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レッスン76「飛翔レース (5/6)」

「というわけで優勝は、開始49秒でゴールしたこの少年! 【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】使いの冒険者クリスぅ~!!」


 小一時間後、王城の中庭に設置された舞台上にて。

 参加者や観客に見つめられながら、僕は司会で四天王のレヴィアタン様に紹介される。


「拍手!!」


 レヴィアタン様の合図にしかし、


 …………ぱちぱちぱちぱち


 拍手はまばらだ。

 それどころか、


「「「「「ブーブー!」」」」」


 選手の中からブーイングが!


「納得いかねぇ!」


「そーだそーだ! 【瞬間移動テレポート】じゃねぇっつっても実質【瞬間移動テレポート】みてぇなもんじゃねぇか!」


「まぁまぁ諸君!」


 と、ここでいきなり目の前に魔王様が現れた!

 魔王様が舞台下の観客たちに向かって腕を広げ、


「余が――このルキフェル13世が認めたのだ!」


「「「「「ま、魔王様!?」」」」」


 観客が仰天する。


「とは言え中には納得しかねる者もいるだろう。クリスよ、そなたの【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】で、実力を見せてやってはくれないか?」


「じ、実力ですか……? か、かしこまりました。では陛下、少しお離れ下さい。――【収納アイテム空間・ボックス】」


 僕は舞台の上に、一本の木を横倒しに出現させる。

 森狩りで魔物やら盗賊やらを【収納】するときに、周囲の木々を一緒に【収納】しちゃうんだよね。


「「「「「なっ……」」」」」


 ビビる観客と、


「いや、あのくらいの容量なら、大したことない――」


 反発する選手の方。


「いまから、この木を薪にします!」


「「「「「薪……?」」」」」


「【収納アイテム空間・ボックス】!」


 葉と枝を収納し、まずは木を丸太にする。

 次に、


「ん~……【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 丸太の中に薪状の切れ込みをイメージし、【収納】する。

 続いて、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 無事、均等な長さ・幅に切り出すことができた薪の山を、舞台上に出現させる。


「「「「「ぅぉおおおおおッ!?」」」」」


 驚いてくれる選手の方々と観客の皆様。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】」


 薪を収納し、


「あとは――…お~いノティア!」


「はいは~い」


 観客の中からノティアが手を上げる。


「え、ノティア……?」


「Aランク冒険者の!?」


「『不得手知らずオールマイティー』が来てるのか!?」


 驚いている観客は置いておいて、


「結界をお願い!」


「はいはい――【物理防護結界マテリアル・バリア】」


 ノティアが僕以外――観客と選手、魔王様、レヴィアタン様を結界で取り囲む。


「いまから【収納アイテム空間・ボックス】で空を飛びます」


 言いながら空を見上げ、必要十分量の大気を見極め、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!!」


 大気を【収納】する。

 唯一結界に守られていない僕の体が、空に引っ張り上げられる。

 僕は空高く舞い上がり、ちょうど自由落下が始まるくらいになってから、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 足元に【収納】口を発生させ、その中に飛び込む。

 そして、同時に舞台上に発生させた【収納】口から出てきて、何とかかんとか無事、着地する。


 ……あぁ、怖かった!


『こんなの反則だ!』って言われた場合に備えて、練習してたんだよね。

 けどこの技はあくまでノティアの結界によるサポートがなければ周囲が大惨事になるから、本レースでは使えないんだけれど。


「このようにして、空を飛ぶことも一応、できます」


「「「「「お~~~~ッ!!」」」」」


 盛り上がる観衆の皆さん。

 ……良かった。ウケてるようだ。


「あっはっはっ! いや、十分だ!」


 魔王様が僕の背中をバンバンと叩き、


「どうだ諸君、これでも余の決定に不満か?」


 文句を言っていた選手の方々が首を振っている。


「では改めてぇ……」


 レヴィアタン様が僕の腕を高らかに掲げ、


「拍手!!」


 わぁぁあああ……という歓声とともに、万雷の拍手が鳴り響く。


「それではこちら優勝賞品、海神蛇リヴァイアサンの魔石です!!」


 レヴィアタン様が舞台の陰から台車を運んでくる。

 台車の上に載っているのは――


「で、でっか!?」


 直径1メートルはあろうかという超巨大な魔石!!

 ゴブリンとかオークのなら小指の先くらいのサイズとか、大きくても拳くらいのサイズだというのに!


「ほら、少年よ!」


 魔王様が巨大魔石をひょいっと抱えて、


「優勝おめでとう!」


 僕に渡す。


「うぉぉおっ!? 重たッ!?」


 思わず取り落としそうになって、


「あっはっはっ、そりゃあアリソンの魔力がぎっしり詰まっているからなぁ!」


 魔王様が魔石を抱えなおし、台車の上に戻してくれる。

 それから僕の肩をバンバン叩いて、


「ともかく、おめでとう!!」



   ■ ◆ ■ ◆



 レースの後、僕はなんと、魔王様のお茶会にお呼ばれしてしまった。

 といっても、参加者は魔王様と僕、途中で合流したノティアだけだけど。


「いやぁ、それにしても見事な【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】だな!」


 魔王様が褒めて下さる。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】はアリソンが最も得意とする魔法だったんだ。アリソンにこそ及ばないが、そなたの【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】も相当な威力だな。それだけ使いこなすには、いろいろと工夫や訓練が必要だったんじゃないか?」


「い、いえ……わたくしがこのように上手になれたのは、すべてお師匠様のおかげでございまして。【収納アイテム空間・ボックス】で物を切ったり、分離させたり、空を飛んだり、空間を繋げたりといったものはすべて、お師匠様から教えて頂いたんです」


「ふむ。Aランク冒険者のノティア姫か。教師としてはこの上ないな!」


「「い、いえ」」


 僕とノティアの声が重なる。


「クリスく――クリスさんに魔法を教えたのは、わたくしではございませんわ、陛下」


「ほう、そうなのか?」


「はい。アリスと名乗る魔法使いの冒険者がおりまして」


「アリス……アリス……」


 アリス。

 この国の主神の御名にして、先王のお名前にして、この国で最もありふれた女性の名前。


「余はそのアリスとやらに会ってみたい。連れて来てもらえないか?」


「ははっ!」


 ノティアがうなずいて、


「恐れながら、【瞬間移動テレポート】使用のご許可を頂いても?」


「許す」


「それでは――【瞬間移動テレポート】」


 ノティアが姿を消す。

 お師匠様ももちろんこのお茶会に誘ったんだけど、青い顔をして『儂ゃ遠慮する』って宿に帰っちゃったんだよね。

 あとシャーロッテも『恐れ多いから』って言って帰った。

 やがて、


「嫌だ! 儂は行かない! 着ていく服がない――って何勝手に【瞬間移動テレポート】してるさね!?」


 ノティアに羽交い絞めにされてるお師匠様が現れた。

 もみくちゃになっているお師匠様と魔王様の目が合って、


「しまっ――」


 お師匠様が咄嗟に顔をそらし、


「――――――――アリソンッ!?」


 魔王様が歓喜としか言いようのない、それはそれは嬉しそうな表情で、叫んだ。

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