賢王ミオラーム・マーシェンスと呼ばれた女の子が大声で栄花騎士団の団員さんに命令をするけど、彼等は扉の前で動く気配が無い。
あくまで警備だから他国の王女様の支持で動く必要が無いという事なのかも?
「ちょっと!飲み物を用意しなさいとこの賢王ミオラーム・マーシェンスが言ってるのよ!?私の言う事を聞きなさいよっ!」
「騒がしいぞミオラーム・マーシェンスよ、ここは貴殿の国では無いのだぞ?他国の民に命令をする事は出来ぬぞ?」
「……そうでしたわね、ですがクラウズのおじい様?会議以前に私達は来賓でもあるのです、それなりの対応をするべきではありませんか?」
「騒がしいぞ小娘、飲み物が欲しいのなら俺が持参した果実水を分けてやるから黙って席につけ」
商王クラウズと賢王ミオラームとのやり取りに、覇王ヴォルフガングが口を挟むと服の中から空間収納の魔術が付与されていると思われる小袋を取り出して、中から色のついた果実水の入った瓶を取り出して投げ渡す。
慌てたように両手で抱きかかえるようにして受け止めると、彼を睨みつけるようにして反論をする。
「投げて渡す何て危ないじゃないヴォルフガングおじ様っ!それに小娘って私はもう賢王なのよ!?対等な立場として扱って頂けないかしら?」
「対等に扱って欲しいというのならまずは与えられた席に着け、周囲を見渡してみろ、小娘以外は既に座っているぞ?、だがその前に君が迷惑をかけた団員にまずは謝罪をするべきだな、力ある者は下々の鑑とならねばならない、しっかりと人に謝罪を出来ない者は何れ自らの足元から崩れ去って消えるぞ?」
「私が下の者に謝る何て、納得が行きませんが分かりましたわ、先程は知らぬとは言え迷惑をおかけしましたわね、謝罪致しますわ……、これでよろしくて?」
「……謝罪が済んだなら早く座れ、薬王が退屈して今にも消えそうだ」
「それは困りますわね、分かりましたわ」
賢王ミオラームは、果実水の入った瓶を抱きしめるようにスキップをしながら席へ行くと器用に片手で椅子を引いて座り、左右の人物に笑顔を向けて口を開く。
「ソフィアお姉様に、ショウソクお姉様、本日は宜しくお願い致しますわ?」
「えぇ、ミオラーム様、宜しくお願い致します」
「よろしく……」
「各々方、もう宜しいか?問題が無いのなら会議を始めさせて貰うが……」
栄花騎士団団長のガイさんがサングラス越しに周囲を見渡すけど、王様達は何も言わずに黙っている。
多分これ以上話す事は無いから早く会議を始めろと言う事何だと思う。
「無いようだから五大国会議を始めさせて貰う、この度進行役を進めさせて頂く栄花騎士団団長のキリサキ・ガイと、こちらは現副団長であり次期団長の座を継承する俺の娘、キリサキ・カエデだ」
「皆様、この度はお初にお目にかかります、私は栄花騎士団にて副団長を座に就いているキリサキ・カエデです、至らぬ点が多々あると思いますが宜しくお願いします」
「そしてわっちは二人の護衛役としてこの場に呼ばれた、【桜華】ミツネでございます。ミオラーム様は初対面となりますが、以後宜しゅうお願い致します」
三人が挨拶をすると、薬王ショウソクを除いた全員が私の方を見る。
「して、そこの娘はなんだ?」
「そしてこちらの令嬢だが……、この度特別に会議への参加許可した、覇王ヴォルフガング様の元にて現在保護している、レースの内縁の者だ」
「という事は、この娘があいつが言っていたダートと言う女か……、すまない会議の前に彼女と話をしたい」
「構わないが、早めに頼むぞ?」
「分かっている」
覇王ヴォルフガングは席を立つと、私の方へ向かって歩いて来たと思うといきなり頭を下げて来る。
興味が無さげな一人を除いて全員が驚いた顔をするけど、王様に頭を下げられた経験が無い私はどうすればいいのか分からなくて困惑してしまう。
「この度は我が国の第二王子、ヴィーニ・トゥイスク・ヴォルフガングが君の大事な人を強引に連れ去るような事をして申し訳なかった」
「あ、あの……」
「今すぐにでもレース君を君の元に帰してやりたいのだが、そうも行かない理由が出来てしまってな……、すまないがもう少し待っては貰えないだろうか?」
「もう少しってどれくらい待てばいいんですか……?」
「それは分からないが、今俺の国は次期覇王を誰にするかで割れているのだ、死んだと思っていた第一王子を第二王子が自らの力で見つけ出して国、に連れ帰った英雄として国民からの支持を得たのだが、あの愚息は何を考えたのか第一王子に覇王を継がせると宣言したものでな、現在国はどちらに覇王の座を継がせるかで二つに割れてしまっている」
それってつまり……、どちらかが王位を継ぐ事が決まらない限りレースを返してくれないって事だよね。
何で?レースは私の者なのにどうして返してくれないの?
「つまりレースか第二王子のどちらかが王位を継いだら返してくれるって事ですか?」
「……レース君が継ぐ事になった場合、悪いが返す事は出来ない、王位を継いだ場合は他国の王女と婚姻をして貰い、世継ぎを作って貰わなければならないからな、だが彼と婚姻した者との間に男子が生まれなかった場合は、君達の娘のダリア君だったか、あの子は素晴らしい才能を持っているからな、彼女と我が息子ヴィーニを使って世継ぎを作る必要がある、そこは理解して欲しい」
「理解して欲しいってそんな事許される訳がっ!」
「平民の君には分からないと思うが王族とはそういう者だ、他国の王女と婚姻させるのは血が濃くなりすぎない為だが、ダリア君の場合は他の血が入っているから問題無いのだ……」
覇王は厳しそうな口調でそう言うけど、顔を見るととても辛そうな顔をしていて何も言えなくなってしまう。
もしかしてこの人は覇王を演じているだけで、心は優しい人なのかもしれない。
「この考えに不服があるのなら会議の前に君の力を持って私を殺してみるがいいと言いたいが、ここで武器を取ったら国際問題となるだろう……だからそうだな、すまない皆っ!今ここで俺が言う事は聞かなかった事にして欲しいっ!それが難しいという者は自らの意志で眼を閉じ耳を塞いで欲しいっ!」
覇王ヴォルフガングが急に大声を出してそう言うと、商王クラウズと魔王ソフィアはそのまま聞く姿勢を取り、賢王ミオラームは言われたように眼を閉じて両手で耳を塞ぐ。
そして薬王ショウソクは……、安らかな寝息を立てて寝てしまっていた。
「感謝するっ!、現在俺の国ではヴィーニ王子が俺を亡き者にして覇王の座を強制的に第一王子であるレース君に継がせようと陰で動いているのだが……、いささか詰めが甘いせいで俺に筒抜けだ。これに関しては俺の力で黙らせる事が可能なのだが、どうやらあいつは指名手配されている者と手を組んだらしくてな【炎精】ガイストと【幻死の瞳】グロウフェレスだったか、その者達が王城内に出入りしているのを見た兵や騎士がいるのだ」
「それってつまり……、反乱の準備をしてるんですか?」
「だろうな……、いくら俺とは言え強い個は実力のある複数の駒の前では何れ消耗して負ける、ストラフィリアと言う国は力を重視するあまり腕が立つ者や頭が回る者が多いからな、反乱を起こされたらどうしようもない、つまりだ」
「つまり……?」
「俺はこの会議の後、暫くして反乱が起きた際に多くの国民をこの手で殺した上で討たれるという事だ、だがその際に近くにレースくんが居ないなら王位を継ぐ事が無くなり、第二王子が覇王となる」
何だろう、レースと同じで説明が長くて良く分かりづらい所があるけど……、覇王ヴォルフガングはこの後死ぬと言いたいのかな……。
「長々と語ってしまったが、君が本当にレース君の事を大切に思うなら俺が今ここでストラフィリアへの入国と俺の城への入場を許可する、己と仲間の力で最愛の者を救い出しその手に取り戻すがいいっ!」
「……行きます、レースを必ず連れ帰ります」
「分かった、ならこれを渡しておこう、当代覇王の紋章だこれがあれば入場が可能だ……、さて、これ以上はここにいる必要は無いだろう、俺の私的な用件で会議の開始を遅らせてしまい申し訳ないっ!どうやらこのダートという者は気分が優れないようだっ!誰か外に連れ出してやり涼しい場所で身体を休めさせてあげて欲しいっ!」
……覇王ヴォルフガングは私に狼の紋章を手渡すと退出を促して来る。
どうしようかと思っていると、ガイさんが『カエデ、お前が責任を持って涼しい場所に連れて行ってあげなさい、大事なお友達なんだろう?』と言うと、カエデちゃんが立ち上がり私の手を取り『お姉様、準備をしてストラフィリアに行きましょう』と囁くと一緒に大会議室から出て行くのだった。
猶予が後何日あるか分からないけど、必ずレースを私が助けて見せる。