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第38話 天狐

 口の中に牙が無いという事は上下に2本ずつあるらしい、吸血用の歯を抜いて差し歯にしたという事なのだろう。

とは言え種族特有の能力で血液を接種する事が出来ればどのような傷でさえ一瞬で感知すると言われているモンスターだった筈だから、血を吸っていないという事は事実何だと思けど……


「俺を殺すとは恐ろしい事を言うな……、レース、ダートお前らは術が解けた以上は他と違い問題無く動けるだろ、一緒に戦え」

「何処まで力になれるか分からないけどやってみるよ」

「任せて、私達三人でグロウフェレスを倒して早くヴィーニの所へ行こう」

「……アキラの弟子にしては反応が素直だな、トキっ!お前ももう動けるだろ、おまえはどうする?前線に出て戦うか?」

「さっきまで死にかけてた相手に何を言うんだい、あたいは姫ちゃんとミュラッカを担いでサリアが隠れてる所に行かせて貰うよ」


 トキがゆっくりと立ち上がると未だに動けないカエデに近づいて肩に担いで、ミュラッカの元へ行くけど彼女はそのままよろけて立ち上がって、何故かぼく達の方へと歩いてくる。


「私は大丈夫だからカエデ様の事をお願いするわ、重要な戦いに王族が参加しない何てありえないもの」

「……そうかい、ならあたい達は安全なところで待機させて貰うよ、頑張りなミュラッカ」

「言われなくても頑張るわよ、レース兄様とダート義姉様、それにシン様に任せっきり何てみっともないわ」

「ならお前も戦力に入れるが……、くれぐれも足を引っ張るなよ?」

「足なんて引っ張らないわ、最初から本気で行くから」


 トキがそのままサリアの隠れている樹の後ろに行くと、『何でこっちに来るのっ!?僕戦えないって!』と声が聞こえたけど、『うるさいねぇっ!戦えないなら弱ってるあたい等の面倒を見なっ!傭兵団の副団長ならそれ位出来んでしょっ!』と一喝されて以降、こっちに声が聞こえなくなったから彼女にカエデの事を任せても大丈夫だろう。


「何でサリアさんは戦わないのでしょうね、何度も言いますがこの中で一番実力があるのは彼女なのに、これでは私とあなた達の間で実力差が開きすぎて一方的です」

「戦いたくない人を無理矢理戦場に出すのは違うんじゃないかな……、それに一方的かどうか何て分からないよ、ぼく達はあなたを倒して急いでヴィーニ達の所へ行くから負けるのはグロウフェレスの方じゃないかな」

「いいますね人間、それなら是非やって見せてください」


 グロウフェレスが両手に持っている御札を地面にばら撒くと、そこから見た事もない異形の生物が現れる。

額に御札を付けて頭部に角が2本生えている上半身裸の巨人の怪物に、人の頭部に大きな瞳と耳元まで裂けているように見える着物を来た女性、そして最後に出て来た異形が明らかに異彩を放っていた……。


「なにこれ、レースは見た事ある?」

「いや、無いかな……、ミュラッカは?」

「ストラフィリアでは見た事が無いモンスターね……」

「あれは……、山奥に生息しているモンスター【ドラゴン】、主にメイディに生息している事で有名で必要とあれば人に身に化けて村に降りて来る事がある、そして最初に出て来たのは戦う事を生きがいとする種族【ギガンテス】、生まれつき発達した全身の筋肉を武器にする亜人だな、最後が【モノアイ】、栄花に生息している亜人で生物の若い個体、それも生まれて間もない幼児に自身の一部を寄生させる事で肉体を作り変える事でのみ固体を増やす事が出来る寄生型の種族だ、それも全て冒険者ギルドの依頼でグロウフェレスが捕えた固体だ」

「その中でもこちら側に来てくれた方達です、彼等はその身を私の御札に封じる事で必要な時に力を貸してくれるのですよ、さぁ行きますよ皆さん、白髪の男性とゴールドアッシュの女性の二名以外は自由にして構いません」


 グロウフェレスの声に反応した三体が一斉に動き出す。

ギガンテスは近くに生えている樹を根元から引き抜き棍棒のように振り回して迫り、ドラゴンはその大きな身体で器用に雪の上を走る。

そして……、モノアイは腕を触手のように作り変えてぼく達の方へ音を切りながら迫るが……


「シン様どうしてっ!」

「……俺の能力は、傷付けばつく程力を発揮するっ!」


 鞭のようにしなる触手に皮膚を裂かれ、樹の棍棒により吹き飛ばされあらぬ方向に曲がった手足を使い器用に起き上がるシンは、眼を紅く輝かせながら敵を見ると、自身の服の中から赤黒い色をした液体の入っている瓶を取り出して封を開けると勢いよく飲み干す。

すると彼の髪が赤黒い色から真っ赤に染まって行く、まるで赤黒い血液が酸素を得る事で赤く染まって行く現象に似ているけどどういう事なのだろうか……、それに損傷した身体が傷を残して元の形に戻って行く。


「今飲んだのは定期的に抜いている俺の血液を保存した物だ……、自分の血を接種する分には問題は無いからな、それにこういう使い方も出来るっ」


 自分の傷口から出る血液を剣の形に変えて、モノアイの触手を切り落とすと元の血液に戻り雪の大地を赤く染め、どうやって相手の傷口から出る血に干渉しているのか、内側から真っ赤な針と赤黒い色の針が飛び出してボロ雑巾のようにその場に倒れてしまう。

その亡骸を踏みつぶしながら樹の棍棒を横薙ぎにしてシンを吹っ飛ばそうとした一撃を、間に入ったミュラッカが魔術で作り上げた氷雪の盾で受け止めると、心器の大剣で棍棒を根元から切断する。


「何故俺を庇ったミュラッカ」

「ヴァンパイア特有の血液を媒介にして発動する魔術だと分かっていても、私が惹かれた人が傷付く何て見たくありませんっ!」

「……ならお前が俺の負傷を止めて見せろ、この国を平和な世界にするんだろう?」

「当然よっ!じゃないとあなたは隣に居させてくれないでしょ?」

「……好きに言ってろ、誰が俺の隣に居るか決めるのは俺が決めるし、お前が誰の側に居たいかはお前が決めろ」

「はいっ!、レース兄様、ダート義姉様っ!そっちにドラゴンとグロウフェレスが行きますっ!」


……ドラゴンの背に乗ったグロウフェレスの顔が狐に変わると、手足が獣になり着物を来た姿になる。

そして狐特有の甲高い鳴き声を上げると四本の尾に御札をそれぞれ貼り付け『さぁ、ここからは化かし合いのない実力の勝負です、決死の覚悟で掛かって来てください』というと、それぞれの尾に火、水、土、風の魔力で形成して不敵な笑みを浮かべるのだった。

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