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レッスン84「スタンピード (2/3)」

「ここは俺らに任せな!!」


 急に、隣から声がした。


「――えっ!?」


 見ると、いつの間にかAランク冒険者の『ホワイトファング』フェンリスさんが壁の上に立っている。

 そして、


「【飛翔レビテーション】!」


 その隣に、さらにふたり――前衛職っぽい男性と魔法使いっぽい女性が降り立つ。


「あのベヒーモスは俺たちが対処する。だから他の魔物たちは頼んだぜ、町長サン!」


「だ、大丈夫なんですか!?」


 フェンリスさんがニカッと笑う。


「誰に向かって言ってんだ? 天下のフェンリス様だぜ! ――行くぞお前ら!」


「おうよ」


「はい!」


 フェンリスさんとそのパーティーメンバーが十メートルもある壁の上から飛び降りる!

 フェンリスさんはもちろん、他のふたりも悠々と着地する――きっと【闘気ウェアラブル・マナ】だ。

 フェンリスさんが盾をずしんと地面に打ち付け、


「来いやぁあああッ!!」


 叫ぶと同時に、ベヒーモスへ強烈な【挑発プロボーク】――魔力の衝撃をぶつける!


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】――【視覚共有シンクロナイズド・アイ】。クリス、ぼけっとしてないでベヒーモス以外の魔物を【収納】しな!」


 隣でお師匠様が言う。


「量が量だ。空間ごと【収納】したら突風が起きかねないから、儂の【万物解析アナライズ】に従いな」


「はい!」


 僕は目を閉じ、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!!」


 果たして城壁に取り付いていた魔物たちがごっそりと姿を消す。

 同時に激しい頭痛と丹田の痛み。

 けれど、魔物はまだまだ森の中から湧いて出てくる!


「【魔力譲渡マナ・トランスファー】。つらいだろうが、魔物がいなくなるまで【収納】し続けるしかないさね」


 壁の下では、フェンリスさんたちのパーティーがベヒーモスと互角以上に戦っている。

 フェンリスさんが引きつけ、ベヒーモスの吶喊を盾でかち上げ、空いた首元を剣士の男性が狙う。

 魔法使い女性は、回復・支援・攻撃と各種魔法で戦いを有利に進める。


「そら、第二波が来るよ!」


「はい! ――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!!」


 壁に殺到してくる魔物の群れを再び【収納】。

 ゴブリンやオーク、オーガと言った魔物たちは梯子や弓矢と言った道具を使うから、いくら10メートルの城壁があるとは言っても突破されかねない。

 だから、一匹残らず【収納】しなければならない。


「第三波だ!」


「はい――…」


 長い長い戦いが、始まる。



   ■ ◆ ■ ◆



 十何回――いや、何十回【収納】しただろう?

 ……どれだけの時間が経っただろうか。

 強烈な頭痛で何度も気を失いそうになり、その都度ノティアの【精神安定リラクゼーション】で覚醒した。

 魔物の波は止まず、取りこぼしが目立つようになり、街の中に入り込む魔物も出てきたけれど、幸いにして冒険者が集まって来て対処してくれているようだった。

 フェンリスさんたちもベヒーモスの封じ込めには成功しているけれど、決定打は打てないでいるみたいだ。


「また来たよ……やれるかい?」


 お師匠様の声を受け、目を閉じる。

 森の中からオオカミ系の魔物が大挙して押し寄せてくる。


「は、はい……あ、【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】――」


 頭が痛い!! 割れそうだ――


「【収納】出来ていないよ!?」


 そんな――失敗?


「あ、【無制限アンリミテッド――…うっ!?」


 強烈な吐き気。


「げぇっ……」


 出てきたのは、大量の血液だ。

 丹田が軋むように痛む。


「【大治癒エクストラ・ヒール】!! ――アリスさん、もうさすがにクリス君が限界ですわ!!」


「だったらどうするって言うさね!?」


「おふたりを一度壁の内側に降ろしてから、わたくしが行きます。アリスさんは冒険者ギルドで腕利きを集めてくださいまし」


「……死ぬ気かい?」


「クリス君に死なれるよりはマシですわ。それにわたくしは、本当にいざとなれば【瞬間移動テレポート】で戻って来れますし」


「ノ……ティア?」


 ノティアが微笑む。

 彼女は僕の頭を撫で、


「そんな顔しないで下さしまし。さくっと倒して、戻って参りますわよ」


 そんな……ダメだ、ノティア。


「ぼ、僕は大丈夫だから。【無制限アンリミテッド――うっ」


 ……また、吐血。

 あぁ、ダメだ……丹田が軋むばかりで、魔力を上手く引き出せない。

 でも、ここで僕が頑張らなきゃノティアが死んでしまうかも知れない。

 そんなのはダメだ。絶対にダメだ。

 壁の下では、オオカミ系魔物の大群が壁に突進をしていて、さらにその向こう、森の中からはさらなる四足獣の魔物たちが出て来つつある。


「あぁ……神様、アリソン様――…」


 どうすれば――…

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