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第10話 忙しい一日

 何故約束をしていないのに家を訪ねて来たのか分からないけど何かあったのだろうか。

特に二人は会う度に言い合いの喧嘩になる事があるけど何故かその後一緒に食事に行っていたり、今一関係が良く分からなかったりする。

ジラルド曰く対等な立場で話し合いが出来る親友らしいけど、喧嘩する程仲が悪いのに友人関係が成り立つのだろうか……。


「二人共いきなりどうしたの?」

「診療所を町に移してから忙しそうだったからお前らの様子を見るついでに遊びに来たんだよ……、それに聞いてくれよレース、アキラが二人の事が心配だって気にしてたんだぜ?」

「貴様、余計な事を……、別に私は心配等していない、私も貴様等の様子が気になっただけだ」

「だからそれを心配してるって言うんだろ?いい加減素直になれよ」

「……貴様のそういう所が私は嫌いだ」


 また始まった……しかも玄関の前で、喧嘩をするなら他所でやって欲しいけど折角来てくれたんだから家に上がって貰おうかと思っていると、戻ってこないぼくの事が心配になったのか、ダートがリビングの方から様子を見に来る。


「レース?戻って来ないけど誰が来たの?」

「おぅ、ダート久しぶりだな元気してたか?」

「ジラルドさんにアキラさんお久しぶりです。忙しいけど元気ですよ」

「それなら良かった、聞いてくれよ、こいつさぁダートとレースが最近忙しそうなのを見て心配してるんだぜ?いい奴だよなぁ」

「…もういい、心配は確かにしていたが当然だ、それにレースは私の弟子のような者だから気にして当然だろう、更に言うなら弟子の想い人であるダートの事も気にするのは当たり前だ」


 ジラルドが近くにいるとアキラさんは本当に良く話すようになる。

でも今回言ってくれた内容は嬉しい事ばかりで、雰囲気は冷たいけど本当に良い人だなって思う。


「とりあえずアキラさんにジラルド、玄関の前でずっと立ってるままも何だからリビングでゆっくりしてってよ」

「……それならお言葉に甘えて上がらせて貰おう、靴を脱いで寛ぐ事が出来るのはここくらいだからな」

「じゃ、お邪魔させて貰うわー」

「お二人共ゆっくりしていってくださいね」


 ダートがそういうと二人は靴を脱いで靴箱にしまい家の中に入って行く。

二人をリビングへと案内するけど、もし彼等がいる間にカエデが帰ってきたらアキラさんはどういう反応をするのだろうかと気になってしまう。

栄花騎士団の最高幹部と副団長と関わってる時点で何ていうか凄い体験をしているような気がする。

そんな事を考えて居るとジラルドがソファーに我先にと座り寛ぎ始めた。


「貴様は少しは遠慮くらいしたらどうだ……」

「そんな事言うなよぉ、なぁレースもそう思うだろ?」

「ジラルドは遠慮って言葉を覚えた方がいいと思うけど?」

「まじかぁ……、次から気を付けるわ」


 ジラルドがぼくとアキラさんに言われて反省しているみたいだからきっと大丈夫だろう。

彼は人が少しでも嫌だと伝えたら次から気を付けてくれる人だから信頼しているけど、そんなぼく達のやり取りを見て微笑まし気にぼくの隣で笑っているダートはどうしたんだろうか……


「あぁ、そういえば遊びに来たついでに話があるんだけどさ」

「話ってどうしたの?」

「ちょっと明日からミントの実家に顔出しに行くから暫く町から離れるからレースの護衛出来なくなるんだわ」

「貴様、私にも言ってない事を今ここでいうか、俺達の間では隠し事は無しだと言っていたのはどこのどいつなのだろうな……、とはいえ顔出しに行くというが幻鏡の実家と言えば西の大国【トレーディアス】の王である、商王クラウズなのだろう?……死にに行く気か?」

「言おうと思ってたけど、最近毎日のように心器の習得を目指した訓練やらされてたせいで中々言う時間無かったんだって、俺以外は全員出来るようになったのに俺だけ使えないって悔しいから付き合ってくれって頼んだ俺が言うのも変だと思うけどさ、さすがにあそこまで疲れてたら言おうと思っても無理だろ……、そこんとこ言うのが遅れてほんとごめんっ、でも別に死にに何て行かねぇよ!?、ほらあいつと婚約した以上はご両親にしっかりと挨拶したいからさ、頑張ってみようかなぁって」


 確かコルクはトレーディアスの王家の出で、冒険者のジラルドと親密になったけど当時王様に反対されたからと駆け落ちしたって言うのは以前人伝に聞いた事あるから知ってるけど本当に大丈夫なんだろうかと心配になる。

これはぼくの想像になるけど何せ彼女は末娘だから、上にいるだろう兄や姉からも可愛がられていただろうし、両親からも大事にされていたはずだ。

そんな彼女が久しぶりに帰ってきて婚約者を連れて来ました何て言いだした日にはどうなるか何てさすがのぼくでも想像が出来てしまう。


「ジラルド、君との楽しかった日々は忘れないよ」

「いや、だから死なないって!ダートからも何か言ってくれよっ!」

「んー?私はコーちゃんから前もって聞かされてたから特に言う事はないかな、何か言うとしたら頑張ってねって事位かなぁ」

「知ってたなら教えてくれても良かったのに……」

「女の子同士の秘密を誰かれ構わず話す程私はお口が軽くないんですー」


 女性同士の秘密と言われたら男性陣であるぼく等は何も言えなくなる。

特にダートの場合は本当に必要な事なら話してくれるから、今迄黙っていたという事はジラルドが言うまで言わないでくれと多分コルクに口止めされていたんだろう。


「って事だから明日から暫く居ないけどさ、雑貨屋の方はお前らなら必要な物があるなら金を置いて行ってくれれば、合鍵渡しとくから自由に持って行って良いってミントが言ってたから鍵は後でダートが受け取ってくれよ、空間収納に入れておけば無くさないだろ?」

「合鍵ならこの前預かったから大丈夫だよ?」

「……渡しとくってそういう意味かよぉっ!」


 ダートはそういうと指先に魔力の光を灯して空間を切り開いて空間収納を開くと中から鍵を取り出しジラルドに見せる。

いったい何時受け取ったんだろうなぁって思ったけど良く考えたら町の中に引っ越してから二人で良く出かけていたからその時に受け取ったのだろう。


「ジラルド……、これは私の助言なのだが、ここで遊んでるよりも帰った方が良いのではないか?」

「来たばかりなのに帰らなきゃいけないとかまじかよ」

「ジラルドさん、私からも帰った方が良いと思いますよ?コーちゃんから事情を聞いてるから言いますけど、一度駆け落ちして出て行った実家に帰るって凄い勇気がいる事で正直言って凄い不安だと思うんです、そんな大切な人をあなたは一人残して遊んでていいんですか?」

「……わりぃ俺が間違えてたわ急いで帰るわ……、アキラにダート色々と言ってくれてありがとうなっ!レースも来たばっかなのにごめん!あっちから帰ってきたらまた顔出すわ!」

「気にしてないから別にいいよ……、気を付けて行ってきなよ?」


 ジラルドは急いで玄関に向かうと靴を履いて出て行きドアが閉まると同時に扉が下の診療所から階段を上がって居住スペースにカエデが上がって来るのが見える。

話に集中していて帰って来ている事に気付いてなかった。


「えっと、声の大きい来客の方がいらしたようなので下で待ってたんですけど……もう上がって来て大丈夫でした?」

「……まさか、何故あなたがっ!姫が何故ここに!?」

「あら?アキラさんじゃないですか……、最近本部に居ないと思ったらこの国に居たんですね」


……アキラさんがカエデの姿を見て驚きソファーから立ち上がると彼女の元に近づいて行く。

それにしても姫かぁ……、今日は朝からカエデが来て、その後に師匠とマスカレイドが戦ったり、午後になったらアキラさんとジラルドが来たと思ったらこれだ。

ちょっと一日が濃すぎる気がするけどこれ以上問題を持ってくるのは勘弁して欲しい。

そんな事を思いつつもどうせなるようにしかならないんだろうなぁって半ば諦めているぼくが居た。


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