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第37話 朝食と会話

 昨日はカエデ達の話を聞かなかった事にしてベッドに横になって寝てしまったけど、これはいったいどういう事なのだろうか。

昨日はダートに腕を抱き締められていたけど、今日はダリアに腕を締め上げられている。

既に感覚が麻痺して腕が途中から無くなってしまったような違和感を感じるけどどうしたものか……


「やっと起きたの?」


 声がした方に首を動かすとソファーに座って紅茶を飲みながら寛いでいるダートの姿があった。

何というか昨日気を失っていた筈で、何があったのか詳しく知らない筈なのに落ち着いている現状に違和感を覚える。

気になるから確認してみた方がいいかもしれない


「ダート?」

「ん、なぁに?」

「昨日の事なんだけど」

「それならレースが寝てる間に、朝食が出来たからってコーちゃんが起こしに来てくれて、皆で集まって朝食を食べた後に何が起きたのか教えてくれたから大丈夫だよ?」

「あぁ、そうなんだ」


 コルクが皆を起こしに来てくれたというけど起こされた記憶が無い、もしかしてぼくだけ忘れられたのかも?


「レースの事も起こそうとしたんだけど、いくら声をかけたりしても起きないから先に行く事にしたの」

「昨日は色々とあったから疲れてたのかな……」

「だと思うから今日はこのままゆっくり王城内で休ませて貰う?」

「それもいいかなって思うけど、その前にダリアを何とかして貰っていいかな……、腕の感覚が無くてしんどい」

「朝食後に俺達が起こしても起きなかったバツだって言ってたから、起きるまで我慢した方がいいかも?」


 バツだって、言われても偶々起きれなかっただけだからそう言われても困ってしまう。

ダリアの性格的に起きた時に同じ状態じゃなかったら嫌がるというか怒りそうだから今は我慢した方がいいのかもしれないけど……


「このままだと何も出来ないから助けて貰っていい?」

「ダリアが起きたら怒るかもよ?」

「それは……」


 ぼくが返答に困って黙っていると、ダートがソファーから立ち上がると腕を締め上げるように強く抱き着いているダリアから解放してくれる。


「ありがとうダート」

「どういたしまして、怒られる時は一緒に怒られてあげるね、あ、そういえばレースの分の朝食貰ってきたけど食べる?」

「食べるけど、どんな話をしていたのか聞いた後でもいいかな」

「それなら食べてる間に話すね?」

「わかった」


 ダートは指先に魔力を通して空間を切り裂くと中から朝食を取り出してテーブルの上に置いてくれる。

食べる人の事を考えて丁寧に骨を取り除かれている魚の料理とスープと良い匂いに食欲をそそられるが、そこに柔らかいパンも出て来て本当に美味しそうだ。


「……凄い美味しそうだね」

「うん、だからレースと一緒に食べたかったんだけどね」

「それは何ていうかごめん」

「ふふ、気にしないで?ちょっと寂しかったからいじわるしただけだから、でね?朝にあった事なんだけど……」


 ダートがゆっくりと朝食時にあった事を話してくれる。

その内容は、首都内で起きていた問題の方は昨日カエデが言っていたようになったみたいだけど……


「でね?、ジラルドさんが以前から問題を起こしていた貴族の変わりに領地を治める事になったの、それで暫くは領地を持つ貴族として必要な事を学びながらこの国で生活をして、合格点を貰ったら私達の町に帰って来るみたいだけど……」

「……だけど?」


 言い辛そうな顔をしているけどいったいどうしたんだろうか。

そう思いながら食べていると……


「ほら、私達の住んでるクイストの町って冒険者ギルドが無いじゃない?」

「無いけどそれがどうしたの?」

「ジラルドさん的には冒険者を続けたかったみたいなんだけど、昨日夜遅くまで王様が会議をしていたみたいなんだけど一国の王女を娶る者がそのような野蛮な仕事を続けるとは何事かとなったらしくてね?」

「……ジラルドが冒険者を続けられなくなるって事?」

「続けられなくなるのはそうなんだけど……、メセリーの【魔王 ソフィア・メセリー】様と商王クラウズ・トレーディアス様と栄花の間で後日やり取りをして、冒険者ギルドを建ててそこにジラルドさんをギルド長にしようって事で話が進んでるみたいで……」


 確かにぼく達が住んでるフェ―レン領には冒険者ギルドの建物が一つしか無いから増えてくれたら便利かもしれないけど……、そうなったら開拓の護衛隊とかはどうなるのだろうか。

あそこには元冒険者の人達もいるから問題が起きなければいいけど、それ以上に……


「他国の貴族をギルド長にしていいのかな」

「私には分からないけどどうなるんだろうね……」

「それに冒険者ギルドの建物が出来たら護衛隊の人達との間で問題が起きそうだけどどうするんだろ」

「多分私達冒険者が護衛をする事が増えると思うから、その人達の仕事が無くなっちゃうかも……、でも」

「その方が良いのかも……?」


 話ながら食べ終えた朝食の食器をダートに片して貰いながら思う。

グランツが護衛隊隊長をしていた時はまだ統率が取れてはいたけど、あの人が居なくなってしまってからは安い給金で使い潰される事が増えて来た事もあり護衛隊の人数が減少傾向にある。

あの人を殺したのはぼくだけど……、もしあの時別の方法があったのならそんな事にならなかったんじゃ無いかと思うとたまに心苦しくなるけど、いくらあの時こうすれば良かったと取り戻せない過去に思いをはせてもしょうがない。


「私もそう思うけどどうなっちゃうんだろうね……」

「ぼく達は平民だから何も出来ないけど、何かあったら領主様がどうにかしてくれると思うから大丈夫だよ」

「ならいいんだけど……、あぁそういえばレースが起きたら三人で首都に出て観光したいと思ってたんだけど大丈夫?」

「別にいいけど……、何処か行きたい場所とかあるの?」

「ソラさんが昨日、海から城を見る観光ツアーって言ってたから行きたいけど、本当に大丈夫なの?だって髪の色がが……」


……髪の色と言われて思い出したけど、ゴスペルに偽装の魔道具を壊されてしまっていたのを忘れていた。

珍しい色の髪だから目立ってしまうだろうけどダートと一緒にいられるなら今は別にいいかなと思って『それなら一緒に行こうか』と言うと、後ろに花が咲いたように見える程の眩しい笑顔を浮かべて喜んでくれる。

その姿に見惚れているとベッドの方から『……いちゃつくなら俺の居ない所でしてくれよ』と言いながらダリアが複雑そうな顔をしながら起き上がるのだった。

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