唐突だけど私は今広いお屋敷に一人放置されている。
何でかというとカルディア様とお話をしている時にいきなり警報のような音が鳴り響き、それを聞いた瞬間に柔らかい笑顔から一転し青褪めた顔になってしまった。
何か合ったのかと聞こうとしたら『直ぐに戻るからあなたはここで待っててちょうだい』と真剣な声で私に言うとそこに居た筈の人が魔力だけを残して消えてしまう……、多分魔術を使い何処か二転移したんだと思うけど……
「私はいったい何時まで待てば良いの?」
『魔導国家メセリー』についた時点で既に日が沈みだす時間だったから明日にしようと思ったけど、カルディア様の所に着いたら連絡を入れる約束をしていた以上は待たせる訳にも行かないだろうと思って宿も取らずに急いで彼女の元へ訪ねたけど、まさか用件を伝えて直ぐに放置されるとは思わなかった。
「かれこれもう一時間は経ってるけど、待っててって言われた以上は勝手に帰るわけにも行かないですしねぇ」
そう呟きながら彼女に用意して貰ったビスケットを口に運びながら、紅茶をゆっくりと匂いを楽しみながら飲む。
ビスケットに使われている優しいバターの味の後に、優しい香りの紅茶が口に入るとまるでビスケットを食べる為に作られたと言わんばかりの素晴らしい味になり舌が喜んでしまう。
「メセリーの治癒術師達を実際に見て私に足りない所を学んで来いと、父上に言われて研修に来たけど大丈夫なのかな」
私の父上は栄花騎士団で団長をやっている偉い人だ。
栄花では独自の騎士団と言われる組織があり、そこでは自国の警備や他国間での争いの仲裁等を行っていたりする。
それ以外にも世界を回って異常が起きていないかを監視する役割もあるけど、そこは父上と私よりも下の立場にいる最高幹部の人達の管轄だから私には良く分からない。
「それに何が問題かって副団長の私が栄花を留守にする事だよね」
栄花騎士団の団長や副団長は基本的に、
何でも遠いご先祖様が騎士団を作ったとかでその時に彼の血筋の者に継がせるように法を作ったらしい。
おかげで小さい頃から戦闘訓練ばかりやらされていい迷惑ですよ。
それにまだ十三歳の私からしたら副団長と言う立場にいるよりも友達と遊んだりしたいって気持ちの方が強いというのに……
「それにしても遅いなぁ……、急いできたから宿も取ってないから早く良い所探しに行きたいの……にぃ!?」
「あらぁ、そんなにびっくりされるとおばあちゃん驚いちゃうわぁ?」
何となく横を向いたらカルディア様がいつの間にか戻って来ていて隣に座っていた。
戻ってきたなら教えてくれたらいいのにって思うけどこの人には何を言っても無駄なんだろうなぁ……Sランクの人って基本的に変な人しかいないし。
「……ごめんなさい」
「いいのよぉ、それよりもカエデちゃんあなたを受け入れてくれる人が見つかったわよ?」
「……え?」
急に居なくなったと思ったら今度は受け入れ先が見つかったという……、カルディア様には悪いんだけど話の流れが速すぎて理解が追い付かない。
「そこは私の弟子でレースって言う子が経営してる診療所なんだけどね?最近患者の数が増えたらしくて忙しいらしいのよぉ、それでね?」
レース?何か少し前にその名前を聞いた気がするんだけど……、確かアキさんとアキラさんから心器の使用許可がどうのってあった気がするけど忙しすぎて曖昧なのよね。
あの許可には父上と私、そして最高幹部を合わせた十三人の内七人以上の許可が必要となる。
多分忙しすぎて、話を適当に聞き流しながら書類にサインをしてしまったのかもしれないけどあの二人の判断なら大丈夫だと思う。
「明日の朝に面接を受けて貰って、採用されたらその日からお世話になって貰うからいいわね?」
「え?明日からですか!?」
「いいわよねぇ?」
凄い圧力を感じる、断ったらお前分かってんだろうなと言う雰囲気すら感じる程に……、あぁこれ詰んだかもしれない。
父上、あなたはどうしてこんな恐ろしい人の場所に私を送ったのですか?目の前が真っ暗になりそうです。
「……はい」
「良かったわぁ、断られたらどうしようかと思ってたから嬉しいわぁ」
そんな事微塵も思って何ていなかった癖に……
「じゃあ今から一緒に転移するから、着いたらあちらで宿を取って明日直ぐに向かいましょうね?……荷物は後で持ってくるから一旦ここに置いて行くわよぉ」
「えっ……ちょっと待っ――」
……私の言葉を聞かずに転移の魔術を使い一瞬にして、お屋敷から自然豊かな町に移動させられる。
私の気持ち等考慮する気すらないのだろうかと思うけど、これはもう諦めた方がいい気がして来た。
そんな私の手を取って強引にこの町唯一の宿屋に連れられて行かれると二人部屋を取られてしまう。
これから私はいったいどうなってしまうんだろうか……不安しかない。
あぁ、ご先祖様私をお守りください。