目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

レッスン65「オークの集落 (7/8)」

「お、お師匠様!」


「分かってる! 【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】!」


 西の森上空を真っ赤な魔方陣が覆い、


「…………見つけたッ!! が」


 お師匠様が顔色を悪くする。


「マズイさね。ノティア、魔力は大丈夫かい?」


「いけますわ!」


 こちらに駆け寄ってきたノティアが、力強くうなずく。


「十二時方向2.4キロ先だ!」


 ノティアが僕とお師匠様の腕をつかんで、


「行きます――【瞬間移動テレポート】!」



   ■ ◆ ■ ◆



「――あっ、クリスさん!?」


 転移した先は森の中。

 目の前にいたエンゾが、驚きながらも声を潜めて言う。


「この向こうがオークの集落だね?」


 お師匠様の問いかけに、エンゾがうなずく。


「は、はい! その通りです! 難民の子をさらったオークの集団を追ってここまで来たんですけど、やつらあの奥に入っていって……まさか集落が出来てるなんて思ってもみなくて……ッ!」


 見れば原始的な馬防柵があり、木々の間に鳴子が張り巡らされている。

 その奥にはいくつかの天幕が見える。


「あれ、そういえばドナは!?」


 この場にはエンゾとクロエしかいない。


「マズイと言ったろう? あの小僧は――」


「そ、そうなんです! ドナがひとりで集落の中へ突っ走っちまって!」


「そんな――…」


「大丈夫だ。クリス、オークの集落ごと【収納】する。気を失うかもしれないが、気張るんだよ!」


「わ、分かりました!!」


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】! からのぉ【視覚共有シンクロナイズド・アイ】」


 お師匠様経由の視線の先で、いくつもの巨体が光となって蠢いているのが見える。

 数十体? いや、もっと居るかも――

 しかも、中にはさっきのオーク・ジェネラルのような巨体の影も見える!


 ……やれるのか、僕に?


 相手は一角兎ホーンラビットとは違う、道具を使うだけの知能を持った魔物だ……つまり【精神力】を持った、魔法に抵抗レジストする力を持った相手だ。

 しかもジェネラルと言えば、Bランクパーティーが損害を覚悟しながら挑むレベルの怪物だ。

 さっき、フェンリス氏とノティアが軽々と屠っていたのは、彼らがAランク冒険者であり、トップクラスの実力者だから。

 ――いや、いまは迷っているヒマなんてない!

 何よりお師匠様がやれと言ったんだ。

 お師匠様がやれと言ったということは、いまの僕ならやれるということ!

 ――よし!


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」



   ■ ◆ ■ ◆



「――っ」


 ひどい頭痛で目覚めた。

 さらには猛烈な吐き気。

 僕は飛び起きて、【収納アイテム空間・ボックス】の中へ嘔吐する。


「はぁっ、はぁっ……うっ」


 続く吐しゃ物の中には血の味が。


「【大治癒エクストラ・ヒール】……大丈夫かい?」


 僕に膝枕をしてくれていたらしいお師匠様が、背中を撫でてくれる。

 治癒魔法が効いて、途端に楽になった。


「はぁ……はい、大丈夫です」


 言いつつも、吐血したのはショックだった。


「百数十体ものオークだ。中にはジェネラルも居た。それを一気に【収納】したんだ……だいぶ無理させちまったね。丹田が傷ついちまったんだ」


「いえ……それよりドナと難民の子は……?」


「無事だよ。ほら――」


 どうもここは集落の広場か何からしい。

 周囲には、あれほどうじゃうじゃいたはずのオークの姿がまったくない。

 すべて、僕の【収納アイテム空間・ボックス】の中に【収納】されてしまったのだろう……我ながら、本当に恐ろしい威力を持った魔法だ。


「そこにいるだろう」


 お師匠様が、そんな広場の一角を指さす。

 見れば、ボロボロの装備をまとったドナと、そんなドナにすがりついて泣いている難民の女の子がいた。

 お師匠様が治したのだろう……怪我はなさそうだ。


「あはは……すごいやドナ、好きな子をちゃんと守り切れたんだね」


 ドナに笑いかけると、


「うっす……クリスさんのおかげで命拾いしました。ありがとうございます」


「僕はそんな……ひとりでオークの集落に飛び込むなんて、カッコいい――」


 言いかけて、気づいた。

 女の子が、ドナにすがりついて一向に泣き止まないことに。

 ドナの……………………利き腕が、肘から先が無くなっていることに。


「ど、ドナ、その腕……」


「いやぁ、ちょっとヘマして、豚どもに喰われちまいまして……あ、でもアリスさんに治してもらったから、もう大丈夫っすよ!」


「だ、大丈夫って言ったって、それ……」


「わ、私の所為なんです!」


 女の子が泣いている。


「ドナくんが、私をかばって――…」


「お師匠様……?」


 お師匠様が首を横に振る。


「残念だが、【大治癒エクストラ・ヒール】では部位欠損は治せない」


「そ、そんな――…」


「だが、奥の手がある」


 お師匠様がニヤリと微笑む。


「な、何ですか奥の手って……?」


「決まっているだろう? 【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】さ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?