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第35話 閉じられた空間

 暫く歩いているけど景色が変わる事が無く、何処まで行っても雪と氷に覆われた道を進んでいる。

ここはさっき見たような記憶がある……、それにここの段差はさっきダートがつまずいて転びそうになった所をぼくが抱き留めた所に似ているし、あそこは少し前にトキが足元が凍結していて危ないからと武器で砕いた場所だと思う。

現に地面が抉れているから間違いない筈だ。


「ちょっとこれはおかしい……、あたい等やられたかもしれないね、シンはどう思う?」

「……間違いなく何者かに術を掛けられているかもな、確かめたい事があるからお前らはそこに居ろ」

「シンさん、お願いしますね」

「姫にお願いされなくてもやる事はやるさ、その分の金はちゃんと貰っているからな」


 シンが剣を取り出すと近くの樹を切りつけて一人で歩いて行ってしまう。

そこに居ろとは言われたけど彼に単独行動させて良かったのだろうか、もし何かあったら危険な気がする……


「シン様、私も付いて行った方が良かったかな」

「あいつの性格的に単独行動した方が効率良かったんだろうね、だからミュラッカ王女が気にする事じゃないよ」

「でも……」

「あんたあいつの事好きなんだろ?だったら信じて行かせてやるのも必要だよ」

「そうね……、そうするわ」


 ミュラッカが自分の髪を指で触って思い悩む仕草をするけど、彼女的には心配でしょうがないのかもしれない。

ぼくもダートが一人で行ってしまったらと思うと同じようになるだろうけど、トキの言うように信じてあげるのも大事かもしれないから、ここは見守るしかないんだと思う。


「トキさん、ミュラッカ様の事をあんた呼びは止めた方が……」

「姫ちゃん、止めた方が良いも何もこうやって行動してるんだから、距離感を詰めた方がいいとあたいは思うよ?、いつまでも他人行儀で敬語を使うよりもその方が良い事ってあるんだから」

「えっと……、でもそうなると私がこの中で一番年下なので失礼では?」

「年下とか関係ないと思うよ?ちゃんとした所でなら敬語を使った方がいいと思うけどね……、まぁあたいはそもそも敬語使うの苦手なだけだから必要な時以外使いたくないんだけどねっ!」


 そうやって豪快に笑うトキをジトーっとした目で見るカエデがいるけど、確かに彼女の言うように敬語ばかりよりもある程度距離を詰めてくれた方が嬉しい時もあるかもしれない。

特に未だにぼくやダートに対しても丁寧な言葉使いを使っていて距離感を感じる時があるし、出来れば自然な話し方をして欲しいと思う。


「カエデちゃん、私もトキさんの考えには同意出来るかな、未だに私やレースとの間に距離感感じる時があるし……、ランちゃんと話す時は敬語じゃなくて普通に話してたでしょ?少しずつでいいから普通に話して欲しいな?」

「お姉様が言うなら……頑張りま、いえ、頑張ります」

「ぼくもその方が嬉しいから宜しくね?」

「レースさんにはちょっと……、恥ずかしいので嫌です」

「恥ずかしいってなんで?」


 思わず聞き返すと『な、なんでもないですっ!』と顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまったけど、もしかして何かやってしまったんだろうか。

トキは面白い物を見たような顔をしてにやにやとぼくとカエデを見ているし、ダートは何だか難しい顔をしているのが気になる。

そしてミュラッカが何かを思い付いたような顔をしたかと思うと……


「レース兄様はストラフィリアの王族だから、ダート義姉様さえ良ければ側室を迎えても問題ないわよ?」

「……私は嫌、レースは私だけのだもの、隣に私以外の人がいる事何て考えたくない」

「私もレースさんとそういう関係になりたいなんて考えて無いです」

「ならいいけど……、個人的には女性の王族以外は正妻の他に側室を迎えるのが普通だし、将来的にダリアさん以外にダート義姉様に子供が出来た場合その間色々と出来ない事が増えるでしょうし、レース兄様側も我慢する事が増えると思うからその時の事を考えといた方がいいと思うわ、現に二人は性に目覚めるのが早かったみたいだし色々と大変でしょ?」

「……その時の事は、必要になったら考えるからミュラッカが口出ししないでいいよ」


 ……正直まだその時の事を考えてはいなかったけど、将来ダートとの間に子供が出来たらミュラッカの言うように出来ない事が増えるんだと思う。

でもその分はぼくがやればいいし、夫婦というのはお互いに助け合うものだと思うから大丈夫な筈だ。

でもミュラッカのいう王族だからこれが普通だっていう事は何となくわかる、ストラフィリアの【商王クラウズ】にもコルク以外にも沢山の子供がいるみたいだから、間違いなく側室がいるだろうし、この国の【覇王ヴォルフガング】は母さん意外とは婚姻を結んではいないけど、現にゴスペルという腹違いの兄がいる。

それを考えると王族とはそう言う物なんだなって理解は出来るけど、ぼくがいざ同じ事をするかとなると現状は考える事が出来ない。


「……嫌だけど、考えてはおくね」

「ダート?嫌なら無理しないでいいよ?」

「これは王族と結婚する上で必要な事かもしれないから、どうしようもなければね?でも無理は絶対しないから大丈夫だよ、レースありがとう」

「私はえっと、レースさんにそういう感情を持って……、無いので」

「カエデもそう言ってるから大丈夫だよ」


 何でそこでカエデを除いた全員が『え?本気でそれ言ってるの?』って顔をするけど、本人が違うって言っているんだから間違いない筈だ。


「いや、皆緊張感無さ過ぎじゃないですか?ただでさえ足止めくらってるんだからそろそろ焦らないと駄目じゃないかなって僕思うんだけど」

「……それはそうだけど今はシンさんを信じて待つしかないよ、下手に動いて被害を出す訳には行かないしさ」

「そりゃそうですけど……、何だかなぁって感じ」


 サリアが難しそうな顔をしながら腰に下げてる道具袋の中に手を入れてコンパスを出すけど、針がぐるぐると回るばかりで方角が分からないままだ。


「方角が分かれば進めると思ったのに分からないし、これはもうどうしたら……」

「どうしたらも何も一定範囲まで行けば、こうやって転移して戻されるんだから元を立たなければダメだろう」

「転移ってどういう……?ってあれ!?何であなたがここにっ!?」

「歩いて来たら転移させられて戻って来た、それだけだ」


……ぼく達の後ろからシンさんの声がして皆がふり返ると、先に行った筈の彼がそこにいた。

やっぱり同じ場所をぐるぐると回っていたのかと思ったけどそれならどうやってここから脱すればいいのだろうか。

もしかしたらこのままずっとこの空間に隔離されて出られないのかもしれない、そんな事を思っていると……『だが、色々と調べた結果この空間は近くに術者が居ないと維持出来ない事が分かった』と言って、道の両脇に生えている樹々に向かって剣を振る。

するとそこに何も無い筈なのに金属同士が当たったような音がして『謎を解いた瞬間に態と気配を出したな?』と獰猛な笑みをシンが浮かべるのだった。

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