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第4話 仲良しの二人

 六年前に亡くなった王妃スノーホワイト・ヴォルフガングがどういう人か気になるけど、ルミィが生まれた後にって事は少なくても一年は生きていたのかもしれない。

そうだった場合、この子は母親が必要な時期に一人になってしまったわけで凄い寂しい思いをしたのではないかと思うけど、ルミィはとても素直に育っているように見える。


「あのさルミィ、お母さんが居なくて寂しくないの?」

「んー?お母様の事覚えて無いから分からないけど寂しくないよ!だってお父様と姉様がいるし、王城の皆も優しいのっ!」

「ほんと……、ルミィは良い子だよなぁ」

「それは当然です、私と父様に王城の騎士や兵士達にメイドが一生懸命愛情を込めて育てましたからね」


 ダリアの発言にミュラッカが自慢げに返すけど、そこには何故かヴィーニ王子の名前が無い。

彼は参加しなかったのだろうか……。


「ミュラッカ、ヴィーニは参加しなかったの?」

「……ヴィーニはルミィに対してどう接すればいいのか分からないみたいで、ずっと距離を取ってますね」

「距離をって、同じ血を分けた家族なのにどうして?」

「多分この子を見るとお母様の事を思い出して辛いのでしょう、ヴィーニはお母様に懐いてましたからね」

「ルミィね?ヴィーニ兄上が私を見て悲しい顔をするのが嫌だから会わないのっ!」


 ルミィは膝の上で両足をバタバタと動かすとそのまま飛び降りてダリアの方へ歩いて行く。


「難しい話は疲れちゃうからダリアちゃん!遊ぼー?」

「遊ぼうって言われても……、この服だと動き辛いんだよ」

「ダリアちゃん、遊ぼうよー!可愛いドレスをもっと着よー?」

「あのだな……、俺はそういう可愛いのは似合わねぇんだよ」

「……ダメなの?」


 ルミィが今にも泣き出しそうな顔をしてダリアの方を見るけど、確かに彼女の服装はお腹を露出した服装ではなくとても暖かそうなドレスを着ているし、髪もポニーテールではなく髪の毛を降ろしている。

この一ヶ月ずっとこうだったからぼくはもう見慣れてしまったけど、ダリアからしたら未だになれないのかもしれない。


「ダリア、申し訳ないんだけどルミィに付き合ってあげてくれないかしら……」

「付き合ってあげてって……、しょうがねぇなぁっ!このダリアお姉ちゃんが遊んでやるよっ!」

「ほんとっ!?じゃあ私の部屋に行こっ!兄上様、姉上様っ!今日はお茶会にお招き頂きありがとうございましたっ!」

「お、待てって今立つから腕を引っ張るなって!分かった分かったからっ!」


 ダリアが焦りながら急いで立ち上がると、ルミィが腕にしがみつくように抱き着くと扉の前まで器用に歩いて行く。

そして片手で扉を開けると二人は何処かへ行ってしまった。


「ルミィはダリアの事本当に気に入ったのね」

「みたいだけど、大丈夫なのかな」

「確かにいくら言葉遣いを治すようにお願いしても治りませんからね、あの子が影響を受けなければ良いのですけど……、とは言え王城内で歳が近い子はダリアだけですし、こうやって懐いている以上は見守るしかないですね」


 ルミィはダリアの事を初対面の時から気に入ったらしくて、略毎日のようにあの子の部屋に連れて行かれてはスノーホワイト王妃が生前用意していたらしいドレスに着替えさせられている。

まるで着せ替え人形みたいだなって思うけど、似合ってるから個人的には良いと思う。


「ミュラッカ、二人きりだから丁寧な言葉使いはしないでいいよ」

「……そうね、兄様の前では気楽に話したいから助かるわ」


 ミュラッカは気の抜けたような顔をすると、テーブルの上に置かれているお茶菓子を口に入れると紅茶を飲む。

先程とは違いその姿はまるでただの女の子のようだけど……、これが本来の彼女らしい。

この一ヶ月話したりしている内にどうやら信頼して貰ったらしくて、二人きりの時は素面を見せてくれるようになった。


「単刀直入に聞くのだけれど兄様は確か、この前二人で話してる時に雪の魔術以外に空間魔術も使えるのよね?」

「難しい術は使えないけど、空間収納は使えるよ」

「なら試しに使って見てくれないかしら、もし中にしまってる物があるなら見せて貰っていい?」

「……特に何もしまってなかった気がするけど」


 話してるうちにどのような雪の魔術を使うのかという話題が出た時があったけど、その時に空間魔術を使える事を伝えたら興味がありそうな顔をしていたから、何時かみたいと言われると思っていた。

意識を指先に集中して魔力を集めると、ゆっくりと空間を開いて行き中に入っている物を取り出して行くと……


「板みたいなのが出て来たけど、兄様これは何?」

「これは心器を顕現させられる人を栄花騎士団が管理する為の通信端末だよ」

「王族は小さい頃から使えるように訓練させられて、使えるようになるから気にした事無かったけど一般の人はこの通信端末で管理させられるって事?」

「そうだね、これがあれば持ち主が今どこにいるのか、栄花騎士団の最高幹部の人が把握出来るようになるみたいだからって……、そうかこれがあれば外と連絡が取れるんだ、すっかり忘れてた」

「外に連絡が……、それなら試しに使って見てくれる?」

「……やってみるよ」


……試しに通信端末の一から十三の数字がかかれているボタンから、栄花騎士団副団長に繋がる二の数字を押して通信ボタンを押すと画面に【ただいま通信中】という文字が現れる。

そのままカエデが出るのを暫く待っていると、端末から『レ―ス!?レースなのっ!?』とダートの声が聞こえてくる。

まさか彼女の声を聞くことが出来るとは思っても無かったぼくは驚きの余りどう返せばいいのか分からなくなるのだった。

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