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第17話 実力を知りたい

 覇王ヴォルフガングに生きてミュラッカと国を良くして貰いたいと思うけど、あの人は多分もう心の中で諦めてしまっている気がする。

じゃなかったら自分が死んだ時の話をしないだろうし、それにヴィーニの事を自らの手で処刑する何て事も言わない筈。

仮にヴィーニ達との戦いに生き残ったとしても王位をミュラッカに継承させて何処かに行ってしまう気がして、何とも言えない複雑な気持ちになってしまう。

一ヶ月しか接したことが無い人だけど、彼なりに気遣ってくれていた事は人との交流が得意な方ではないぼくにでも分かる位だし、産まれたばかりのぼくを捨てた事に関しては正直言うと思う事はあるけど、家族に生きて欲しいと思うのは当然の事だ。


「……あの時は良い作戦っだとは思ったけど、改めて聞くと気になる事があるのよね」

「気になる事?」

「えぇ、レース兄様やダート義姉様はカエデ様と付き合いが長いから信用してると思うんだけど、私は今日が初対面だから彼女の立場を信頼は出来るけど信用は出来ないのよ」


 つまり長い付き合いだと気づけなくなるけど、初対面だから気付けたことがあるって事だろうか。

ぼくからしたら問題無いと思うんだけど……


「ミュラッカ、カエデちゃんの作戦の気になる事ってどういうところ?」

「それは私が全員の戦闘能力を把握出来ていないという点で、カエデ様の作戦は全員の強さを把握した上で組まれた物だと思うのだけど、私は皆がどれくらい戦えるのか知らないのでいざという時に連携が取れずにお互いに足を引っ張ってしまう可能性があると思うの、勿論皆の実力を疑っているわけじゃないんだけど……」

「んー、ミュラッカはどうすれば納得出来そう?」

「言いづらいのだけど……、ダート義姉様達と実際に戦って確かめたいわね」


 確かに実際に戦った方がお互いの実力を把握出来ると思うけど、ミュラッカの言い方だとまるでぼく達三人と戦っても勝てそうと言われているみたいで何とも言えない複雑な気持ちになる。



「……わかった、それなら今からカエデちゃんに話してくるね?」

「えぇ宜しくねダート義姉様、準備が出来たら屋敷の庭で待ってるわ」

「うん、じゃあ行ってくるね?レースも一緒に行こ?」

「ごめんなさい、レース兄様とお話したい事があるから一人行ってもらっていい?」

「そうなの?じゃあ……、カエデちゃんのとこ行ってくるね?」


 ミュラッカがぼくの手を取って、部屋の扉を開けるとそのまま庭へと向かって通路を歩き出す。

……後ろでダートが『私のレースの手を……』と言ってる声が聞こえたけど、気にしてはいけない気がしたから今は反応しない事にする。


「えっとミュラッカ、手を繋がなくても外まで行けるよ」

「私がレース兄様の手を繋ぎたかっただけだから……、それとも妹が兄の手を取ったらダメなの?」

「そういう事なら別にいいけど……」

「ふふ良かった、じゃあお話ししながら庭まで行きましょ?」


 柔らかい笑顔を作って楽しそうに笑う彼女を見ると、ダートが言っていた『家族に甘えたい』というのは本当なんだろうなって感じる。

多分だけど、ヴィーニの件や幼いルミィの事で色々と二人の姉としてしっかりしようとしてきたんだろうし、それに自身の立場が原因で今迄人に甘える事が出来なかったんだと思う。

甘えて来た時は、普段通りに接してあげればいいとは言ってたけど本当にそれでいいんだろうか?、ミュラッカの兄として何か他に出来る事はあるんじゃないかと悩んでしまうけど特に思い付く事が無い。


「あのね?これからレース兄様達と戦う事になるけど、私は全員を倒すつもりで全力で行くわ……、だからえっと」

「言い辛いなら無理に言わないでいいよ?」

「そうじゃないの、皆にも同じ気持ちで来て欲しくてね……?、でもダート義姉様はとても優しくて素敵な方だし、カエデ様は私よりも年下の女の子だから傷をつけてしまわないか心配で……」

「全力でって言う割には言ってくる事が矛盾してるけど大丈夫?」

「そ、そんなの分かってるわよ……、でもこの国では戦場に出るのは肉体的に力がある男性の役割で、女性は家で家族を守る事が常識なのよ?、勿論冒険者には女性もいて男性と同じように戦ったりする事があるのは分かってるけど、どうしても気を使ってしまうのよ」


 つまり相手が女性だから気を使ってしまっているという事か……、そんな事気にしないでいいと言いたいけどミュラッカの性格的に難しいのだろう。

ただ、そういう一般常識がある国の中でどうして彼女は自ら武器を取って戦っているのか気になってしまうけど聞いていいのだろうか。


「……えっと、それなら何でミュラッカは武器を取って戦っているの?」

「私ですか?……、それは多分母様みたいになりたかったからかも」

「母様というと、スノーホワイト王妃だよね?」

「はい、あの人は父様と婚姻をする前は、自ら戦場に出向いてはその秀でた術の才を活かして氷の魔術で敵対する者を一撃で葬り、例え敵であっても降伏した者を手厚く保護して負傷者治療して回るという、とても優しい人だったらしいわ」

「……何ていうか治癒術師みたいだね」


 まるで教会所属の治癒術師みたいに、紛争地帯を回って治療を行なったりしていたのかもしれない。

それに術の才に秀でていたという所も何処となくぼくに似ている気がして、そういう彼女の才能を受け継いだから今の自分がいるのかも。


「そうよ?若い頃にメセリーで治癒術を学びに行って治癒術師になったらしいの、その時に現魔王の【ソフィア・メセリー】様と仲良くなったらしいわ……、それでね?肉体強化の方は一般人並の才能しかなかったらしいんだけど、ある時戦場で当時まだ第一王子だった父様にあったらしくてね?、一目見て一目惚れした母様がこう言ったらしいの」

「……何て言ったの?」

「えっと『私が勝ったら結婚してください』って、それで当時現覇王の王弟の娘が勝っちゃったの凄いと思わない?」

「凄いとは思うけど……」

「でしょ?それで戦場での戦いが落ち着いた後に、首都に一緒に戻ってそのまま婚姻をしたと思ったら父様は戦いの功績を認められて王位を継承して、母様は王妃にそしてその一年後に兄様が産まれたんだけど……」


 多分だけど、覇王ヴォルフガンはぐいぐいと来られて逃げられなかったんだろうなぁと思う。

若い頃のぼくと雰囲気が似てるって周りから散々言われて来たから何となくそう感じるってだけなんだけど、押して来るタイプに弱かったんじゃないかなぁ……。


「……ぼくが産まれたんだけど?」

「んー、そこから先は父様に機会があったら直接聞いた方がいい気がするから言うのは止めとくわね?、……私は母様から全部聞いてるけど、勝手に喋るのは違うと思うから」

「そっか……」

「うん、ごめんねレース兄様、話が長くなっちゃったけど……、私はそんな母様みたいに戦場に一人で立てる程に立派になっていつか素敵な異性にあったらこう言うの『私が負けたら結婚してくださいっ!』って、だから戦場に建つのよ」

「……そこ勝つんじゃないんだ」


 母親とは何で真逆何だろうって思ってつい反応してしまったけど、これはもしかして聞かない方が良かったのでは……


「それはそうよ、父様と母様の血を受け継いだ私なら勝とうとすれば幾らでも勝てるわ?、だから全力で戦って私を倒せた人と結婚するのよ……、それに」

「それに……?」

「私が覇王になって『ミュラッカ・ストラフィリア』になった時、王妃の隣に立つ男が私よりも弱かったらこの国の国民が納得しないわよ」


……ミュラッカはそう言いながらも、顔は何処となく楽し気で本当にそんな人が現れる事を信じている気がする。

多分、難しいんじゃないかなって正直に伝えようと思ったけどそれを言うと折角こうやって打ち解けて来た関係が台無しになりそうな気がしたから黙っている事にするのだった。

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