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第34話 獣人族と魔族

 作って貰った朝食は食べると体の中から温まって来る感じがして、一年中寒いらしいこの国での活動を考えられた物になっていた。

多分ぼくが分かる範囲ではカボチャやニンジンとかがスープに入ったりしていたけど、どれも味付けがしっかりしていて頭にもしっかりと栄養が行く気がする。


「どうやら馬車で行けるのはここまでみたいだね、ミュラッカ様ここからは徒歩での移動になりますけど大丈夫ですか?」

「おかしいわね……、この近辺はしっかりと道が整備されているから領主の館まで馬車で行けた筈なのだけど」

「それが……、道が雪と氷に覆われていてこの上を馬車が通るとしたら危険な状況になってるんですよ」

「この近辺で雪が降った何て聞いて無いけど……、ちょっと外に出て確認するからレース兄様達はここで待っててね」


 ミュラッカが馬車の扉を開けて外に出ると直ぐに『これはまさか……』という声が聞こえて来る。

何事かと思って扉から顔を出すと道が完全に凍り付いていて、その上には二足歩行の豚達が氷像のように固まっていたり、それを囲むように白い毛並みの狼たちが地面に縫い付けられて絶命していた。

これはいったい何だろうと思っていると……


「これは亜人種のオークとスノウウルフですか……、ストラフィリアに生息しているモンスターですがいったい何があったのでしょうね」

「オークは歴とした魔族で、獣人族の一員なんで……、だからモンスター何て呼ばないで欲しいですね」

「定義としてはそうでしょうけど、彼等は人間に危害を加えるので……」

「ちょっと待って、昨日から気になってたんだけどサリアはどうして獣人族を魔族って言ったり、獣人族って言い直したりしてるの?」

「あぁ、それは……、これって言っていいのかな」


 御者台の方にいるサリアが困ったように帽子を抑えるとそのまま黙ってしまう。

もしかして言いづらい事を聞いてしまったのだろうか……


「言いづらいようなので私が答えますが、獣人族は昔は古い時代魔族と呼ばれて居ましてその名残で獣人族の中では自らを魔族と名乗る人達が一定数いるんです、ただ魔族という種族にはレースさんもご存じだと思いますが、【ゴブリン】という種や【コボルト】という顔が狼で身体が人間の亜人も含まれてしまいますね」

「つまり冒険者の人達が依頼を受けて狩ったり、ぼくが治癒術の実験の為に犠牲にしてきたゴブリンって……」

「範囲としては人間という事になりますね、ですけど種族的な文化の違いにより野性的な生活を行ない人に危害を加える存在を魔族と呼び区別している感じですね」

「なら何でモンスターって呼んでるの?」

「単純に人の味を覚えてしまった魔族をモンスターと呼ぶようになってます、一度人間を食べた種族は率先して人を狩るようになるので……」


 ……カエデの説明を聞いて思ったけどあそこで氷り付いているオークや狼も魔族なのだろうか。


「ですが、あそこで氷り付いているスノウウルフ等の動物やスライム等の魔法生物は生きる為に人を狩るのでモンスターと定義されています、前者の場合は私達人間に被害があった場合のみ冒険者ギルドが依頼を出して討伐する事が許可されますが、後者の場合は人間に被害が増えないように冒険者ギルドから依頼を受けて増えすぎた固体を減らすようになっていますね」

「……何となくは分かったけど、それなら討伐依頼に無い種族を討伐したらどうなるの?獣人族と魔族は同じ存在なんでしょ?罪に問われたりしないの?」

「それは……、言いづらいのですが」

「言いづらいなら俺が言う、討伐命令が下される前に殺害された場合は、表面上は殺人罪に問われる事になるんだが、実際は襲われたから倒したという発言が認められてしまうから特に罪に問われる事は無い」


 それって魔族の人達からしたら理不尽なのでは……?、シンの言い方では余りにも魔族達の命の価値が低すぎる。

もしかして


「だから僕達は自らを魔族と呼んで、パパ……、いや団長の【死絶】カーティス・ハルサーの元魔族の地位を向上しようと頑張ってるんだよ」

「それだとこの光景は見ていて辛いんじゃない……?」

「こればっかりは自然の摂理だからしょうがないかなぁ」

「私からしたら獣人も魔族も関係無いわ、覇王になったらどのような種族で在れど国民に被害が及ばないのなら、国民として受け入れるもの」

「ミュラッカ様……、あなたが本当に覇王になれた時にその言葉が真実になる事を、このサリア心から祈らせて頂きます」


 ……でもそれなら疑問があるんだけど、ジラルドは魔族の事を亜人と何度も呼んでいたけど、冒険者ギルドが彼等を魔族と呼んでいるなら、冒険者達の中でも共通していないとおかしいんじゃないか。

そう思うとこの定義分けに違和感を感じてしまう。


「ダート、ジラルドは魔族の事を亜人って呼んでたけど……」

「高ランク冒険者である私達は依頼の内容次第では、魔族の人達の集落に滞在して助けて貰う事があって、一度そういう経験をした人は亜人って呼ぶようになるの、彼等の中には人間に友好的な種族が多いから……」

「じゃあぼくが治癒術の新術開発の為に犠牲にしてきたゴブリンとかは?」

「あれは……、人の事を食料や繁殖用の道具としか見て無いから幾らでも討伐していいと思う、数が揃うとAクラスやBクラスですら狩られるから、見かけたら討伐して数を減らさないと繁殖して増えたら怖い事になるよ?」

「……でもおかげで、ゴブリンで実験した治癒術がどうして人にそのまま使う事が出来るか分かったよ」


 彼等も元を正せば人間だから問題無く使えたって分かっただけ、長年のどうしてそのまま同じように使えるんだろうという疑問が解けたけど……、変わりにダートがゴブリンなら幾らでも討伐して良いと言っても次からは躊躇ってしまいそうだ。


「いつまでもあれこれ話してないで、さっさと行くよっ!このままだと到着に遅れちまうっ!」

「それもそうだな、俺とトキが先頭を進む、お前達は後ろから何かが来ないように警戒しつつ進んでくれ、もしかしたらモンスターが出るかもしれないからな」


……シンとトキが武器を手にすると先頭を警戒しながら歩いて行く。

それに続くように彼等の後ろを歩いて行こうとしたら、サリアが馬車に繋がれていた馬を放してしまう。

何でこんな事をって思ったけど『こうする事で村に勝手に帰るように呪術が掛けられてるんですよ』とぼくの方を見て答えてくれたから安心して道を進む事にしたけど……、誰も来た道を戻って行く馬の音が急に消えて周囲が無音に包まれた事に気付けないのだった。

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