ヴィーニ王子のあの顔を見て思うけど、彼は自分の思い通りにならない事が嫌な性格をしているのかもしれない。
でもぼくをストラフィリアに連れて帰って何をしたかったのだろうか……、考えては見たけど少しも分からなかった。
「確か君はジラルドと言ったかな、何故生きているのか分からないのだが丁度良い、大事な話をしようじゃないか」
クラウズ王は玉座からたちあがると、笑顔でそう言いながらこちら側に近づいてくるけど、その姿はまるで先程のやり取りの事を既に忘れているかのようで何とも言えない気持ちになって来る。
「えっと……」
「普段通りの口調で構わんよ、今は公の場ではないのだからな、お主らも自由に話すが良い」
自由に話すが良いって言われても……、もしかしてさっきまで喋ってはいけなかったのだろうか。
皆が黙っていたのを見て周りに合わせていた方がいいのかもしれない気がして、声を出さないようにしていたけどそういう作法があるなら知っておきたかった。
「なら聞きたいんだけどさ、どうしてミントはさっきから喋らないんだ?」
「それは儂が謁見の間にいる間は何があっても動かず、そして声を出すなと言ったからだな、では次はこちらの話をしようではないか……、どのようにして生き延びたのかは分からぬが何故再び命を捨てに来たのだ?」
「捨てに何て来ていないぜ?……、俺は俺の女を迎えに来たんだよ。婚約の挨拶をしに来たらいきなり掴まって処刑までされるそんな危ない王様がいる国に未来の嫁を残して行く分けねぇだろ?」
「なるほど、ジラルドよ、お主の言いたい事は理解出来るが……、平民が一国の姫を娶る事の意味を正しく理解しているのか?」
「理解って……、出来てるからあの時ミントと駆け落ちしたんだよ」
「そのおかげで当時大きな騒ぎになったが……、儂や王子達はあの子らしいと笑ったものよ」
当時を懐かしむように眼を細める王様の姿を見て、いったい何を言いたいのか分からなくなる。
「だがそれとこれとは別だ……、そこまでの覚悟を決めて国を出たのなら戻って来ない方が良かったのだ、どのような理由があったとは言えお主は一国の姫をかどわかして他国へと連れ去った重罪人なのだからな、命を取られても文句は言えぬよ」
「……けど、それでもミントと話し合ってあんたに婚約した事と将来結婚する許しを貰いたいって!」
「その考え方が間違えていると言っているのだ、夢物語であるのなら平民と王族との婚姻は認められよう。だが王族として生まれた以上は王位を継ぐ者以外は、他国との繋がりを強める為の政略結婚に使われるのだよ」
「それだとミントの気持ちはどうなるっ!好きな相手と一緒になれた方が幸せだろ!……親なら娘の幸せを考えてやれよ!」
「その短絡的な思考をやめよ、物事の真実を見ようとしない者は何れ足元を掬われ大事な者を失うぞ?、……考えているから、お主らが冒険者になり名の知れた存在になっても追っ手を差し向けずに静観していたのだ」
遠回しに二人の関係を認めていたと言う事だと思うけど、それなら何でそう言わないのだろうか、さっきから言い方が面倒くさい気がしてしまう。
「だがそうだな、機会をやろう」
「……機会?」
「婚約の挨拶に来たのだろう?だが仮にも一国の姫を嫁にやるというのだ、貴公にそれ相応の地位が無ければ周囲は納得等せんからな、故に儂自ら試練を課すとしよう」
クラウズ王の周囲に白い雲が現れる、それは王城内を埋め尽くす霧を飲みこみ成長すると彼の背中に集まって行き
二本の大きな腕となった。
「儂の娘を任せても良いと信じさせる実力を見せよ、それが出来たなら貴公に爵位をくれてやっても良い……、必要があれば領地もやろう、なぁにその時は碌に働きもしない無能貴族から取り上げれば良い」
「……本当にそれが条件で良いんだな?」
「構わぬ、……だが一人では分が悪かろう?全員で掛かって来るが良い、爵位を得て貴族になる以上は一人の力に頼らずに周囲を頼る能力も無ければならぬからなぁっ!ハッハッハッ!」
豪快に笑うと背中から雲で作られた心器の腕を顕現させて行く、その姿はまるで六本の腕が生えた何処か神々しくも禍々しく感じる程に完成された怪物を連想させる。
「だそうだけど、お前ら力を貸してくれるか?」
「良いだろう……、仲間の為なら手を貸すのは当然だ」
「しょうがないなぁ……、この流れで嫌だって言ったら俺だけ空気読めないみたいだから手を貸してあげるよー」
そう言って徐々に身体全体を狼の姿に変えるクロウと、風で編まれた剣を手元に作り出して逆手に持つとソラは姿勢を低くする。
ここはぼくも手を貸すべきだろう……、雪で作られた長杖を顕現させるとダリアを降ろして片手で持って構えた。
「これで寝た振りしてたらさすがに人としてどうなんだって感じじゃねぇかよ」
「えっと確か潜入前に情報共有でソラに聞いたけどダリアだったよな……、一緒に戦ってくれないか?」
「いんや?俺が力を貸すよりも適材がいんだろうが」
ダリアの右手に心器の剣を顕現させるとそれを縦に振って空間を切り裂いて、コルクがいる場所へと繋げるとジラルドの方を見て口を開く。
「ジラルドっ!おめぇの女だろっ!引っ張り上げろっ!」
「お、おぅっ!」
言われるがままに腕を空間の中に入れて身体を掴むとそのままコルクを引き寄せて抱きしめる。
彼女は突然の事に驚いたのか、顔を真っ赤にしているけど未だに言葉を出さないのは何故だろうか……。
「我が娘よ、口を開き会話をする事を許可する」
「……うん、ジラルドっ!急に何するんよ!?人前で抱きしめるとかあんた何考えてるの!?」
「いや、あそこはそうするしかないかなって思ってさ」
「あぁもう、父親の前で恥ずかしいっ!後で一発殴るからねっ!、ちょっと!おとんもにやにやしてないでよっ!これから戦うんでしょ!?」
「まぁそうなのだがな、やはり我が娘は元気な姿の方が好ましいものなのだよ、あの未熟者の元に行かせないで良かったと今になって思っているが、それとこれとは話は別だ……、試練に参加する者はその五人で良いのだな?」
クラウズ王のそれぞれの腕に雲で作られたハンマーが握られて行くと、人の腕で持っている二本からは雨が降り出し、雲の腕からは電流が走り、そして心器の方は氷に覆われる。
「さすがにこれはまずいかもしれないな……、スイっ!お前は力を貸してくれないのか?五人だと自身が無いんだ」
「いやよ……、私はまだ死にたく無いもの」
「んー、それならさー協力してくれたら指名手配を特別に取り消してあげるように掛け合ってあげるけどどうするー?」
「……しょうがないわね、正直戦力にはなれないとは思うけど力を貸してあげるわ?でももしそれが嘘だったら覚えてなさいよ?」
スイは魔力の糸をぼく達に繋げると毒々しい色をした魔力を流し始めた。
一瞬毒でも流されたのかと思ったけど、身体の内側から魔力が湧き上がってくる感覚を覚える。
「毒っていうのはね?使い方次第では良い効果が得られるのよ……、ただ集中してないと上手く調整出来ないから攻撃はあなた達でやりなさい」
「充分っ!じゃあ皆行くぜ?」
……準備が出来たぼく達はそれぞれが動きやすい位置について武器を構えると、ダリアが『じゃあ俺は安全な所から見物させて貰うわ』と言いながらダート達が捕えられている雲の牢屋の方へと歩いて行く。
その姿を見たクラウズ王は六本のハンマーを構えると、『雲の中では雷が起き、氷が生まれ、雨が降る……、故に三つの属性を同時に扱う事が出来る恐怖を貴公らに見せてやろう……、なぁに加減はしてやるから安心するがいい』と余裕有り気に笑うのだった。