宿について夕ご飯を食べた後、特にやる事が無かったから体に良くないと分かっていたけど、久しぶりの寝不足が思いの外辛くてそのままベッドに横になってしまい……、気付いたら朝になっていた。
「……これは凄い痛い」
横を見るとダートの幸せそうな寝顔が見える。
普段も可愛い顔をしていると思っているけど……、寝顔すら可愛いのは反則だと思う。
ただそれは良いんだけど、何故かぼくの左腕は彼女によって関節技を決められていた。
それにしてもいつからこんな事になっているのだろうか……、抱きしめるようにして締めあげられている腕は痺れ過ぎて既に感覚が無い。
「ダート?ねぇ……腕痛いんだけど」
「んー……」
起こして拘束を解いて貰おうとしたら余計に力が強くなったのか……、腕が更に悲鳴をあげる。
これはまずいかもしれない、どうしようかと思っていると……
「おめぇら朝からいちゃついてんじゃねぇよ……、急いで来た俺がバカみてぇじゃねぇか」
聞いた事が無い声がする。
この部屋にぼく達以外の人がいる?驚いて顔をそっちに向けるとそこんみは、プラチナブロンドの髪をポニーテールにしている水色の瞳を持つ少女の姿があった。
「よぉっ人の姿では久しぶりだな」
「えっと……、誰?」
「わりぃ分かんねぇよな……、ダリアって言えば分かるか?」
「えっ!?ダリアって……あのダ……って話をする前に助けて欲しいんだけどいいかな、このままだとぼくの左腕の関節がもう一つ増えてしまいそうだから」
「お、おぅ……ちょっと待ってろ」
彼女は指先に見た事が無い色の魔力の光を灯すと空間を切り裂かずにぼくの身体を床に転移させる。
……いったい何をされたのか原理が分からない。
「今のは……?」
「時間を止めて拘束を解いた後にお前を床に蹴り落とした」
「時間を?」
蹴り落としたのはどうかと思うけど、それ以上に時間を止めたという方が問題だ。
時を止める魔術……、昔マスカレイドに魔術に関しての話をされた時に失われた術があると言っていたのを思い出した。
『時空間魔術』……、それは世界そのものに干渉して時間の流れを変える事が出来、術者の実力次第では他の世界へと繋がる門すら想像する事が出来たらしい、彼は当時魔導具の力で再現しようと必死になっていたっけ。
「おぅ……、それよりいつまで床で寝てんだ?さったと立てよ」
「あ、うん……」
床から起きて立ち上がり部屋にあるソファーに座るとダリアも対面に座る。
それにしても何か、何処かで見覚えのある服というかなんというか……。
「お?何じろじろ見てって……、あぁこの服かおめえの昔の服を貰って勝手にアレンジしたんだわ」
「……昔の服ってあれかぁ」
師匠からその年齢になったら使うようにと用意された衣装棚があった記憶があるけど、正直身長が伸びるのが早かったせいで着る事が出来なかった服達だ。
きっとダリアに着て貰えて服も喜んでいる事だろう。
「で、俺がここに直接転移して来た理由について話してぇんだけどいいか?」
「うん、気になるから知りたいかな」
「おぅ、まず予備の通信端末をとある人が解析してここにいる事が分かったから飛んで来たんだわ……」
「とある人……?師匠じゃないの?」
「あぁ、ばあさんなら魔力欠乏症で動けなくなって寝込んでるから変わりの奴が力を貸してくれたんだよ」
師匠が魔力欠乏症……、いったい何があったんだ。
それに変わりに力を貸してくれた人で師匠の力になれる人となると……まさか?
「……もしかして魔王様?」
「お、おぅ……、知ってんのかよ」
「うん、師匠が定期的に魔術の指導と評して新術を覚えさせるという無茶振りをされてた人だから、会った事無くても知ってるよ」
「へぇ……、なら隠す必要ねぇか……、俺はその魔王様に助けて貰ってここに転移して来たんだけど、なんつーかなその前に『メセリーの国民として登録する為に血と魔力を登録する』って言われてな?言いづれぇんだけどさ」
そう言えばダリアがさっきからぼくの名前を呼んでくれないのはなんでだろうと思っていると、彼女が顔を真っ赤にしてこっちを見る。
血と魔力を登録する事でその人の個人情報を国に登録するのは当然の事だけど……、それがどうしたんだろう。
「……様子がおかしいけどどうしたの?」
「あ、えっとそのだな……、おめぇとあいつのな?」
ぼく達がいったいどうしたというのか……、ダリアは何度か口をパクパクとさせて言い辛そうにしているけど余程深刻な事なのだろうか。
「……子供って事になった」
「ん?、今なんて?」
「だぁかぁらぁっ!おめぇが俺の父親であいつが母親として登録されたって事だよっ!」
「あぁそっか……、そうなるのか、血と魔力からその人の血縁が分かってしまうからそうなるのか」
……この世界では誰の子供か血の中にある遺伝子と、受け継いだ魔力の性質で分かるようになっているらしいけど、専門外の知識だから詳しくは分からない。
でも確かにぼくとダートの一部から作られた身体ならそうなってもおかしくないだろう、
そんな事を考えて居ると目の前のダリアが引き攣った顔をしてぼくの方を見る。
いったいどうしたのだろうかと思うと、後ろから感情を感じさせない無機質な声で『レース?その子、あなたの子供って言ってたけどどういうことなの?ねぇ?』と囁かれる。
驚いて後ろを振り向くとそこには、眼に涙を浮かべたダートの姿があった。