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テスト1「ウィンド・ドラゴン (1/2)」

 オーギュスの身柄は僕が預かることとなり、オーギュスには領主様から紹介された犯罪奴隷商に【隷属スレイブ】の魔法をかけてもらった。

 オーギュスには、『アリス書店』で働くように命じた。

 僕の屋敷には置きたくなかった……顔を合わせたくないから。

 シャーロッテは、オーギュスを死なせなかった僕の選択を喜んでいるようだった。


 こうして再び、平和な日常が戻ってきた。



   ■ ◆ ■ ◆



「トンネルを掘ろう」


 ある日の午前中。

 屋敷の居間でミッチェンさんからの定例報告を受けていると、やおらお師匠様がそう言った。


「「……トンネル?」」


 ミッチェンさんと僕は話を中断してお師匠様に傾注する。

 お師匠様の命令には絶対服従。

 そして変ちくりんな物語本に関しては、お師匠様のお言葉はすべからく金言。


「そうだ」


 お師匠様がマジックバッグから地図を取り出す。



地図:

[img:bxynvl8zct]



「この通り、西の森に隣接するように大山脈が広がっていて、東西を分断している。そして、分断された向こうには大規模な炭鉱の街があるのさね」


「はい」


「そこで、この部分にトンネルを掘り、東西を繋げる。そして、難民村やら何やらでだいぶ北にも広がってきたこの街を、もっともっと北に伸ばす。そうすれば、この街・ロンダキア・炭鉱の街で循環する、巨大な商業圏が出来上がる」


「す、す、す、素晴らしぃ~~~~ッ!!」


 ミッチェンさんが大興奮する。


「いや、でもお師匠様、北の山脈は風竜ウィンド・ドラゴンが出るじゃないですか……また食べられそうになるの、嫌ですよ僕」


「根こそぎ狩ってやればいい」


「根こそぎって……いくらノティアでも無理でしょう。無理だよね、ノティア?」


 さっきから隣でお茶を飲んでいるノティアに尋ねると、


「わたくしでは無理ですわ。でも、いまのクリス君ならやれるのでは? 【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】のスキルレベル、7に上がったのでしょう?」


「え、ええっ、僕!? ムリムリ絶対ムリだって!」


「命令だ。やりな」


「ええっ!?」


 お師匠様がニヤリと微笑む。


「いままで手ほどきしてやった、集大成だ。『北の大山脈からの、風竜ウィンド・ドラゴン一掃』――それが、儂からお前さんへの試練テストさね」


 こうして僕は、ドラゴン退治の旅に出ることになった。



   ■ ◆ ■ ◆



 ……で、小一時間後。


 お馴染みノティアの【瞬間移動テレポート】によって、僕らは北の山中にいる。

 メンバーはお師匠様、ノティア、僕という、これもお馴染みのもの。

 シャーロッテも来たがっていたけれど、『さすがに危険だ』と僕が止めた。

 空を見上げると、


 ギャギャギャギャギャッ!!


「うわ、いるぅ……」


「飛んでいますわねぇ」


 1体の風竜ウィンド・ドラゴンが空を飛んでいるのが見える。


「ひとまずあいつから【収納】しな」


「この距離でやれるかなぁ……」


 僕は空高くを飛んでいる風竜ウィンド・ドラゴンに向けて両手を掲げ、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 遠目ながらも一瞬、魔力光が発生したのが見えた――あれは【抵抗レジスト】されたときに発せられる光だ。


「ダメですお師匠様、ダメでした!」


「諦めるな! ほら来るよ!」


 風竜ウィンド・ドラゴンは怒り狂った様子でここまで降りてくる!


「生きたままの【収納】に失敗したんなら、次は首を狙いな!」


「ギャァアアアアオオォォォォォオオオオオオオオオオッ!!」


 風竜ウィンド・ドラゴンが地面に降り立ち、僕に向かって咆哮する!


「ヒッ――…」


 竜のドラゴン咆哮・シャウトによる【威圧プレッシャー】で、僕は動けない。


「【精神安定リラクゼーション】! ほらクリス君、早く!」


「う、うん――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 無我夢中で風竜ウィンド・ドラゴンに向けて魔力を放つ!






 ――――風竜ウィンド・ドラゴンの首から上が、消滅した。






 ズシィィィイン……


 重々しい音とともに、風竜ウィンド・ドラゴンの体が地に伏す。


「やった――…やったやったやりましたお師匠様!!」


「ああ、よくやったさね」


「これで僕もドラゴン・スレイヤー――あ、あれ?」


 足から力が抜け、尻もちをつく。


「おや、スキルに負荷がかかったことによる疲労のようさね? 【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】のスキルレベルはどうなったい?」


「はい。ステータス・オープン!」


 そこには、『スキルレベル8』の文字が!!


「や、やりましたお師匠様! レベル8です!!」


「っしぃ! 神級目前さね!」


 お師匠様が小躍りする。可愛い。


「よぉし、次は生きたままの【収納】に挑戦だよ!」


「は、はい……」

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