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第39話 戦うなら二人で

 ドラゴンの上にいるグロウフェレスが眼を開けたかと思うと霞のように消える。

そして何処からか『くにゃーっ!』という甲高い声が聞こえたかと思うと目の前に現れた狐が四属性の魔術をこちらへと飛ばして来た。


「うわっ!」

「そのまま動かないでっ!私が何とかするからっ!」


 当たりそうになった攻撃がぼくの目の前で消えたかと思うと、迫りくるドラゴンの後頭部に空間跳躍の魔術で移動させられたのか凄まじい騒音と共に頭部を吹き飛ばされ地面に巨体を横たえる。

それにしてもこの威力……、まるで師匠の持つ最大威力の魔術を思い出す程で本能的に警戒してしまう。


「気を付けてダート、過去に一度見た事がある師匠の切り札に近い威力がある」

「そんなの連続で撃たれたら……、でも何とか相手の場所に攻撃を飛ばしてカウンターすれば?」

「勝てる可能性はあると思うけど、無理はしないで欲しい」


 手に心器の長杖を顕現させると、新しい能力の【自動迎撃】を発動させる。

すると再び尾に魔術を展開してこっちに飛ばして来るけど、不思議な事に雪の壁に防御される攻撃と壁が現れずにそのまま通過してぼくやダートの身体を通り抜けていく。


「化かし合いの無いと言ったのに……、これはまた幻術か」

「騙される人が悪いのですよ、戦いの場は素直な人ほど早死にするのですっ!」

「……レース、なんとかしないとっ!」

「グロウフェレスの術はぼく達の魔力と波長を合わせた上で発動する……、という事はダートぼくを彼の元へ転移させて欲しい」

「何をするかはわかりませんが……、来るなら受けて立ちますよ」


 ぼくは【自動迎撃】を解くと、指先に意識を集中して空間収納を発動させ、中に手を入れるとコルクから貰った短剣を取り出して左手に持つと肉体強化を発動させる。

それを見たダートが『その短剣はあの時の……、これならいける』と呟くと心器の短剣を手元に顕現させて素早く空間を切り裂くと一瞬でグロウフェレスとの距離を繋げてくれたから、彼の隙を付くために全力で飛び込んだけど手に持った御札で受け止められてしまう。


「……成程【次元断】を空間魔術に乗せてこういう使い方もあるのですね、良く考えたものですが受け止められてしまう辺り詰めが甘かったみたいですね、レースさんをおかげで捕える事が出来まっ、これはまさかっ!」

「そのまさかだよ、飛び込んだおかげであなたと波長を合わせる事が出来た、これでもう術を使う事は出来ない」

「短剣に魔力の糸を纏わせて、私が受け止めると同時に繋げて同調させるなんて強引な技を使ってくるなんて思いもしませんでした」

「こうでもしないと格上であるあなたと戦う事なんて出来ないでしょ」

「……どうしてそう思うのですか?」


 どうしてそう思うのかって、心器を使ってすらいない状態でこうやってぼく達を圧倒しているのがその証拠だ。

この人はぼく達相手に本気を出してはいないんだと思う、グロウフェレスが主と呼んだ人物は間違いなく【天魔】シャルネ・ヘイルーンだろう、彼女に連れてこいと言われた以上は本気を出してぼく達の命を奪う事があったらそれこそ本末転倒だから出来ない筈。


「心器を発動していないのがその証拠だよ、それに使わずに実力だけで圧倒している時点で隠す気が無いよね」

「レースさんは周りを良く見ている人のようですね……、敵に回したくない相手です」

「あなたが最初から本気だったら、ぼく達は一瞬で殺されていた筈なのにこうやって手を抜いたのが敗因だよ」

「それはどうでしょうね、現に私がこうやって爪を立てれば今からでもあなたを殺害する事が可能で、何ですかこの力はっ!」


 使ったら自分の身体が損傷してしまうって分かってはいるけど、ダートや皆を守る為なら躊躇いはしない。

自分の身が傷付いたなら治癒術で治せばいい、ぼくならそれが出来る筈だ。

師匠やマスカレイドに昔教わった事を思い出せ師匠から学んだ治癒術の基礎をそして、マスカレイドが小さい頃に教えてくれた魔術とは何か、それがあれば【怪力】を発動させながらでも治癒術を発動出来る。

全身を走る赤い魔力が自分に実力以上の力を与えてくれるけど、体を動かそうとすると骨が悲鳴をあげて体内で破裂音を上げて折れてしまう。

感じろ、この能力で動いている魔力を、使え、そこから溢れる余剰な魔力を治癒術に……、自分なら出来ると信じろ。


「恐ろしい能力ですが、どうやら自分の身体を傷付けてしまうようですね……、これだと主の願いを叶える事が出来ない、申し訳ないのですが止めさせて頂きますよ」

「させないっ!だってレースの事は私が守るからっ!」

「これは……、まずいですね逃げ場がない」

「あなたは今ここで私とレースが討伐するっ!行くよ!」

「うん、行こうダートっ!」


 ダートの声を聞いた瞬間、身体の余計な力が抜けて治癒術が発動し負傷が癒えて行く。

そうか、一人で戦おうとしたから力み過ぎて上手く行かなかったんだと思いながら、彼女の攻撃に合わせて全力で右手の長杖をグロウフェレスへと突き出して尾を貫くと同時に、ダートの短剣が彼の防御の上から狐の尻尾を切り落とし、雪の上に大量の血の花が咲くと同時に姿が消えて、何処からか声が聞こえて来る。


「……まさか私が本当に負けるなんて思いませんでした、ここは惜しいですが退かせて頂きます」

「逃げるの?」

「逃げますよ?それに私はこの戦いから降りさせて頂きます、二人ならまだしも全員となったら本当に討たれてしまいますからね、主を側で支えるお役目がある私が命を散らす分けには行きませんので……、では失礼致します、次こそはあなた達を我が主の元へ――」


……声が消えると共にグロウフェレスの気配も消えていく、それと同時にミュラッカ達の方もギガンテスを倒せたようで頭部を失った身体が地響きと共に倒れる。

これで戦闘が終わったのだろうと思っていると、地面に落ちた二本の尾が青い炎に包まれて徐々に灰になって行き……燃え尽きると同時に術が解けたのか遠くの方から今迄吹いて来なかった肌を刺すように冷たい風が来るのだった。

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