ダートを王城内に用意されたぼくの私室へと案内するけど、そこにはいつも一緒に居たダリアがいない。
ストラフィリアに連れて来られてからずっと彼女が傍にいたから違和感がある。
何というかここ一ヶ月実際に娘として接して来たからか、何となく居ないと寂しい気がして落ち着かない気持ちがあって何とも言えない気持ちだ。
そんな事を思いながら椅子に座るとダートが隣に座って何故かぼくに頭を預けて来る。
「ここがレースの私室なの?」
「うん、この国に来て与えられた部屋だけど思った以上に広くて持て余してるよ」
「ミュラッカの部屋も広かったけど、王族の部屋ってこんなに広いんだね……、いいなぁこんな広い部屋でいつも生活出来るって」
「いつもはいないみたいだよ?王族としての公務がある時以外は与えられた領地に建てられた館で、管理をしているらしいから」
「そうなんだ……、と言う事は普段は王様以外いないの?」
領地を与えられていない幼いルミィと、次期覇王になるヴィーニは王城内で生活しているけどミュラッカだけ領地の管理をしている。
ダートに言われて気付いたけどまるで彼女を首都から離しているような気がして違和感を覚えるけど気のせいだろうか……
「ミュラッカ以外は王城にいるね……、もしかして覇王が彼女を遠ざけているのかも?」
「父親からはお前が男だったらって言われてたんでしょ?という事は……、王城内にいるとヴィーニの立場が危ぶまれるから守ろうとしてたのかな」
「でも定期的に王城に戻ってルミィの面倒を見ていたみたいだし……、それにぼくを保護してからはずっとここにいるよ?」
「多分だけどヴィーニを監視する為に、領地の管理を摂政官に任せて滞在しているんじゃない?それなら違和感が無いと思うけど?」
「それなら確かに……」
そういう理由なら確かに話の筋が通るけど、ヴィーニを監視するだけなら覇王ヴォルフガングに報告して王城内の騎士に警戒させればいいと思うんだけどそれだけじゃ駄目だったんだろうか。
他にも何らかの思いがあるような気がしてならないけど……
「でもさ、それならミュラッカが王城に居なくても騎士達に任せるとかでも対応出来たんじゃ……?」
「もしかしてだけど、レースの近くに居たかったのかも?年上の家族がずっと欲しかったってさっき言ってたでしょ?だから甘えたかったのかもよ?」
「ミュラッカが……?、最初は敬語で凄い距離感を取られてたけど、最近は打ち解けて来たのか二人きりになるとスキンシップが多くなるし、愚痴を吐いたりとか何かと悩みを打ち明けてくれるけど違うんじゃない?多分ぼくの暇つぶしに付き合ってくれてるだけだと思うんだけど」
「……充分に甘えてるじゃない、私の時もそうだったけどどうしてそこまでされてるのに気づけないのかなぁ」
「えっと……、ごめん」
隣でダートが何とも言えない顔をしているけど、ぼくからしたらミュラッカは実の妹であるけど他人でしかないから心の何処かで距離を取っていたのが原因かもしれない。
だから気付くことが出来なかったんだと思うけどこの考えをどう伝えればいいのか……
「まぁ、レースのそういう所は私が補うから良いけど……、私の義妹でもあるから二人でこれから大事にしてあげようね?」
「明日からそうするよ、でも大事にするってどうすればいいのかな……」
「そこはいつも通りに接してあげて甘えて来たら、頭を撫でてあげたりとか黙って話を聞いてあげたりとか色々とあるんじゃない?……まぁ、甘えてる時に頭を撫でて欲しいは私の願望だけど」
「……そっか」
道理でさっきからぼくの方を身を委ねて寄り掛かっているのか、そうして欲しいなら最初から言ってくれたら良かったのにと思ったけど、ダートからしたら言わなくても察して欲しかったのかもしれない。
正直ぼくには難しいけど彼女が望むなら分かって上げられるように頑張ってみようとは思うけど出来るだろうか……、そんな事を思いながら手を頭に置いて撫でるとサラサラとした髪の毛の手触りが気持ち良くて癖になりそうだ。
これは機会があったら定期的に撫でるのもありかもしれない……
「……手触りが気持ち良いね」
「そうでしょ?いつでも触って貰えるように髪手入れに力を入れてるもの」
「ならいつでも触っていいの?」
「んー、二人きりの時ならいいけど、ダリアの近くでは止めてね?見られてると恥ずかしいから」
「そっか……、なら今なら触っててもいいよね」
ダートが椅子の上で横になって膝の上に頭を乗せてくるけど、その体制は座っていて辛くないのだろうかと思うけどそのまま身を任せて来たから髪の毛を触らせて貰っていると、暫くして何時の間にか安心した顔をして眼を閉じていた彼女から寝息が聞こえてくる。
「……ダリアとルミィが大変な状況にあるのにこんな事してていいのかなぁ」
でもダートのおかげで二人が誘拐されたと聞いて張りつめていた気持ちが解けたから彼女なりに気を使ってくれたのかもしれない。
あのままだと明日もし二人を助けに行くとなったとしてもまともに動くことが出来なかったと思うから、いつもダートには助けられてばかりだ……、どんな時もぼくの傍にいてくれてありがとう、と心の中で感謝しつつこれは動いたら彼女を起こしてしまうからどうしようかなと考えていると、部屋の扉が規則的に叩かれて扉が開いていく。
「レース様にダート様、ミュラッカ様からお二人が私室にて夕食をお食べになると聞いたので運んできましたが、入ってもよろしいでしょうか……、あら?」
年老いた侍女が夕食を載せたカートを押して開いた扉の前の前に立っているが、微笑ましい物を見たような顔をしながらぼく達の方を見つめて来る。
それに反応したダートが眼を開いて凄い速さで起き上がると何事も無かったかのような仕草をするが……、反応的に既に見られているから隠しようがないと思う。
「ふふ、仲がよろしいのですね」
「えぇ、ぼくの自慢の人ですから」
「本当羨ましいです、この国の男って戦う力は男の方が強いから女は黙ってついて来いっていう人が多いですからね、何といいますか覇王様とスノーホワイト様の関係を思い出して懐かしい気持ちになります」
「そうなんだ?」
「はい、覇王様は珍しく側室を作らずに王妃様一人を大事にし続けた珍しい方ですからね、本来ならその尊き血を残す為に側室を交えて沢山の子を作って貰わなければいけないのですが、それを良く思ってないのか歴代の覇王の中で最も子供が少ないんですよ?」
その割にはゴスペルと言う妾の子を作ったりしているけどそれは良いんだろうかと思うけど、触れない方がいい気がして何も言えなくなる。
正直ぼくには分からない世界だと思うから関わらない方がいいだろう。
「……ところでお部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、はい宜しくお願い致します」
「分かりました、お食事の方をテーブルに置かせて頂きますので暫くお待ちください」
侍女が部屋に入ってくると、テーブルに食事を並べてそれぞれを一口ずつ口に入れて食していく。
この国に来た頃は何で人のご飯を食べるんだろうって思ったけど、こうやって食べる事でこの料理や飲み物には毒が入ってない事を教える為らしいけど、正直毒でも治癒術で解毒出来るから大丈夫なんだけどな……。
「では、私は個室に戻らせて頂きますので後は二人のお時間をお楽しみくださいね……、あぁ食器類は食べ終えたら部屋の外に出して頂けたら夜間見回りの騎士様が片してくれるので置いといてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
……そう言って部屋を出ていく侍女が出ていくと二人で夕飯食べ始めるが、美味しいけど何だか少しだけ気持ちが落ち着かない。
ダートも同じ気持ちなのかお互いに口数少なく食事を食べているとダートが『次はダリアと一緒に三人で美味しいご飯を食べようね』と微笑んでぼくの方を見る。
その姿を見て、ぼく達の日常を早く取り戻したいと思うのだった。