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間章 覇王と炎精 ヴォルフガング視点

 屋敷に俺の魔術で作られた大量の雪狼が押し寄せる。

そして一体の巨大な雪狼の上に跨ると、代々覇王の間にて継承されて来た心器の大剣【スノーフレーク】を顕現させ領主の館に向かって進撃した。


「ルミィとダリアを人質にするとはな……、血迷ったかヴィーニ」


 この国では認めたくないが力が全てだ、故に息子が俺を殺害しようが問題はない……、それが王位を継承する為ならストラフィリアの【第二王子ヴィーニ・トゥイスク・ヴォルフガング】が己が正義の為に力を示したとみられ国民から賞賛されるだろう。

だが、今の奴は愚かな事に東の大国の姫でありSランク冒険者としても名を知られている【薬姫 メイメイ】を我が者にする為に王位継承を破棄し自由になろうとしている……、馬鹿者が奴と薬姫ではそもそも同じ時を生きる事すら出来もしないのに何を夢を見ている。

俺がスノーホワイトと婚姻する前に起きた悲劇を、薬姫に一目惚れした息子には何度も伝えたというのに……。


「思えばゴスペルには悪い事をしたものだ」


 一番最初の息子【ゴスペル】とその双子の娘【フランメ】は戦場で出会った人の姿にその身を変えた【ドラゴン】の戦士で、燃えるように赤く輝く宝石のような瞳に一目惚れし彼女も一族の為に強い者の血を欲していたが故に互いに惹かれ合い、国に連れ帰り王家の隠れ家に滞在させ時間を見つけては、彼女の元へ行き逢瀬を重ねる間に産まれたのがこの二人だが国がそれを許しはしなかった、他国の貴族でもない人間との間に無断で子を成した事を責められ、最終的には俺を越える程の優秀な能力を持つゴスペルのみが国に残る事が許され、フランメとその母【グロリア】は国外へと通報されて以降は会えてはいない。

ただ……、その後戦場で出会った【スノーホワイト】にあのような感じで婚姻を迫られるとは思いもしなかったし、実際に負けるなんて予想すら出来なかった。


「それにしてもおかしい、俺の情報では反乱軍が領主の館に集結している筈だがいない、それにあれはなんだ?」


 領主の館に近づいて見えた光景が余りにも異常過ぎる、何処まで繋がっているのか分からない氷と雪で覆われた道が館の前で二つの分かれており、外壁が完全に氷付いていた。


「何者かの攻撃を受けたのか?、だがそれなら妙だ、そうだった場合警戒態勢になっている筈だ……、だがそれが無い」


 魔術で作り上げた雪狼のゴーレムも館の扉や窓を破壊して中に入って行くが、交戦しているような気配がない。

ただ館の最上階の方で懐かしい魔力の波長を感じる、これはフランメか……?


「ヴィーニの元へ行く王城内に現れる不審な人物の特徴を聞いた時はまさかとは思ったが、やはりお前なのか」


 白い髪に母親譲りの宝石のように輝く美しい瞳、そして人族の血では無くドラゴンの血を色濃く継いだ結果【竜人族】という希少な種族として生を受けた。

当時は人の身体にドラゴン特有の鱗が生えており異形の姿をしていたが……、今は完全な人の姿をしているという娘に会えたとして、俺はどんな気持ちで向き合えばいいのだろう。

それに母親はどうしたのか、彼女がいるならこんな危険な事なんてさせない筈だ、世界の禁忌を犯して指名手配される事何て絶対にありえない。

それに何故【フランメ】では無く自らを【ガイスト】と名乗っている?


「とりあえずあそこに二人が捕らわれている可能性がある以上は行くしかないな」


 乗っている雪狼を加速させ勢いを付けて跳ばし、最高度に到達した瞬間に足場代わりに利用して勢いを乗せて跳躍する。

それに合わせて全身を雪で覆い氷らせるとその身を一つの砲弾へと変えて外壁へと突っ込む。


「……まさか、そんな手段で我の元に来るとはのぅ父上や」

「ルミィとダリアは何処だ?」

「聞く耳を持たぬか、さすが娘と妻を捨てた男じゃのぅ、我の顔を見て何とも思わぬのか?感動の再開じゃぞ?」

「俺にガイストと名乗る娘はいない」


 やはりこの気配そして、母親に似た綺麗な顔立ちは間違いなく俺の娘なのだろう。

だが相手が誰であろうと目の前にいるなら敵だ容赦などする必要等ない、その結果俺の心が痛もうと守る者を守れるならそれでいい。


「我の本当の名前はフランメじゃよ……、あの時おぬしが捨てたフランメじゃ、何で我がここにいるのか疑問に思わんか?」

「思わない、何者であろうと敵であるなら切り捨てるのみだ」

「冷たい奴じゃのぅ……、この国のように何処までも冷たい、だがお主には聞く権利がある、我と母がどうなったのか」

「……」

「だんまりか、ならそのまま聞くが良い……、我と母が国外追放の身となった後食料も何も渡される事無く雪原に捨てられ当てもなく歩き続けた、喉が渇いては雪を煮沸して飲み水とし、腹が減っては樹の皮を茹でて柔らかくして何とか胃に入れる日々」


 ……国境付近まで送り届けるようにと当時指示が出されていた筈なのにいったい何をしているんだ。

いや心の中で問いかけなくても答えなんて簡単に出るじゃないか、この国の貴族はグロリアとフランメの存在を許さなかったのだろう、それ故に着の身着のままで雪原に放置し凍死させるか、モンスターに喰わせようとしたのだろうな。

ただ何となく分かった事がある、グロリアは過酷な環境に耐えられず死んでしまったのかもしれない。

ドラゴン等の爬虫類系の生物は本来なら寒い土地が苦手だ、人の姿にその身を変える事で耐えれるようになるがあくまで人並みになる程度、それに戦闘力も身体に引っ張られてしまう特徴があるせいで武器が無ければどうしようもないだろう。


「彷徨ってる間に、いくつかの村に辿り着いては食料を分けて欲しいと必死にさげたが、奴等は我らを力無き者としか認識し母がその身を捧げる事で辛うじて我一人分の食料を与えられては留まる事を許されず翌日には追い出される生活、おぬしには分かるか?その地獄の日々が」

「……分からない」

「そうであろうなぁっ!その後更にどうなったと思うっ!酷い栄養失調の末動く事すら出来なくなった母はその身を白く輝く鱗を持った巨大なドラゴンへと変えてこう言ったのだぞ『私を殺して食料にしてくれと』、泣きながら嫌だという私を見て悲しそうに鳴き声を上げると、自らの爪で急所を貫いてその身を糧にしてくれたんじゃ」

「なんという事を……」

「それを父上、おぬしがいうかっ!その後ドラゴンの肉を食している内に徐々に母が使っていた人化の術の使い方が頭に浮かび使えるようになり、全てを食し終える頃には東の大国【メイディ】に辿りついておったよ……、そこで最早生きる気力さえ失いかけて居た時に出会った師匠のおかげで冒険者として戦う力を得て、名も父上から頂いたフランメから、【ガイスト】へと変えこうやって今復讐の為にこの国に戻ってきたのじゃ!、ストラフィリアからしたら我は既に亡き存在、幽霊のようなものじゃからな!」


 ……話を聞いて思う、フランメは俺に復讐する権利があると、あの時俺にもっと力があったら自分の意志を通す為の実績があったのならこんな悲劇等起きなかったのだ。

現に娘がそのような地獄を生きている間、俺は二人の事等忘れてスノーホワイトと婚姻を結び四人の子宝に恵まれていた。

その内一番最初に産まれたレースは、一部の能力が低すぎるあまり止む追えなく間引く事になってしまったが、当時Sランク冒険者【叡智】カルディアが滞在している場所の近くに捨てる事で、あわよくば彼女に拾われて生きていてくれればという気持ちがあった、現に息子は立派に成長し強引にではあるがヴィーニの手でこの国に戻っては来たが、まさかその時に俺に孫がいる何て思ってもいなかったな。

出来ればあいつの側にいてやれなかった、父親として失われた時間をどうにかして取り戻そうとはしてはいたが、どう接すれば良いのか分からずにぎくしゃくしてしまったままだ。

それにミュラッカの事もそうだ、王城から遠ざけてばかりで父親として関わろうとしたことが無い、ヴィーニに関しては若い頃の俺に似ており、能力も非常に高かったから勝手に期待して王位継承の為に厳しい指導をした。


「……これは自業自得なのかもしれないな」

「おぬし何を言っておるのじゃ?」


 ただルミィが産まれて暫くしてスノーホワイトが亡くなった後、俺やミュラッカそして王城内の者達で娘を育てている内に初めて父親らしい事は出来た気がして、心の中で充実感と幸せを感じていた。

出来れば彼女がいるうちにしてやりたかったが、多分そういう態度を見せると【覇王たるもの父親としての立場より王としての立場を優先しなさい、この子達は私が立派に育てて見せます】と怒られそうだな。


「お前とグロリアがいなくなった後、俺は二人の事を忘れ幸せを謳歌していた、娘に恨まれるのも当然だ」

「そうじゃっ!だから父上は今ここで我に殺されるのじゃよ!」

「確かに俺はお前に殺されるのだろうな、ヴィーニの手で死ぬと思ってはいたが、殺すならお前がやるべきだ、そうする事でしかフランメ、俺の娘の未来は闇に落ちたままだ、だがただで殺られるわけには行かない、命尽きる前にルミィとダリアを助け出させて貰うぞっ!フランメっ!」

「……そうやって人を思いやれるならどうして、兄上が壊れるまで酷使した?」

「すまない奴がこの国で生きる為に必要だったのだ……、本当にすまない」


……出来ればゴスペルにも人として幸せになっては欲しかった。

綺麗事だと分かってはいるが、一般的な親である以上そう思うのが普通だろうが、この国ではそれが普通ではない。

それ故にここまで壊れてしまった家族としての絆と大事な家族との間で失われた時間に後悔するが、今そんな感傷に浸っている時間はないのだ。

俺は心器の大剣を娘へと向けると名乗りを上げる『我が名は当代の覇王ヴォルフガング・ストラフィリア、武を極め、己が欲望のままに全てを支配しようとした神をその身に封じた人柱也、守るべき者の為に剣を取らせて貰うっ!』と口にすると、娘は銀色の鮮やかな模様が付いた鏡のような心器を顕現させ『名乗りか……良いじゃろう乗ってやる、我が名は【炎精】ガイストっ!復讐の為に刃を持ちこの国の王を滅ぼす者だっ!』と彼女の背後に巨大な火の塊が出現するのだった。

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