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第間章 死滅の霧と囚われの姫 コルク視点

 うちは何をしてるのだろうか、彼は無事だろうか、そんな事ばかり考えてしまう。

不安だったけど勇気を出してジラルドと一緒に国へ戻って、父親に挨拶をしたけどいきなり拘束されて……


「何で会った事無い人と婚約させられなきゃならないんやろうね」

「それはあなたが王族だからじゃない?」

「だからってなんでうちがストラフィリアの王子、しか十歳の子供と結婚しないといやないんやっ!」


 声を荒げて部屋の掃除をしてくれている女性に八つ当たりをしてしまうけど、彼女は心底どうでもいいという顔をしてうちを見る。

なんなんこいつ、いきなり城に現れたと思ったらこうやって世話をしだしたり意味が分からないんよ。


「……そう言われても困るわよ、私はただこの国に仕事をしに来ただけだもの」

「んで、スイさんは何で仕事っていいながらなんでうちの世話を焼いてるんよ……」

「何でって……、それはほらあなたの事がほっとけないからよ」


 ほっとけないという理由だけで何でこの人はここまで助けてくれるんかな。

ジラルドが処刑されて死んだと聞かされた時に現れて、彼女が彼の命を救って逃がした事をうちを告げて来た時には驚きすぎて涙が引っ込んでしもうたけど、その後の発言に言葉を失った。


『事情があって仕事を探しに来たの……、あなたの元で働かせてくれない?、あなたの大事な婚約者を助けたんだから良いよね?』


 うちに恩を売る為だけに城に入りこんで周囲を無力化した後にジラルドを助けて脱出させたんか……ってあの時は思ったけど、現に今は真面目に私の世話役として働いている。


「なぁスイ、そろそろ本当の事教えてくれへん?」

「ほんとの事?」

「あんたの事うち知っとるんよ?、指名手配されてる元Aランク冒険者だって」

「まぁ、知っとるも何も隠して無いですし」


 顔色を変える事もなく言うスイを見ると何ていうか自分のペースを崩されてしまう。

いつもならここでふざけたりするけど彼女の前でだとそれすら出来ない息苦しさがあるから嫌になるんよ。


「まぁ、とは言え何だかんだこの一カ月間、毎日お世話をしてるしあなたになら教えてあげてもいいわ?、でも教える代わりになんだけどお願いを聞いて欲しいの」

「……ん?出来る事ならやるから言うてみ?」

「この国にはどんなに重傷を負ったとしても、例え死んだとしても蘇らせる事が出来る奇跡の担い手がいるでしょ?私をその人に会わせて欲しいの」

「それってこの国に滞在している教皇の事やろ?……んな人に会わせて欲しいって何かあったん?」

「実は私の父が重傷を負って機械に繋がれてないと生きれない体になってしまったの……」


 なんやいきなり話が重すぎひんか?、これってもしかして聞かない方が良かったかもしれない。

そんな事を思っても時は既に遅かったようで、スイの口からはどんどんと言葉が溢れて来る。


「最初はね?機械に繋がれて生かされている父でも、生きていてさえいれば良いと思ったけど、幾ら話しかけても応えてくれない、笑顔で今日会った事を面白楽しく語ってくれない日々を過ごすうちにどんどん寂しくなってね?……魔が差してしまったのよ」

「魔が差したって……、何をしたんよ」

「マーシェンスに滞在しているSランク冒険者、【黎明】マスカレイドの元へ行ってお願いしてしまったの、私のお父さんを元に戻してって……そうしたらさ」


 顔を両手で隠して嗚咽交じりの声を出し始める姿に思わず困惑してしまう。

いったいスイに何がおうたんか……


「彼はこういったのよ【その願い俺の夢の為に叶えてやる、施術の為に二日程父親を預からせて貰う】って、最初はそれでお父さんが元気になると思ったよ、でも言われた日が過ぎて帰ってきたら……そこにはお父さんはいなかった」

「……いなかったってどないしたんよ」

「厳密にはお父さんだった物はあったの、頭部だけ謎の液体に浸けられていてそこから無数の配線が繋がっていてね?マスカレイドが、配線を投射の魔導具に接続するとお父さんの姿が現れて淡々と繰り返しこう言うの『お願いだ殺してくれ、もう眠らせてくれって』、正直何が起きたか分からなかったけど、言葉を失っている私に彼がこう言ったのよ『貴様の父は新たな技術の礎となったが変わりに心が死んでしまった、だが俺が生きている限りこいつは永遠に生き続ける、ただ……貴様が俺に力を貸すというのならちゃんと元に戻してやると約束しよう』って……」

「あんなそれって……」

「えぇ、私はマスカレイドに騙されて利用されているのよ……、でも二ヵ月程前に彼の協力者を名乗る金髪の少女が私を訪ねて来てこう言ったの『トレーディアスの首都に滞在中の教皇に頼めばお父さんの身体を治せるよ』って、そしてこの国に来たけど教皇に合う為には、教祖の許可か商王の許可どちらかが必要って言われてね、どうしようかと悩んでいたら目に入ったのよ、誘拐されていたミント姫が救出されて戻って来たという新聞とそこに書かれていた『王女を守る為に実力のある従者を求む』、これだって思ったよね、ここから徐々に商王の信頼を得て許可を得ればいいって」


……そういう言いながらスイが近付いてくると、椅子に座っているうちの顎に細くて長い指を添えて顔を彼女の方に向かせてくると眼を合わせて見つめて来た。

そしてゆっくりと口を開いたかと思うと『だからお願い……、私とお父さんを助けて?』と切なそうに言葉にする。

うちは……、どうすればええん?助けてよジラルド、隣にいてよ。

先程の話を聞いて恐怖に震える身体を両腕で抱き締めながら、今は会えない彼に助けを求めるしかなかった。

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