぁ、すいません忘れてました。あの時は失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」

「え?おっおぅ……忘れてると言ったと思ったら急に思い出して謝るとか何かめんどくせぇやお前、もういいよどっか行っちまえ……あっ!でもダートちゃんは置いてけよ?こんなかわいい子をお前に独り占めなんてさせねぇし!」

「……ごめんなさい。私はレースと一緒に居る方が幸せなので……」


 ぼくと彼が二人同時にダートの事を見る。

彼女はいったい何を言っているのか……全く持って理解が出来ない。

ぼくと一緒に居て幸せとか何を言っているのか……


「かぁっ!てめぇらそういう関係かよっ!……残念だけど諦めるしかねぇなこりゃ……村の奴等にも言っといてやるから精々幸せにやんなっ!」

「え?あのそういうのじゃ……」

「えぇ?お二人さんやっぱそういうのやったんー?コルク姉さん初めてしっ……あっぶないなぁっ!二人して石拾って投げんなやっ!!」

「ケイ……良かったですねあなた以外にもうるさいのが居たわね」

「あれと同列とか納得がいかないっすよ……まじで」


 在らぬ誤解を周囲に与えているような気がするけど反論しても面倒だしこれはもう黙っていた方が良い気がする。

それにしても周りの視線が痛い……どうしてぼく達をこんなにも見てくるのだろうか……。

やっぱり行かなければ良かったかなと思っていると森の奥の方から抜き身の剣を持った頭髪の無い男性が姿を現して勢いよく地面に武器を刺して威圧感を出す。

周囲の視線が彼の元に向いたのを見てから声を出し喋り始めた。


「この度は良く集まってくれたっ!貴君らの忠義に領主殿も感謝しておる事だろうっ!既に存じている物もおると思うが私は護衛隊隊長グランツであるっ!この度は良い話と悪い話があるっ!どっちから聞きたいかっ!」


 声を荒げ自己紹介と共に何やら大声で叫んでいるけど、正直どっちの話も興味が無い。

ただこの雰囲気の中でそんな事を言ったら話が進まない気がした。


「……剣を地面に突き刺すとか武器を大事に出来ない奴っすね……気に入らないっす」

「ケイ……静かに」


 小さな声で二人が何やら言っているけど、ケイの方で何やら気に入らない事があったらしい、防衛隊隊長と名乗った人の耳に聞こえてないのは良かったのかもしれない。

あぁいうタイプは怒るとめんどくさいタイプだろうし出来れば関わりたくない人種だ。


「貴様らっ!黙ってばかりで自分の意志すらないのかっ!なら勝手に語らせて貰うぞっ!まずは悪い話からだっ!新たな開拓予定地には手強いモンスターがいるがそこは貴様らも予想が出来ているだろうっ!だが、モンスター以外にも人型アンデッドの存在が確認されたっ!」


 アンデッドと聞いて周りがざわめき立つ。

モンスターは自然界で生まれた害を為す存在だけどアンデッドはそれとは違い生物の死体に死霊術と呼ばれる闇属性の魔術の中でも有名な禁術の一つだ。

生命を失った死者を強引に蘇らせている為、肉体の維持に魔力を必要とするのが特徴で生物の肉体を喰らい自身の身体に魔力を蓄える事で仮初の命の維持と進化を繰り返して行く。

必ず術者が居ないと発生しない存在な為、この森の奥には誰かがいるという事になる。


「落ち着けっ!まだ良い話が残っているぞっ!この度我々の努力で開拓が進み、その結果村の人員の増加とそれに伴う産業の発展という我々の成果が認められ村から町として認められることになった!」


 先に悪い噂を話してしまったから、誰も話を聞いてはいないと思う。

ただ……アンデッドの話を聞いてから二人の様子がおかしい……。

ケイはあの騒がしい雰囲気が鳴りを潜め真剣な顔をしているしアキは本を取り出し何かを確認している。


「先輩……団長の予想通りあいつここにいるみたいですよ」

「死人使いルード・フェレス……捕縛対象よね?」

「なぁ、それってどういう事なん?うちらは開拓に同行するだけだったはずなんやけど?」


……同行するだけでも不安要素しかないのに、モンスターよりも厄介なアンデッドの存在。

本当に大丈夫なんだろうかと心配になる。

何かあった時、ダートに暗示を使わせずに守り切る事が出来るだろうか……。

こうして不穏な気配を感じる開拓が始まった。


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