カエデさんと一緒に朝食を作る事になったけど、殆んどの工程が済んでいる気がして手伝う事が無い気がした。
どうしようかなって思っていると作業の手を急に止めたカエデさんが私の方を向いて頭を下げる。
「えっと……、さっきは勢いでお姉様と言ってしまってごめんなさい、嫌じゃなかったですか?」
「え?」
全然気にしてなかったから急に謝られて困惑してしまう。
どちらかというと嫌って言う気持ちよりも可愛らしい子だなって思って微笑ましく感じた位かな。
「全然嫌じゃないよ?どっちかと言うと可愛い子だなっ感じたかなぁ」
「可愛いって……恥ずかしいです」
「恥ずかしいってなんで?」
恥ずかしそうに頬を染めたカエデさんを見て、本当にかわいい子だなぁって思う。
この子表情が直ぐにころころと変わって面白い子だとも思うけどその位の年齢の子って可愛いって言われるよりもかっこいいって言われたい気持ちもあると思うからもしかしたら、彼女はそういうタイプなのかもしれない。
「可愛いって言われるのは嬉しいんですけど……、えっと何て言えばいいのかな……あの」
「もしかしてかっこいいって思われたいのかな」
「……は、はい、こんな子供が何を言っているのかって思われそうなんですけど、子供っぽく見られてる気がして嬉しいけど恥ずかしいんです……、それならかっこいいって言われたいなって思っちゃいまして、あの……一人前の女性として見られたいという気持ちがあって」
私もそういう時あったなぁって懐かしい気持ちになる。
確か六歳位の頃だったかな、お母様のような美人でかっこいい女性に憧れて勝手にお化粧箱から口紅等を取り出して自分に使った後に満面の笑みで『あたくし、ぶじんでかっこいい大人のレディーよっ!』って【美人】を【ぶじん】と言い間違えてお父様とお母様の前に出て二人に大笑いされたのを今でも思い出せる。
その後も十歳位まではどうすればかっこいい大人の女性になれるのか必死に親の姿を見て勉強してたけど懐かしいなぁ……。
「そういうの分かるなぁ、私もカエデちゃん位の時って同じ感じだったなぁ」
「ほんとですかっ!?やっぱりそうですよね!かっこいい女性に憧れますっ!」
「憧れるよねぇ……、それなら今度時間を見つけてかっこいい女性に対してゆっくりお話ししよっか」
「はいっ!凄い楽しみですっ!」
本当にかわいい子だなって感じてついカエデちゃんって呼んでしまったけど本人は気にしてないみたいだから大丈夫かな。
そんな事を思いながら鼻歌を歌って料理を再開する彼女を微笑ましく見守るけど、いい加減私も何か出来る事をやった方がいい気がする。
「ねぇカエデちゃん、私に出来る事ってあるかな」
「出来る事ですか?正直お吸い物はもう出来てきますし、季節の野菜を使ったサラダも用意出来て後は魚の塩焼きですけどこれは骨を取り除けば後は焼いて終わりますから……嫌じゃなかったら私ともっとお話ししてくれませんか?お姉様の事もっと知りたいです」
「いいよ?、聞きたい事があったらそれなら何でも聞いて?」
「それなら何ですけど、お姉様の古郷って何処にあるんですか?栄花と似た文化がある国って五大国以外にあったかなって思ったんですけど、それ以外の国ってそれぞれの国から分かれて生まれたから文化はその元になった国基準なんですよね……。栄花から派生した国は無いですしもし新しい国が出来たりしたらデータベースに登録される筈なので私の頭に入ってる筈なんですよ」
魚の骨を手際よく取り除くカエデちゃんの質問を聞いて言葉が詰まる。
もしかしたらこの子は着物の時の発言からして栄花の上流階級の子なのかなって思っていたけどもしかしたらそれ以上の生まれなのかもしれない。
様々な国の情報等を知る権利がある立場となると特権階級?そうなら何となく彼女が何者なのか予想が出来てしまう。
……これは嘘を付いたり曖昧な言い方をする事が許されない相手だ。
「なので聞きたいのですが、お姉様は異世界から来た人なんじゃないかなぁって」
「えっ?なんで……」
「その何での問いに答える為には今から話す事を誰にも言わないと約束してくれるなら続きを話しますけどどうしますか?」
唐突に異世界と言う言葉が出て来て困惑してしまう。
この世界の人達からしたら他の世界がある事自体知らない筈なのにカエデちゃんは知っている。
どうして?わからない……なんで?って思うけど彼女が約束するなら話してくれるというからまずは表面上だけでも返事をする事にした。
「約束する……」
「私の事を信じてくれてありがとうございます。……これは異世界から迷い込んだ人に栄花騎士団の団長及び副団長の立場にある者のみが伝える事が許されているのですが、この世界は昔五柱の神様がいたらしいのですが、その方達が最初に栄花と言われる国を別の世界から切り取り転移させられたのがこの世界の始まりです」
「……神様がいた?世界を切り取った?ごめん良く分からない」
「でしょうね、でも今はそのまま聞いてください、その後北に極寒の国ストラフィリア、東に自然に囲われた小国メイディ、西に広大な海を持つ大国トレーディアス、南西に魔法や奇跡と呼ばれる術を使う者達が集う魔法国メセリー、南東に機械と呼ばれる未知の道具で繁栄した未知の文明を持つ国マーシェンスという五つの国が異世界から切り取られて無理矢理接がれて出来た歪な世界だったそうです」
「……だった?」
確かにこの世界は異世界から来た私から見ても違和感を感じる事が多いけど昔はもっと歪んでいたという事なのかな。
「当時はそれぞれの国が独自の言語が話していた為まともなコミュニケーションが取れずに争いが起きる事が多かったそうなのですが……暫くして共通の言語が生まれたらしく争いは無くなりました、その後再び二つの異世界と繋がり戦争が起きたそうなのですが突如として現れた【シャルネ・ヘイルーン】と【キリサキ・ゼン】、【カーティス】いう三人の英雄の手によって神々が討伐され争いが沈められたそうですが、この三人のうち二人は現在も存命なのとこの世界のお伽噺で名前が出てくるので知ってる人は多いと思います……特に一人は行商人として世界を飛び回ってますから見た事ある人が多いですし」
「……それが私と何の関係があるの?」
「とりあえず『異世界から来た人たちにこの話をすると喜ぶ人が多いから伝えるように』って言うキリサキ・ゼンさんからの伝言ですね……、それでその人から世界の成り立ちを説明したらこれを言うようにと遺言が残されています」
「遺言……?」
「【いつか現れる異世界からの来訪者へ伝えたい事がある。元の世界に帰る事を願ってはいけない、どうかこの世界で幸せになってくれ】」
元の世界に帰る事を願ってはいけない?という事は……、あの世界に帰る方法があるの?、それを知ったら普通の人は願うなと言う方が無理だと思う。
私もお父様とお母様に会いたいし帰りたいって言う思いはあるけど、今の私にはレースがいるしコーちゃん達もいる。
少し前は戻りたいって言う気持ちがあったけど、彼が行きたいと言わない限りは戻りたいとは願う事はないんじゃないかなって思うけど実際に帰る方法を見つけてしまったら私はどうするのか分からない。
「……私にはレースがいるから元の世界には戻らないよ?」
「それなら良かったです……、お姉様はこの世界で幸せを見つけたんですね」
「うん、まぁ私がいないと人生詰みそうな位色々とダメな所が多い人なんだけどね」
私はそういうと自然と笑顔になった。
きっと彼に会う事が無かったら元の世界に戻る手段を探していたんだろうな。
それにしてもさっきの話の内容だとカエデちゃんって栄花騎士団の副団長さんって事になるよね。
何でそんな人がここに?って思うけどこの子が言うまで聞かないでおこう。
「それでも私がこの人が良いって感じた人だから後悔は無いよ……」
「……ほわぁ、大人だぁかっこいい」
カエデちゃんが憧れの人を見るような目線で私の事を見て来た。
……私も大人でかっこいいって言われる歳になったんだなぁって嬉しくなる。
「ふふ、ありがとう」
「お姉様は私の憧れの人になりました」
「憧れかぁ……、私なんかでいいの?って思うけどカエデちゃんならいいよ?」
「ありがとうございますっ!……所でお話しに夢中になってたらお魚少し焦がしちゃいました……」
「まぁ、少しなら大丈夫だよ、話し込んでたら結構時間かかっちゃったからリビングに持って行って皆で食べよっか」
「はいっ!」
……そう言って二人で朝食をリビングまで運ぶと、待ちくたびれてしまったのかソファーの上で横になり寝息を立てているレースがいた。
そんな彼を優しく肩をゆすって起こすと三人でちょっと遅めな朝ご飯を食べる。
ただレースの隣に座って食べている私達を眼を輝かせてみるカエデちゃんのおかげで食べづらかったのは内緒。