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第36話 幻死の瞳

 金属同士がぶつかる音がした場所から四本の尾が現れたかと思うと、青い炎がそれぞれの尾の先端に出現してシンの姿を青く照らす。


「……化かされてはくれませんでしたか」

「態と分かるように気配を出した奴が言う言葉か?」


 そして炎が一つになり、人が一人入る大きさになったかと思うと紙で作られた御札で剣を受け止めている狐の獣人族が現れる。

あれは確か……、かなり前にケイスニルと戦った時に現れたグロウフェレスだった筈。


「この空間の謎に気付いた見たいなので、術者が近くにいますよって教えてあげた方が良いかと思いましてね」

「なら見つけたご褒美に術を解いて貰いたいのだが?」

「解いて差し上げたい気持ちは山々なのですが、あなた達をここで足止めするのが私のお仕事なのでして」

「足止めだと?」

「えぇ、領主の館に恐ろしい威力の魔力の塊を飛ばして来た人物を中心にこの地に隔離する様にしていたのですけど、まさかあなた達が引っ掛かる何て思いませんでしたよ」


 話ながらも四本の尻尾だけは別の生物のように動いていて、それぞれの尾に張り付けられた御札がシンの攻撃を防いでいる。

しかもその度に硬い物にあたる音がする当たり、もしかしたらこの御札の力で尻尾が硬質化していて攻撃を防いでいるのかもしれない。


「このままだと押し切られてしまいそうで怖いですね、本当に恐ろしい」

「そういうならその閉じている眼を開けたらどうだ?【幻死の瞳】グロウフェレスさんよ」

「お断り致します、今の私は先程言った通り足止めですからね、あなた達を殺害する理由が無いんです、ただまさかあなたたちが昨日攻撃を仕掛けて来るなんて思いませんでしたよ……、ルミィさんやダリアさんの身に何かあったらどうするつもりだったのですか?」

「どうするも何も俺達は攻撃等仕掛けていな……、あっ」

「……攻撃の手を止めてどうしたのですか?」


 シンが攻撃を止めてぼくの方を見ると、『お前のせいか』と言わんばかりにこちらを睨みつけて来る。

その視線を受けて一瞬体がビクッとしたけどグロウフェレスの発言と、シンの行動を見て何となく察してしまう。


「もしかして昨日放ったのがそのまま領主の館に?」

「間違いなくそうだと思うけど……、レースは分かってやった訳じゃないから態とじゃないでしょ?」

「うん……」

「レース兄様、グロウフェレスの言葉が真実ならあちらもそれ相応の被害を受けた筈、やった事は問題しかないけど、この人が足止めに来てるという事は今私達が来たら困る事になってるという事では?そうでしょう?」

「まさかあんたのやらかしがこんな事になる何て面白い事もあるもんだね」


 グロウフェレスは優しい笑みを浮かべながら顔をぼくの方へ向けると、心の中を覗かれているようなそんな不快感を覚える。

それはまるで土足で自分の中に踏み入れられているようで不快感しかない。


「……どうやら本当に敵意が無かったみたいですね、それを知れて安心しました、あなた達が意図的に家族を傷付けようとしていたなら、本気で戦う事になっていましたからね、これで安心して足止めが出来ます」

「お前この人数相手に一人で足止めが本当に出来ると思っているのか?」

「出来ますとも、こうやって会話をしている事が事実時間稼ぎになっていますからね……、それに答え合わせですがミュラッカ王女の言うようにあなた達に来られたら困るのですよ、そこのレースさんの行動のおかげで覇王ヴォルフガングにぶつける予定だった領民達で結成した反乱軍は逃げてしまいましたし、何故死絶傭兵団は出て行ったまま帰って来ないと思ったら副団長のサリアさんがそちら側に……、計算外な事ばかりなんですよ」

「ぼ、僕達死絶傭兵団はそちら側から、ミュラッカ王女側に付く事にしたんだっ!その分の報酬は貰ったから文句なんて言わせないぞっ!」


 身体を振るわせてそう言うサリアは、グロウフェレスから逃げるように樹の後ろに隠れると『だから皆っ!グロウフェレスを倒しちゃえっ!がんばれーっ!』と遠くから大声で応援してるけど、彼女は戦ってくれないんだろうか。


「傭兵団は報酬次第でどちらにでも付きますからしょうがないですね、私は決して責めませんが、その態度はどうかと思いますよ?」

「うるさいなぁっ!僕は戦うのが苦手なのっ!」

「私の鑑定魔術で見える能力では……、この中で一番才能があるのですが?それに獣人族の中でも恵まれた種族同士との混血ですし、本気を出せば私程度簡単でしょう?」

「勝手に人の能力を見るなっ!それに僕は誰かを傷つけたりしたくないんだっ!だから戦わないんだっ!」

「戦いたくない理由がおありなんですね……、それなのに無理強いをするような発言をしてしまい申し訳ございませんでした……、おや?我が主から連絡が」


……グロウフェレスが狐の耳をぴくぴくとさせながら何かを聞いている仕草をしていたと思うと『なるほど、主の求める能力をレースさんとダートさんが持っているのですね……、分かりました』と言って徐々に眼を開く。

そして『足止めだけの予定でしたが、主から二人を連れてこいと言われてしまいましたので本気でやらせて頂きます、どうか皆様ご覚悟を』と言葉にすると、徐々に姿が獣へと変わって行き九本の尾を持つ大きな狐が姿を現すのだった。

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