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第3話 ミュラッカとルミィ

 ぼくとダリアがストラフィリアの首都【スノーフィリア】についてから一ヶ月の月日が経過した。

その間に何があったのかというと、王城内に入って直ぐに覇王ヴォルフガング・ストラフィリアとの謁見が急遽行われる事になったかと思うと、そのまま王様の元へ連れてかれてヴィーニ王子がぼくの事を報告したけど……


『そうか、まさか死んだと思っていた赤子が大きくなって戻って来るとは、名を付ける前に姿を消したが為に死んだものと思い込んでいたが……、ヴィーニ王子よ此度は良く見つけてくれて連れ帰ってくれた。そして覇王ヴォルフガング・ストラフィリアの名においてレースが第一王子である事を俺が認めよう、そしてそこの娘だが能力次第では王族に迎えよう』


 覇王ヴォルフガングは用件を伝えるとそのまま謁見の間を出て行ってしまった。

その後ぼく達はヴィーニ王子に連れられて王城内の王族達が滞在する部屋に連れて行かれるとそのまま押し込まれてしまう。


「……その後、ヴィーニ王子からの教育が始まるのかなって思ってたんだけどどうしてこうなったんだろう」

「んー?兄上様どうしたのー?」

「あぁ、いや何でもないよ」


 部屋に軽くお茶会をする為なのか大きなテーブルと、四つの椅子がおいてあるのだけど何故か現在座ってるぼくの膝の上にストラフィリアの第二王女【ルミィ・ヴィティ・ヴォルフガング】が座って心配そうに鈴が鳴るように綺麗で声を掛けてくる。


「父さんは考え事してると独り言が増えるからごめんな?ルミィちゃん」

「だから良く一人でぶつぶつ言ってるのね?、ありがとうダリアお姉ちゃん!」

「……いつも思うけど、この子可愛すぎんだろ」


 正面の椅子に座っているダリアが彼女に話しかけると、ルミィが満面の笑みを浮かべてお礼を言う。

その姿を見て顔を赤くして照れている姿を見ると何をしてるんだろうなぁって感じになる。


「お兄様、またヴィーニの事ですか?彼はもうあなたに手出しを出来ませんからご安心くださいと何度もお伝えしたのにまだ心配な事でも?」

「心配な事って言われても……、ぼくは育った国に待たせている人がいるから心配事は尽きないよ」


 左手の方から落ち着いた声が聞こえてくる、彼女は第一王女の【ミュラッカ・ミエッカ・ヴォルフガング】、ぼくの二つ年下で、あの時部屋に押し込まれた翌日にヴィーニ王子が教育に来たんだけどその時に助けてくれたのが彼女だ。

あの時強引に連れて行かれそうになっていたぼくとヴィーニ王子の間に入ると


『帰国したばかりのお兄様に教育を強要するとは……、昨日のあなたの行動といい自分勝手が過ぎて目に余ります』

『目に余るだって?私は王位を継ぐ気は無いんですよ、それを父上に昨日何度話しても分かってはくれないっ!それなら彼を、父上が納得する位に完璧な人物へと育て上げるしかないじゃないですかっ!』

『……あのねヴィーニ、あなたはこの国の王位継承権を持つ意味を理解するべきです、今更王位を継ぎたくないからと周囲に我が儘を言って困らせるのではありません』

『だけど私は彼こそが王位を継ぐのに相応しいとっ!』

『いい加減にしなさい……、どうしてあなたが彼にそこまで固執しているのか分かりませんが、お兄様の事は私が責任を持って保護します、ヴィーニ……、あなたは暫く頭を冷やしなさい』


 というやり取りの後にぼくとダリアは彼女に保護されたが、後日ヴィーニ王子がストラフィリアの人々に『王位を継ぐのは生きて帰って来た、第一王子レースが継ぐべきだ』と宣言して回ったせいで国が荒れるせいになった。

自分の思い人を手に入れたいという思いだけで彼はそこまで暴走出来る人物だったのかと当時は思ったけど、今はミュラッカが味方についてくれてぼく達を守ってくれているおかげで今もこうしで無事でいられる事に感謝の気持ちしかない。

ルミィもそうだ、ミュラッカに身柄を保護された日に彼女が暇を持て余しているなら第二王女の面倒を見て欲しいと連れて来たのだけれど、この子の明るさと可愛らしさに心の安らぎを覚えている。


「それは確かにそうですね、出来れば今すぐにでも【メセリー】に帰して差し上げたいのですが、ヴィーニが最近不審な人物を王城内に招き入れたり、国の民にお父様の悪い噂を流していたりと不審な行動が多く、この国で反乱が起きる可能性がある位に情勢が不安定ですからね……、お兄様とダリアさんには不自由な思いをさせてしまい申し訳なく思ってます」

「これに関してはしょうがないよ……、あぁそういえばずっと気になってたんだけど、どうしてあの時初対面なのに二人はぼくが君達の兄だと分かったの?」

「えっとねー、ルミィを産んだ後に死んじゃった、スノーホワイトお母様がミュラッカお姉ちゃんに言ってたみたいなのっ!ルミィ達のお兄様が遠い地でレースという名前で暮らしてるって、だから分かったの!」

「……つまりぼくの産みの親は、生きてる事を知ってたっていう事?」

「えぇ、そうなります。何でもお兄様が生きている事を【南西の大国メセリーの魔王ソフィア・メセリー】様から、直接聞いたらしいのよ……、お母様はそれを聞くまで生きる希望を失ってたけど、いつかあなたに会いに行くことを夢見て生きる気力を取り戻したわ」

「でも……、会う前に死んでしまったのか」


……ミュラッカの言葉を聞いて思う、ぼくが生きている事をそこまで喜んでくれる人がダート以外にいたのかと、今迄本当の親に興味が無かったけど今は一度で良いから、スノーホワイトさんに会って見たかったと思う。

ぼくが覇王ヴォルフガングに捨てられずにこの国で育っていたのなら、ミュラッカにヴィーニ、そしてルミィと本当の家族になれたんだろうか、産みの親に大切にされてたんだろうかと思うと、失った時間の重さを感じるのだった。

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