カエデはアキラさんがこの町に居る事を知らなかったようで意外そうな顔をしていた。
心器を使う為には栄花騎士団のうち過半数以上の認可が必要だった筈だから彼女は把握していると思っていたんだけど違うのだろうか。
「……私がこの町に居る事は報告書に上げた筈だが?」
「多分、父上が私に連絡をし忘れたのでしょうね……、あの人結構いい加減ですから」
「またか……」
「でも何となく最高幹部の内の誰かが滞在しているんだろうなとは思ってました……、レースさんの心器を使う為の許可を出した以上は誰かが教える必要がありますし、その場合あなた達のうちの一人が来る必要がありますからね、でもアキラさんがいるのは意外でした」
「あの、階段の前で話すよりもリビングのソファーに座って話したらどうかな」
思わず意見を出してしまったけど階段の前というバランスを崩したら危ない場所にいるよりかは、安全な場所に座って話して貰った方が個人的には安心する。
ぼくの発言を聞いてアキラさんが珍しく申し訳なさそうな顔をしてカエデを見て口を開いた。
「姫、レースが言うようにソファーに座って話すとしよう」
「えぇ、そうしましょう?……後お願いがあるのですがここではカエデと呼んでください、ここにいる私は栄花騎士団とは無関係です、なので姫呼びも禁止させて頂きます」
さっきから姫って聞こえるけどいったい何なんだろうか、栄花騎士団副団長以外に何か秘密があるのかと気になるけど正直今日はもう色んな事が起こり過ぎているからいい加減にして欲しい。
「レースさん、何て顔をしてるんですか……」
「いやさ、副団長の次は姫って来たからどんな秘密が出てくるのかと思ったらいい加減にして欲しいなぁって」
「あぁ、それに深い意味はない……、団長の娘がまるでお姫様みたいに可愛いとある時最高幹部の仲間が言い出してな?そいつがカエデを見る度に姫と呼び続けていたら栄花騎士団の間で愛称として定着してしまっただけで特に秘密何てものはない」
「……私としては恥ずかしいので勘弁して欲しいんですけどね」
「周りに可愛がられている分には良いと思うがな」
アキラさんはそういうと懐からティーセットを取り出して、紅茶とミルクをカップに人数分注ぐといつものように瓶を取り出し大量の角砂糖を入れようとして横から取り上げられる。
「奥さんからいつも言われてますよね?体に悪いから入れるのは2,3個にしなさいって」
「だが……、これ位入れないと素材の味が活きないではないか」
「あなたのそれは素材の味を活かすのではなく殺すというんです……、言い付けますよ?」
「レースからもカエデに言ってくれないか?、これ位なら大丈夫だって」
「普通の人なら生活習慣病になってもおかしくない量を大丈夫というのは無理かなぁ……」
これに関しては正直奥さんの方が正しいと思うから味方になって庇ってあげる事は出来ない。
ダートも同じ考えなのか隣で頷いているけど、彼女は最近少し体系が丸くなって来たから心配だ。
この前眼鏡に付与されている鑑定の魔術で気になって見た事があるけど体内の筋肉量が大分減って変わりに脂肪が増えていたから運動不足なのかもしれない。
その事をどう伝えればいいのかと悩んでいたりするけど、女性に体系の事を話すのは大変失礼な事だって昔師匠に凄い怒られた事があるから言えなかったりする。
「レース?私の顔を無言で見続けてどうしたの?」
「いや、何となく見てただけだから何でもないよ」
「そう?ならいいけど、何かあったら隠さないで言ってね?」
「わかった、その時はちゃんと言うよ」
「アキラさん、夫婦というのはこうやってお互いに思い合う事だと思うんですっ!あなたはもう一人のお身体じゃないんですからちゃんとしてあげてくださいっ!」
ぼく達のやり取りを見てカエデが何か言ってるけど、めおとって本当に何なんだろうか。
ダートは何か顔を赤くして俯いてるから言われて恥ずかしいような事なのかもしれないけど気になってしょうがない。
「この事についてはぼくからも改めてしっかりとアキラさんに言っとくから今日はこれ位にしてあげて?」
「……レ―スさんがそこまではっきりと言うなら分かりました、でも今回だけですよっ!」
「わかった、次から気を付ける」
「とりあえずアキラさんが持っている角砂糖等の甘味料は今この場で没収しますから出してくださいっ!……一応ですけどこの町に居る間はあなたの体調管理は奥さんに変わってしっかりとやらせて頂きますので覚悟してくださいねっ!」
「ふふ、何かカエデちゃんってお母さんみたいだね」
ダートがそういうと今度はカエデの顔が赤くなる。
何ていうか彼女は表情豊かで微笑ましいなって思うけどそこまで忙しく感情が直ぐに顔に出てしまうのは疲れないのだろうか……。
「私はただ、副団長として団員の皆の健康管理をしっかりしなきゃいけない義務があるのでっ!そんなんじゃないですっ!それにこんなどうしようもない人のお母さんになんてなりたくないですっ!」
「散々な言われような気がするがまぁ良いだろう……、それよりも気になったのだがこの町に居る間というがどういうことだ?」
「それは私がこの診療所で働く事になったのでこれからここに住むんです」
「……レース、無いとは思うが姫に手を出したら最高幹部の全員が敵に回る事を覚えておけ」
「レースさんに何てことを言ってるんですかっ!彼にはダートさんっていう未来の奥さんがいるんですからそんな事はありませんし、相手が居る人とそういう関係になる気もないですっ!」
何故ぼくがカエデに手を出さなければいけないのか、ダートがいる以上他の人にそういう感情を抱く気はないし相手は一人で充分だ。
それにしてもアキラさんって割と身内には弱いんだなって感じて新鮮で面白い。
「それにアキラさん、レースがそんな事をしたら私が許さないから大丈夫ですよ、私以外の人をそういう目で見る事すら許す気はないので」
「……という事だから大丈夫だよ」
「貴様は何というか尻に敷かれてから少しだけ良い方向に変わったな……」
アキラさんにそう言って貰えるのは嬉しいけど、尻に敷かれてるって言われるのはちょっとだけ複雑だ。
何かそれって対等とは違う気がするからもっと自分の意見を言えるように頑張ってみようかな……
「レースさんはお姉様の為なら幾らでも頑張れる人なのでそういう所は尊敬してますっ!……そういえばアキラさん、ちょっと一度栄花に帰って持ってきたい荷物があるのでついて来て貰ってもいいですか?」
「……それは構わんが、ここからだと遠いぞ?」
「それなら大丈夫ですっ!この家から行けるので靴箱から靴を取ってついて来てくださいっ!」
「意味がわからんが……、取り合えずわかった、二人共これで失礼するぞ」
「はい、レースも喜ぶと思うのでまた遊びに来てくださいね」
……そういうと二人は立ち上がり玄関の靴箱から靴を取り出すと下の診療所へ降りて行った。
するとアキラさんが『まさか……、ここから副団長室へ飛べるだと!?』という驚いた声が聞こえたけど、ぼくも知らなかったら同じ反応をすると思う。
そんな事を考えながらダートの事を見ると何かを悩んでいるのか不安げな顔をしてる……いったいどうしたのだろうかと気になり理由を聞いてみようしたら『レース、ちょっと話があるんだけどいいかな』と彼女が不安げな声で語り掛けて来た。