椅子に座ると今日の疲れがどっと体にのしかかって来る。
今日はこのまま寝てしまってもいいかと思っていると……、ダリアがぼくの肩を揺らす。
「おい、レ……、父さん眠いならベッドで寝ろよ」
「ん、二人きりの時は別にレースって呼んでもいいけど?」
「こういうのは普段から呼んで慣れておかないとボロが出たらダメだろ?」
「別に良いと思うんだけどな……」
「おめぇが良かったとしても周りが感じる印象って言うのは違うんだよ」
そう言うとダリアが隣に座りぼくの方に身体を預けて来る。
「俺は母さんと父さんの娘なんだろ?って事はこうやってスキンシップを取っても何の違和感もないわけだ」
「それはそうかもしれないけど……」
ぼくの反応を見て少しだけ残念そうな顔をしているけどいったいどうしたんだろうか……
「これは父さんにしか話さないから秘密にして欲しいんだけどさ、俺に身体が出来たら母さんの変わりに元の世界に戻ろうと思ってたんだよ……、ほら身体を作って貰う時に母さんと瓜二つの姿にして貰えば戻っても問題ないだろ?」
「確かにそれなら仮に元の世界に戻れたとしても口調さえ気を付ければ大丈夫だと思うけど」
「だろ?でもさ、いざ身体を手に入れてみたら髪色はこんな感じで変わってるし顔付きもこんな感じで二人の遺伝子を合わせた感じだろ?これで帰るって無理があるからよ……、しょうがねぇからこの世界に戻る事にしたんだわ、それによ」
「……それに?」
「俺だって父さんに好意持ってたんだぜ?、先に会ったのは俺だったのにさお前が選んだのはあいつだし正直気持ちが複雑だわ……、まぁただなっちまったもんはしょうがねぇからな、好意の形を変えて娘として沢山甘えさせて貰うぜ?」
……確かに最初に出会ったのはダリアだったのかもしれないけど、長く一緒にいて惹かれたのはダートだったからぼくとしてはこれで良かったんだと思う。
それに娘として沢山甘えさせて貰うと言うけど、ぼくがその気持ちに応えてあげられるか分からなくて不安になるけど、ダートと相談しながら三人で上手くやって行けば大丈夫だと信じたい。
「そんな不安そうな顔すんじゃねぇよ、父さんは感情が顔に出やすいんだから気を付けないと駄目だぜ?」
「うん、出来る限り気を付けるよ」
「最初は出来なくても父さんなら頑張れば出来るようになると思うけど、無理はすんなよ?」
無理をしたら二人が悲しむと思うからする気は無いけど本当に出来るようになるのだろうか……。
そんな事を思っているとダリアが悪戯を思い付いたような顔をしてこっちを見る。
「そういや隣の部屋でカエデとランが休んでるんだろ?ちょっと覗き見しようぜ?」
「……さすがに人の寝顔を勝手に見る気は無いよ?」
「ばっか、そんなんじゃねぇよ……、父さんは気付いて無かったかもしれないけどあのランって言う奴戦ってる途中から眼を覚ましてたんだぜ?、つまりだ、隣の部屋にいるって事はあいつがカエデを起こしてる可能性があるだろ?ってこーとーでっ!」
ダリアは手元に心器の剣を顕現させると空中を切り裂いて隣の部屋との空間を繋げるとそこには……、豪華な美術品が部屋の中に大量にあり更には料理がテーブルの上に並んでいる部屋が見えるがぼく達がいる客室とはまるで大違いだ。
それに何だか獣が唸るような声が聞こえてくるけどカエデ達はこの部屋にいるのだろうか……。
「何かコーと同じ髪色をした太った奴がいびきをかきながら寝てんな……、この部屋じゃねぇみてぇだもしかしたら逆側か?」
「コルクは末の娘らしいしもしかしたらお兄さんかもしれない?」
「へぇ……、まぁどうでもいいや空間を閉じて逆側の方を開くわ……、声を出したら気付かれるかもしれないから黙ってろよ?」
再び剣を使い空間を切り裂いて他の部屋と繋げると、ソファーに座って難しそうな顔をしているカエデとその姿を心配そうな顔をして見つめているランの姿が見えた。
「ランちゃん、取り合えずジラルドさん達の件が片付いたのは分かりましたけど外の事に関してはどうすればいいと思う?」
「ん、それなら簡単なの、謁見の間の中は床が黒焦げだったし外に聞こえる程の大きな音がしていた筈なの……つまり、トレーディアスの騎士に成りすまして商王クラウズ・トレーディアスを暗殺しようとした不審な人物が居たという事にするの」
「さすがに説得力がないと思うんだけど……」
「証拠なら幾らでも作れるの、ヒジリが冒険者ギルドの新人職員として働いていた時に襲われた事を利用するの、その犯人を作り上げてしまえばいいの、商王クラウズは国民からの支持は強いけど、国民を大事にする姿勢を一部の貴族からは良く思われていないらしくて敵意を持ち反旗を翻そうしている人達がいるらしいの、だから……」
「この騒ぎを利用して一気に刈り取ってしまうって事ね、確かにそれなら……、ランちゃん今からクラウズ様の元へと向かいましょう!」
……カエデがソファーから立ち上がるとランを連れて客室から出て行くと急いで向かっているのか通路を走って行く音がする。
そして一連の出来事を見ていたぼく等は何だか覗き見しては行けない事を知ってしまった気がして、見なかった事にすると言わんばかりにベッドに入るとそのまま次の日の朝まで眠りに付くのだった。