『レース!?レースなの!?』
通信端末からダートの声が聞こえて驚いてしまう。
まさかカエデに連絡を入れたら彼女の声が聞こえるとは思わなかった。
「……兄様、この声の人が栄花騎士団最高幹部の方ですか?」
『レース?今女の人の声が聞こえたけど誰なの?……もしかしてその人に何かされて声が出せないの?』
「あなた……、栄えある栄花騎士団の人間なのに失礼じゃありませんか?先ほどからレース、レースと兄様に馴れ馴れしすぎではありません?それに誰?と仰いましたが、私はストラフィリアの第一王女ミュラッカ・ミエッカ・ヴォルフガングです!あなたこそいったいどなたなんですか?」
なんだこれ、ダートとミュラッカが通信端末越しに険悪な雰囲気になっている。
本来ならカエデに連絡を入れて今のぼくが置かれている状況を二人で説明した後に、ダートにぼくは無事である事を伝えようと思っていたんだけどどうしてこうなったんだろうか。
『私はダートです、ところで第一王女ってもしかしてレースの……』
「妹になりますね……、そしてあなたが兄様の内縁の妻ですね?」
『内縁の妻……、その響き何か良いかも?』
「とりあえずあなたが誰か分かりました、兄様の婚約者でありダリアさんをお産みになられた方ですよね」
『……はい』
返事をするまでに僅かに間が空いていたけどどう答えるか悩んでしまったのかもしれない。
ぼくも正直ダリアの見た目が十歳位だから最初ミュラッカに本当に娘なのかと疑われたけど、当時彼女が直接ぼく達の血と魔力の情報を確認した結果、彼女が納得せざるおえなくなったという経緯がある。
おかげで性に目覚めるのが異様に速かったのだろうと勝手に思われて恥ずかしい思いをしたけど、これはもうしょうがない奴だと諦める事にした。
「つまりあなたは私の義姉様になるという事ですね、宜しくお願い致しますダート義姉様」
『という事はミュラッカ様が私の義妹になるの?……、こちらこそ宜しくお願い致します』
「出来れば私の事は兄様と同じようにミュラッカとお呼びください」
『……じゃ、じゃあミュラッカ、レースと話したいんだけど変わって貰ってもいいかな』
「変わる?えっと、はい分かりました、兄様っ!義姉様から変わって欲しいと言われたのですが、どうすればいいですか!?」
どうすればいいってそのままぼくが喋ればいいだけだから、ミュラッカが何かをする必要は無いけどどう伝えればいいのか……
『ミュラッカ、変わってっていうのはレースに喋って欲しいって意味だからそのまま静かにして貰えれば大丈夫だよ?』
「なるほどそうなのですかっ!、では兄様お話しください」
ミュラッカはテーブルの上に置いてある通信端末をぼくの方に寄せるとそのまま黙ってしまう。
「えっと、ダート久しぶり」
『レース……、やっと声が聞こえた、大丈夫だった?辛い思いしてない?ダリアは元気にしてる?』
「心配させてごめん……、取り合えずぼく達は大丈夫だよ、今はミュラッカに保護されて安全に過ごしてるから辛い思いもしてないし、ダリアはぼくの一番下の妹らしい第二王女のルミィ・ヴィティ・ヴォルフガングと友達になって楽しくやってるよ」
『……元気みたいで良かったけど、第二王女と友達になったって事が凄い気になるけどダリアが元気なら、今はそれでいいかな』
通信端末越しに彼女の安心したような声が聞こえてこっちも安心する。
「ところでダートの方は大丈夫?」
『私の方は……、今色々とあってストラフィリアの首都『スノーフィリア』の宿にカエデちゃん達といるけど大丈夫だよ』
「……え?」
『えっとね……、ミュラッカの前で事情を言いづらいんんだけど』
「私は兄様と義姉様の味方なので気にせず言葉にしてください」
ミュラッカの発言の後に、通信端末越しに小さな声で誰かと喋ってる声がするけど声が遠くて何を言っているのか聞き取れない。
多分カエデと相談してるんだと思うけど、何だか聞いたことが無い男性の声や知らない女性の声もするから他にも人がいるんだと思う。
『……えっと、やっぱりミュラッカの前で情報を出す訳には』
「ダート、彼女は大丈夫だから言っていいよ」
『でも……』
「ぼくを信じて欲しい、ミュラッカは大丈夫」
『分かった……、じゃあ話すね?』
ダートが栄花騎士団本部の大会議室で起きた事を話してくれるけど、何ていうかどう反応すればいいのか分からなくて困ってしまう。
あの覇王ヴォルフガングが許可を出して王城に入る許可を出したとかもだけど、指名手配されている元Aランク冒険者の二人がヴィーニ王子と関わりを持っていうという事実、そして現覇王を亡き者にする事でぼくに継がせようとしているという事に驚きを隠せない。
「そんな父様がヴィーニに討たれる?、自己中心的な考えの為に親殺しを考える程にあの子が馬鹿だったなんて……、今ほど私が男でない事を悔やんだ事は無いですね、兄様も既にご存じの通りこの国の王は王子しか継承権を得る事が出来ません」
「覇王が死んだときに近くにいた人が王位を継ぐ事になるんでしょ?それならミュラッカが近くにいたら継げるんじゃ……」
「確かにそれなら可能ですけどこの国は王に力を求めます、過去に女王がいた事はありますが女性蔑視をする古い価値観の貴族達の手で暗殺された経緯が……」
「でも避けられないらしい現覇王の死でぼくが王位を継ぐよりは、ミュラッカが王位を継いで新たな覇王になった方がこの国の為だと思う」
……ぼくがそう言うとミュラッカは不安げな顔をすると『兄様、この件に関して栄花最高幹部のお義姉様と自分の部屋で話ながら考えたいから、通信端末を暫くお借りします』と言って通信端末手に取って椅子から立ち上がると、『ダート義姉様、この件に関して相談をしたいので場所を私の部屋に移しますね』という言葉を残して部屋から出て行ってしまう。
そしてぼく以外誰もいなくなってしまった部屋で『ダートは栄花騎士団の最高幹部じゃない』と伝えるのを忘れていた事を思い出すと、急いで立ち上がりミュラッカを追いかけるのだった。