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レッスン66「オークの集落 (8/8)」

「【目録カタログ】!」


 お師匠様に指示され、【目録カタログ】を名前順に表示する。


「ドナ……ドナ……あった!」


『ドナの右腕の肉片』『ドナの右腕の肉片』『ドナの右腕の肉片』『ドナの右腕の肉片』『ドナの右腕の骨片』『ドナの右腕の骨片』『ドナの右腕の骨片』『ドナの右腕の髄液』……


「うへぇ……」


目録カタログ】ウィンドウをのぞき込むドナが、嫌な声を出す。


「これらとお前さんを、クリスの【収納アイテム空間・ボックス】の中で統合する。儂の【万物解析アナライズ】によるサポートがあれば、可能だろうさ。が、ひとつ問題がある」


「「問題……?」」


 僕とドナの声が重なる。


「ああ。ドナ、お前さん自身を一度、クリスの【収納アイテム空間・ボックス】に【収納】しなきゃならないってことさね」


「「――――……」」


「この【目録カタログ】を見る限り、オーク・ジェネラルすら生きたままの【収納】に成功しているから、お前さんも死ぬ心配はないが――さて、どうするさね?」


「…………」


 ドナは、うんうんうなりながら悩む。

 そりゃそうだ。

 僕の【収納アイテム空間・ボックス】に【収納】されるってことは、一時的とはいえ僕に生殺与奪の権を握られるということだもの。


「俺、クリスさんを信じます!! お願いします!!」


 けれど、ドナは決心したようだった。


「分かった」


 僕はうなずく。

 本心では僕自身が不安で堪らないのだけれど、他ならぬドナに不安な顔は見せられない。


「安心して――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 ドナの姿が消える。

 難民の女の子が、不安そうな顔でこちらを見てくる……うぅ、僕までより一層不安になってしまうから、やめてほしい。


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎】――」


 お師匠様は【万物解析アナライズ】を発動寸前まで詠唱し、僕の【目録カタログ】ウィンドウに手をかざして、


「【大治癒エクストラ・ヒール】――【万物解析アナライズ】。よし、【念話テレパシー】」


 お師匠様と僕の思考がつながる。


『治癒後のイメージを解析した。あとはお前さんが【目録カタログ】でドナの体と腕の破片を統合すれば元通りのはずだ』


『わ、分かりました……』


 僕は【目録カタログ】ウィンドウで『ドナの右腕の肉片』のひとつに指で触れ、それをリストの中にある『生きているドナ』の文字に重ね合わせる。

 ――果たして、『生きているドナ』に吸収されるようにして、『ドナの右腕の肉片』の文字が消えた。


『おぉっ!? これって成功したってことですか!?』


 女の子やエンゾたちを不安にさせない為に、【念話テレパシー】で尋ねる。


『ああ、問題ないさね。その調子で全部つなげちまいな』


『はい!』


 言われた通り、腕のかけらをドナ本体にどんどんと投入していく。

 そうして腕のかけらがなくなって、


「よし――出しな」


「はい! 【収納アイテム空間・ボックス】!!」






 目の前に、ドナが現れた。

 ――右腕が存在する、ドナが!!






「……あれ? もう終わったんですか?」


 ドナはきょとんとしている。

収納アイテム空間・ボックス】内は時間が止まっているからね。

 そんなドナが、ふと自分の右腕を見て、


「って――うおおおっ!? う、腕が戻ってる!!」


「うん。動かしてみてもらえる?」


「は、はい――うぉぉ、動く! 動きます!!」


「はぁ、良かった――…」


 気が抜けて、僕はその場に座り込んでしまった。



   ■ ◆ ■ ◆



 女の子のご両親からは、泣いて感謝された。

 すべてはドナのおかげだから、と言っておいた。

 結果として腕が戻ったとはいえ、利き腕を失ってまであの子を守り切ったドナだもの……報われなきゃおかしいよね。


「それにしても、オークの集落まで随分と距離があるとは思わないかい?」


 難民村の片づけを手伝いながら、お師匠様がそう言った。


「これだけ離れているってのに、難民村が出来て1日や2日で村の存在を知って、大挙して押し寄せるなんてさ」


「ど、どういうことですか……?」


「儂にも分からないが、注意しておくに越したことはないさね」


「わ、分かりました……冒険者ギルドマスターにも相談して、西の森方面の警備を強化してもらいますね」


「まぁ、それも重要なんだが、もっと手っ取り早い方法があるさね」


「というと?」


「壁さ。難民村や交易所、『街』をまるっと城壁で囲んでしまえばいい」


「んな、簡単に言ってくれますけど……」


「出来るさね、いまのお前さんなら」


「それって――」


「もちろん、【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】の力でさ」


「やっぱり……」

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