目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話 もう一つの心器

 三人でリビングで座るとカエデが心器のガラスペンを取り出して空中に絵を書きながら心器の事について話を始める、とはいってももう一人のダートの事では無く、心器の扱い方についてだ。

特に最初に顕現させる場合は必要以上に魔力を使ってしまい欠乏症になってしまう事をカエデが一番最初に説明していたけど、既に経験済みだと聞いたらぼくの事を見て再び頭を抱えていた。


「レースさん、あなたが非常識なのは親子共にそういう人達なんだって割り切ったので別にいいんですけど、それで大切な人を苦しめるのはどうかと思いますよ?」

「あぁ、うんごめん」

「私に謝るんじゃなくてお姉様に謝った方がいいです」

「カエデちゃん、あれは私の事を考えてレースが必要な事だと思ってやってくれた事だと思うから大丈夫だよ?」

「……お姉様がそういうならいいですけど、次は同じ事をしないように気を付けてくださいねっ!」


 同じ事をしないようにと言われても、これから先他人の心器を顕現させる予定何て無いと思うけど、ジラルドに頼まれたらやる可能性はあるから気を付けよう。

とは言え彼は普段は集中力が欠けたりする部分や人としてどうなんだろうって感じる部分があるけど、いざ本番ってなるとスイッチが切り替わるタイプだから後は感覚次第じゃないかなぁ。

帰ってきたら上手く行っているか聞いてみようかな。


「後はそうですね、心器というのにはそれぞれ能力があります、例えば自身の能力を補助したりですね、私のガラスペンの場合は何処にでも文字や絵を書くことが出来ますが……それ以外にも魔術を使う場合の補助としても使えますね」

「補助って言うとどういうの?」

「それなら実演しますね、レースさんちょっとソファーから立ち上がって少し距離を取って貰えますか?」

「え?あぁうん、分かった」


 言われた通り立ち上がってソファーから離れると、空中に何かを書いてその上から土属性の魔術を使い玉のような物を放って来た。

慌てて回避しようして右に避けたけど玉も何故か同じ方向に飛んで来る。

これは当たったと身構えて眼を閉じてしまうけど、何時までも衝撃が体を襲う事が無くて困惑してしまう。


「あれ……?」

「こんな風に予めどういう風に動くのかと書き込んでその上から魔術を使う事で、書いた通りに動いてくれます、今回は対象に追尾して当たりそうになったら消滅するって感じですね」

「レースにいきなり魔術を打った時は驚いたけど、そう言う事なら最初から説明して欲しかったかも」

「お姉様、それだとレースさんが最初から当たらないと分かっているからリアルな反応が出来ませんよね?、こういうのは実際に知らないでやるからこそ、効果がより分かりやすくなるんです」

「……なるほど、ならしょうがないかなぁ、あ、てことはレースの心器にも何か能力があるの?」


 能力は確かにあるけど、ぼくの場合はどう説明すればいいのか分からなかったりする。

んー、何て言えばいいのかな、魔術の発動が早くなるとかそんな感じなんだけど、これを言えばいいのか……、取り合えず出来る範囲で説明してみよう。


「んー、例えば魔術を使う時に詠唱をしなくても、発動を早める事が出来るから無詠唱で術を使う時に、発動が早くなる感じかなぁ……」

「聞く限りだと地味だけど、それって初級魔法だと止まる事無く打ち続ける事が出来るし、上級とかになると発動までの時間が短くなればなるほど有利になるから良い効果だね」

「……これは色々と戦術に幅が広がりそうですね、特に雪の魔術となると使い手が非常に少ない為未知な部分が多いですし、そういう面でも相手から見たら知識に無い術を即座に発動する事が出来るというのは素晴らしい能力だと思います」


 言われて見ると確かにそうかもだけど、ぼくが今使えるのは雪の壁を作って防りを硬くする事と、地吹雪を起こす事、後は相手の頭上に水分を大量に含んだ雪の塊を落とす事位だ。

アキラさんからは最初はそれだけ使えればいいって言われてはいるけど、ぼくの中の魔術って師匠を見て来たからか、派手な上級魔法を何個も並べて一斉に放出するイメージがある分、ぼくも雪で派手な魔術を使ってみたいなぁって気持ちがある。

例えば大きな雪崩を起こして見るとか……


「後は……そうですね、心器は例え手元から離れてしまっても顕現させる時と同じ要領で手元に戻すイメージをする事で転移させる事が出来ます、なので使い方次第では、武器を敵に投げつけて当たった瞬間に手元に転移させて怯んだ相手に切りかかるって言う事も出来ますね……、その場合は槍等の投擲に適した武器だとより効果的です……、お姉様、試しに昨日レースさんと一緒に心器を顕現させた時の感覚を思い出して手元に転移させてみてくれませんか?」

「う、うん、触るのが怖いけど……やってみるね?」

「怖い?……お姉様、確かに初めては怖いと思いますが、自分の中にあった物を外に出したようなもので、例えればもう一人の自分なので大丈夫ですよ」

「うん……」


 ダートはそういうと眼を閉じて意識を集中する。

……切り離したもう一人のダートを手元に転移させると、どうなってしまうのだろうかという不安がぼくにもあるけどきっと大丈夫だろう。


『大丈夫じゃねぇよっ!転移させるって事はまたダートと繋がるって事じゃねぇか、そうなったらこうやって別れたわけがねぇだろっ!』


 ぼくの中に声が聞こえるけど……、やっぱりそうだ。

これはまずいなと思って止めようとした時だった……、ダートの手元に全く違う形をした心器が姿を現す。

その姿は彼女の髪色と同じゴールドアッシュの刃に、淡褐色の持ち手を持つ短剣だった。

これはいったい……


「……あれ?、お姉様の心器はあそこにありますよね?、なのに何で違う得物が……?」

「私も分からない、かな」

「ですよね、心器は基本その人の心象風景を具現化しこの世に顕現させる物です、なので一つしか持つことが出来ない筈なんですが……」


 二人が困惑している、それはそうだろう、カエデが言うように基本一つしか持つことが出来ない筈なのに何故かダートは二つ目を顕現させているというのは、どう見ても異常事態だ。

こんな時どんな反応をすればいいのか分からないから黙っていると……


「とりあえず、この事について判断のしようがないので、ダートさんを連れて今から栄花騎士団の本部に来て頂きたいのですが……レースさんはどうしますか?」

「それならぼくも行くよ、彼女の傍にいたい」

「ごめんね、今回はちょっと一人でいいかな……、多分だけどもう一人の私と魔力の波長が繋がってるんでしょ?」

「……気付いてたんだね」

「そりゃ気付くよ、今迄聞こえていた声が聞こえなくなった変わりに、こうやって三人で話してる時でもたまに誰かの声を聞いてる仕草をするんだもん……、だからさすがに分かるよ、その子は今迄私の中に居てくれたんだから、だからさ彼女の事お願いね」


……そういうとダートは立ち上がり、カエデと一緒に下の診療所に降りて行く。

その時にカエデから『お姉様の事は、私達が責任を持ってお守りするので安心してください』と言ってくれる。

多分アキラさんから昨日色々と聞いたんだろうなと思いつつも、あそこにはアキさん達がいる筈だろうから大丈夫だろうと思って二人を見送る。

それにしてももう一人のダートの言葉に反応しないように気を付けてたのに気付かれてた何て、余程ぼくは顔や行動に出やすいんだろうなと思いつつ彼女の前では隠し事何て出来ないやと思うのだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?