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第43話 雪の天敵

 あの鏡は何だろうか、いったいどんな能力を持った心器なのか……。

分からないから動けないけど、その間にも炎の塊がガイストを包む混んで行き、炎で作られた尾と翼が生え、先程感じた異様な魔力に変わって行く。


「……ヴォルフガング、これは何が起きているの?」

「精霊を使った術による魔法生物との融合だ、今の奴は精霊と合わせた二人分の能力があると思った方が良い、現に俺も油断したせいでこの様だ」

「じゃあ、あの鏡は何?」

「あれに映された状態で攻撃をすると衝撃をそのまま反射してくる、一対一で戦う上で何処までもやり辛い能力を持っている心器だ、特に俺とミュラッカに対しては何処までも不利な能力だから注意しろ」

「でも私この人と戦う事は……」


 ミュラッカはまだガイストの話を聞いて迷ってしまっているのだろうけど、今はそんな状況ではないと思う。

相手は間違いなくやる気だし、やらなければ死ぬのはぼく達の方だ。


「ミュラッカ、覇王の座を継ぎたいと思うなら迷いを捨てろ、王位を継承してまでやりたいと思う事があるのなら例え相手にどのような生い立ちがあろうと、必要とあれば躊躇うことなく剣を持て、自らの手を汚す覚悟と力が無い者にこの国を背負う事は出来ないのだ、綺麗事ばかりでは何も出来ないぞ、俺がお前とヴィーニに見せて来た王としての姿を思い出せ」

「……はい、そういえばヴィーニは?」

「あれなら……、戦闘中にいきなり割り込んで来た結果、俺とフラン……いや、ガイストの攻撃に巻き込まれた挙句、早々に意識を失いガイストに抱えられてあそこで転がってる」

「……ヴィーニ、あなた何しに出て来たの?」

「どうせ、ガイスト達に誑かされたのだろう、愚かな事だ……」


 確かに国内を混乱させる程の大問題を起こした人物がこんなに呆気なくあそこで気を失って眠っているのを見ると、情けないというか何て反応すればいいのか分からなくなる。

それにあの時馬車の中でぼくに行った、東の大国にいるらしい思いを寄せている人との事はどうなったのだろうか、王位をぼくに継がせてどうのこうのって言ってた気がするけど……


「ヴィーニはぼくに王位を継がせて、東の大国にいる好きな人と結婚するとか言ってた気がするんだけど……、もしかしてそれが理由で誑かされたのかな」

「いや、我らはヴォルフガングを殺し、ヴィーニに王位を継がせ傀儡の王になって貰う予定じゃったよ、あれは自分の事しか考えられない馬鹿だからな……、最初はレースを王にして自分は意中の王女と婚姻をと考えていたようじゃが、我とグロウフェレスが奴と接触し戦力に加わった際におぬし等にした過去の話と、王女と婚姻するなら王位を継がなければ現実的ではない事を教えたらすっかり考えを変えて、父を殺して王位を継ごうと必死じゃったわな、あれは王の器ではなかったと思うぞ?」


 ヴォルフガングが答えると思っていた言葉を、異形の姿と化したガイストが答えると同時にぼく達に向かって飛び込んで来る。

それをミュラッカが魔術で作り上げた雪の盾で防ごうとするけど、炎に触れた瞬間に溶けて消失してしまい咄嗟に、炎の尾による一撃を心器の大剣で防ぐがその身を炎に焼かれてしまう。

その状態から何とか後ろに下がって距離を取りはしたけど、ぼくだったら間違いなく今の一撃で殺されていたかもしれない……


「無駄じゃっ!我が何のために炎の精霊と契約し力を付けたと思っておるのだ?、おぬし等雪の魔術を使う物を効率的に狩る為じゃっ!」

「つまりヴォルフガングをここまで追い詰めたのもその炎で?」

「そうだ、ガイストの攻撃は雪や氷の魔術や戦技を使う俺達の天敵だ」

「……それならどうやって戦えば?」

「ここは私がやってみるから、レース達は援護の方お願いっ!」


 ダートが心器の短剣を顕現させると走ってガイストへと向かっていく。

……彼女を前に出させて戦わせる分けには行かないと付いて行くけど、ぼくに何が出来るだろうか。

前衛が戦いやすい用に治癒術師が出来る事と言えば相手の傷を癒す事だけど、そもそも近づかないと傷を癒す事が出来ない。


「レース兄様っ!私と父様も行くわっ!」

「……お前等だけに戦わせる分けには行かないからな」


 傷を負った二人が武器を持って後ろから走って来るけど、雪の魔術を使う以上は不利でしかない。

考えろ何か良い方法が無いか、思い出せ今迄の戦いの中で治癒術師が出来る最善の戦い方を、今迄の経験を活かさないと何時までもぼくは皆よりも弱いままだ。


「たしかスイが商王クラウズと戦っている時に、魔力の糸をぼく達に通して前衛をしていたジラルド達を癒していたよね」


……あの時の戦いを思い出すスイの治癒術の使い方を、あの人は独学で治癒術を学び覚えたからか既存の使い方とは違う方法で仲間の傷を癒していた。

本来なら手で触れたり長杖が届く範囲でしか確かな効果を得られないのに、離れていて尚効果を発揮させていた技術、彼女に出来たならぼくにも出来る筈だ。

そう思いながら頭の中で新しい治癒術の術式を作成してくのだった。

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