処刑は、娯楽。
楽しみの少ないこの城塞都市の、中央広場を使って繰り広げられるこの残虐なショーは、街の住人たちの楽しみのひとつだ。
オーギュスの処刑は瞬く間に街中に公示され、そのウワサは西の森隣の『街』にまで届き、こうして今日、城塞都市最大の広場である『内東地区』の広場に、大きなギロチン台が設置されている。
この街に3つある広場は、『内東地区』、『内北地区』、『内南地区』の3ヵ所にある。
『内西地区』に無い理由は簡単で、そもそも西側は敵国たる西王国からの攻撃にさらされる前提の地区だからだ。
『内西地区』には大通りがなく、敵軍の進行を妨げる為の曲がりくねった道が敷かれている。
逆に東側は王国中心に向いていて、城塞都市はどちらかと言えば東側の方が栄えている。
その、最も栄えている『内東地区』の広場で。
オーギュスが、ギロチンの前で這いつくばっている。
いまは、メインディッシュであるギロチンショーの前の、罪人への投石タイム。
衛兵が配る石を受け取った領民たちが、舞台上のオーギュスへ石を投げつけている。
あ、あはは……みんな楽しそうだ。
最近、兵器やら美容やら音楽やらで物珍しいものをたくさん輸入してくれる僕らの『街』を危機に陥れたとあって、城塞都市の住民たちもご立腹らしい。
そして僕は、中央広場に面した高級宿の、3階に儲けられたテラスからその様子を眺めている。
――オーギュス。
物心ついたころからずっとずぅっと、僕を殴り、蹴り、虐げてきたオーギュス。
あいつはいつ
殺したいと――…この手で徹底的に痛めつけ、手指を全部切り落とし、それらを飲み込ませて窒息死させたいと、何度妄想したことだろう。
それが、その妄想が、こんな形で実現するとは。
「クリス……」
柵にもたれ掛かかり、血にまみれるオーギュスを眺める僕の横では、シャーロッテが青い顔をして僕の手を握っている。
シャーロッテはそれ以上、何も言わない。
シャーロッテは何が言いたいんだろう――彼女の視線は僕とオーギュスを行ったり来たりしている。
「……領主様の決定だよ。いまさら覆らない」
「そう……だよね……」
言って、残念そうな表情をする……僕にとっては憎んでも憎み切れない相手でも、シャーロッテにとっては同じ孤児院仲間ってことなんだろうか。
……やがて投石タイムが終了し、舞台上に領主様が現れた。
公示人がオーギュスの罪状を読み上げる。
もう、驚きすらしなかったけれど……難民村の川に糞を投げ込んだのも、オーギュスの仕業だった。
公示人が下がり、オーギュスの首がギロチン台にはめ込まれる。
「あぁ……」
隣ではシャーロッテが痛ましそうな顔をして、
「さっさとちょん
相変わらず冷徹なお師匠様と、
「ですわねぇ。クリス君がいないなら、もう帰ってるところですわ」
さらに冷徹なノティア。
あざ笑うべきなのか、悲しむべきなのか。
未だに僕は、決めかねている――。
「これより、重罪人オーギュスを、斬首の刑に処す!!」
公示人が声を張り上げる。
執行人が縄を切る。
ギロチンの刃がオーギュスの首目がけて落ちていく。
その光景は、
お師匠様の【
ひどくゆっくりと見える。
オーギュスと、目が合った。
『た・す・け』――と口が動いたのを見てしまい、
オーギュスの首に刃物が入る瞬間がしっかりと見えて、
まるで蹴鞠か何かのように、
オーギュスの首が飛び、
――――飛んでいく首と、
再び、
目が合った。
「――て・く・れ――」
「【
――――たまらず、オーギュスの首と体を遠隔【収納】してしまった。
「はぁ? お前さん、何をしてるさね。首と体を繋げて、もう一回斬首にかけるってわけかい?」
「領主の決定に盾つくと面倒ですわよ? まぁ、わたくしはクリス君を全肯定しますけれど」
お師匠様とノティアがそれぞれ怖いことを言ってくる。
「――【
僕は【
「冒険者クリスです。この度は、閣下の処刑を邪魔だてしてしまい、誠に申し訳ございません」
「いまの、重罪人オーギュスの肉体が消えたのは、そなたの魔法か?」
「はい」
「それで」
領主様が、低く威厳のある深い声色で言った。
「どうするつもりだ、冒険者クリス? その首と体を、後生大事に保管するのか? それとも――…」
「生き返らせたく存じます」
「ふむ……」
特に驚いたふうもない、領主様。きっと、僕がドナの腕を回復させた話も聞いているってことなんだろうね……。
「
「奴隷にします。【
「お前は、それで、良いのだな?」
「――――……」
オーギュス。
十年来、僕を虐げ続けてきた、憎き相手。
でも、
「……………………はい」
死なせてしまうのは、違うと思った。
「良かろう。いま、この場に出せるか?」
「ははっ。【
【収納】日時順に並べると、『生きたオーギュスの頭部』と『生きたオーギュスの胴体』が出てくる。
そのふたつを重ね合わせると、『生きたオーギュス』になった。
さらに『生きたオーギュス』をタッチすると、
「…………え?」
投石で傷つけられ、血まみれの顔をした、オーギュスが出てきた。
オーギュスはその場にへたりこみ、
「お、お、俺、た、確かに、く、首を――…あああ」
失禁した。
…………下らない。
僕の人生は、こんな奴に左右されていたのか。
「これなるは、
領主様が群衆に向けて声を張り上げる。
「冒険者クリスはその力でもって魔物を【収納】することもできれば、この通り、切り落とされた首をつなげなおすことすらできる!
冒険者クリスは重罪人オーギュスから害を受けた一番の被害者でありながら、この者を許すと言った!
私はその心意気に免じ、重罪人オーギュスの処刑を取り止め、奴隷落ちで許すこととする!」
ワァァアアアアア……という、群衆からの歓声は何を意味するのやら。
「オーギュス……」
僕は、こちらに怯えた視線を向けてくるオーギュスに向けて言う。
「これでお前は、僕の奴隷だ。
…………ざまぁ、見ろ」