武器を構えているヴォルフガングは本当にぼくの声が聞こえていないのだろうか、試しにもう一度声を掛けようとすると……
「父様っ!その傷はどうしたのですかっ!?」
「レースっ!大丈夫!?」
ミュラッカとダートがぼく達の方に向かって走って来る。
その声に反応したのかヴォルフガングは一瞬二人を見て声を張り上げ……
「それ以上近づくなっ!、俺とあいつの戦いに巻き込まれたくなければそのまま離れろ、お前もだっ!」
と叫ぶと同時に彼の大剣が甲高い音を上げ何かを弾く、いったい何が起きたのか分からずにその場で動けなくなってしまうと、領主の館の方から恐ろしい熱量を持った炎の塊が迫って来る。
それはまるで意志を持っているかのようで一つの生物のようだけど、何て言えばいいのか感じる魔力の質がおかしい、一言で言うのなら二つの生き物を無理矢理合わせたみたいな気持ち悪さといえばいいのか……
「ダート、お前はレースを取り戻しにこの国に来たのだろう!このままだと死ぬぞっ!」
「……大丈夫、私のレースはこの程度じゃ死にはしないから」
「お前はいったい何を……」
ダートの言うとおりだ、ぼくはそんな簡単に死ぬ気はない。
手元に心器の長杖を顕現させると【自動迎撃】を発動させる……、これなら止められると感覚が言っているから間違いない筈だ。
現にぼくの身体からごっそりと魔力が減ったかと思うと、今迄見た事の無い大きさの雪の壁が現れ炎の塊を受け止め周囲に白い霧が発生する。
「その能力は、それにその心器はまさかスノーホワイトの物か?、何故お前がそれを持っている?」
「持っているって言われても……、使えるようになってからこの形だったし」
「つまり継承したという事かいったい何時の間にそんな事を……、まぁいい受け継いだ物なら本来の能力以外にも新たに三つ使える物がある筈だ、先程使った【自動迎撃】の他に二つ【魔力暴走】と【怪力】で間違いないか?」
「あってるけど、それがどうしたの?」
「いや……、確認したかっただけだこれなら面白い事が出来るかもしれないと思ってな」
面白い事っていったい何だろうか、そんな事を思っていると霧の中から白い髪に赤く輝く瞳を持った女性と倒れたまま動かないヴィーニの姿が現れ……、白髪の女性は指先をこちらに向けると微笑みかけて来る。
何故戦っている相手に対してそんな事をするかと疑問に思うけど、何て言えばいいのか、例えれば久しぶりに会った家族に向けるような、そんな親し気な微笑みにぼくの中の警戒心が警告を鳴らす。
「おぬしがダリアの父レースで、あそこのが母のダートじゃな?、それに我が腹違いの妹であるミュラッカ第二王女までおるっ!ハッハ!何という事じゃここにヴォルフガングよっ!お主の血縁が勢ぞろいしているではないかっ!」
「……父様、腹違いの妹とはどういうこと?私の記憶ではゴスペル以外にそういう血縁はいない筈なのだけれど」
「……それはだな」
「おぬしは答えんでも良いっ!我が直接この場で教えてやるからのぅっ!」
白髪の女性が眼に狂気の色を灯して過去にあった出来事を語る。
その過程で彼女が元Aランク冒険者で現在指名手配中の【炎精】ガイストである事が分かったけど……、まさかこの人がゴスペルと双子でぼくの姉にあたる人物だと思わなかったから驚いてしまった。
けど、それ以外の内容はぼく達に言われても正直反応に困ってしまう物でどう反応して上げればいいのかぼくには分からない、同情した方がいいのだろうか?、確かにこの人の過去は凄い悲惨だと思うし辛い経験をしたんだと感じるけど、同じ体験をした事が無いから分かって上げる事が出来ない。
「何て惨いことを……、過去にそんな事が」
「悲惨な過去があるのは分かったし、私はガイストさんの事が可愛そうだとは思うけど……」
「可愛そうじゃと?この我が?」
「だってそうでしょ?ガイストさんが言った事って私はこんなに可愛そうな目にあったから復讐していいって自分を正当化したいだけだよね?、それってただの我が儘だと思うけど……」
「我のわがままじゃとっ!?、我はこやつのせいで母を失い、家族という幸せを無くしたのじゃ!その苦しみを分かりもせずに良くもまぁそのような事を!」
ショックを受けているミュラッカとは違い、ダートは落ち着いている。
その姿を見てぼくも思った事をしっかりと行った方がいい気がして……
「ぼくも話しを聞いても辛かったんだなとしか思わないよ、実際に体験したわけじゃないからあなたの全てを分かって上げられない、ごめんね」
「レース、お主まで我に同情するというのかっ!我は同情などして欲しくないのじゃ……、我は父を亡き者にする事でやっと自分の生を生きれるっ!全てを取り戻せるのじゃよ!現にマスカレイドと――は言ったのだっ!力を貸せばあの頃に戻して願いを叶えてやるとっ!」
「願い……?」
「家族全員で幸せな生活を夢見た我を、過去に戻してやり直させてくれると約束してくれたっ!だからその為にはこの時代の人間が邪魔なのじゃよっ!、この国を追い出される前に戻り力がある事を示せば母は死ぬ事無く母と兄、そして父と……、後に王妃との間に産まれるだろうおぬしらと真の意味で家族になれる、失われた時間を取り戻せるのじゃっ!」
「……失った時間は戻らないからこそ、過去にそうやって捕らわれるんじゃなくて今を生きなきゃいけないんだよ」
……ぼくの発言を聞いたガイストが眼を見開くと、彼女の背後に炎の塊が現れ激しく燃え上がるり……『レースよ、おぬしだけは理解出来ると思っていたのに残念じゃよ……、我と同じ王族に捨てられた経験がある、おぬしならと期待していた我が馬鹿ったようじゃな』と口にすると、心器の鏡を顕現させ、深い火傷のせいか武器を構えたまま動けないでいるヴォルフガングを鏡に映し。恨みを込めた瞳でぼく達を睨みつけるのだった。