軽トラは、スポーツジムに着いたが、ここは市役所から、そんなに離れた位置ではない。
しかし、防衛部隊は、ゾンビ&ギャング達を、よほど警戒しているようだ。
そのため、下手に動けなくて、すぐさま救出に向かう事は出来なかった。
賢一は、そう考えながら、スポーツジムの看板が掛けられている、大きなビルを眺めた。
「ここか? 確かに周りでは、派手な戦闘が行われていたようだ」
賢一は、エンジンを切り、ドアを開けると、外の蒸し暑い空気とが、彼を包み込む。
大量の死体や、燃え尽きた車などを見ながらも、少し緊張しながらも、彼は自分を落ち着ける。
「付近に、ゾンビは居ないな? 居ても遠くのだけだな? 面倒だから放置して、俺たちは中に入って行こう」
「そうね、連中は寄って来ないうちに、私たちは行方不明の連中を探すよ」
「うぅ…………怖いけど、入る覚悟は出来てます」
「俺は、サブマシンガンがあるから、怖くはないぜっ! メイスー、心配すんなっ!」
スポーツジムは、思ったよりも大きく、上階が窓ガラス張りであるため、解放感を感じさせる。
ゾンビを呼び寄せないように、賢一は必要ない戦闘を避けようと、みんなに提案した。
それに同意しながら、モイラは両手で、ヘンリーを構えながら、背中を丸めて突入の準備をした。
恐怖感から身体を震わせていたが、メイスーは真剣な表情を浮かべて、確りとM1カービンを握る。
ダニエルは、軽トラの荷台に積んであった、プラスチック製ボックスから武器を取り出す。
「トンプソンだね? ギャング映画みたいに、素早い連射は出来ないから、そこは期待しないでね?」
「ただし、それなりの威力はあるからな? ゾンビが出てきたら頼むぞ」
「おおっ! 任せておけっ!」
モイラと賢一たちの説明を聞いて、ダニエルは、トンプソンを抱えながら、元気よく返事する。
「私たちも、準備は出来てるわ」
「こっちも、大丈夫だ」
スカンジウムと、手斧であるハチェットを両手に構えながら、エリーゼは短く答える。
バックパックを背負っている、ジャンは、散弾銃モスバーグを持ちながら、ポンプを引いた。
「お前らも、ギャングの装備を手に入れたんだな? よし、内部に突入するっ! モイラ、頼むぞ」
「ええ、中に入ったら、静かに制圧していくわよ」
賢一は、深呼吸をしながら、十四年式拳銃を手に持ちながら歩き出した。
彼と同時に、モイラも室内へと突入するが、幸い玄関の中には、誰も存在しなかった。
「ウガアアアアアアーーーー!?」
中に入ると、冷たい空気が賢一たちを迎えたが、カウンターの窓口には、死体が並んでいる。
しかも、大きな声が響いてきており、それが人間でない事は、全員が分かった。
「どうやら、奥にはゾンビが徘徊しているらしい」
「ウグアア」
「グル…………」
賢一は、右側の廊下に足音を立てずに行くと、曲がり角から様子を観察した。
子供を連れた母親、年配の男性、若いカップルだった者たちが、彷徨いながら呻き声を発している。
「よし、ここは俺が、撃ち殺してやるっ!」
「待て、窓ガラスに穴があるっ! 今、下手に撃つと、他のゾンビが外から入ってくるかも知れない」
「そうだわ? ここは静かに行きましょう」
「となると、格闘武器しか使えませんね…………」
ついに自分の出番が来たと思って、トンプソンを構えるダニエルを、賢一は制止した。
窓には、無数の弾痕や割れた箇所があり、しかも外にも、ゾンビ達が歩いていたからだ。
ポケットに、スカンジウムを仕舞って、エリーゼは、ハチェットを両手で握り締める。
M1カービンを左手に握ると、メイスーは中華包丁を取り出し、白兵戦に備える。
「なら、俺たちが先に見てくるが? ジャンとメイスー達は後ろを頼む」
「本当なら、もっと静かに行くんだけどね~~? 他はプロじゃないし…………」
「分かりました、賢一さんも気をつけてください」
「後ろは、任せろ」
賢一は、指示を出して、緊張しながらも、ゾンビ達へと向かっていく。
モイラは、右手に多用途銃剣を持ち、女性ゾンビの首を、背後から密かに掻き斬る。
メイスーは、中華包丁を持ったまま、背後から誰かが来ないかと見張る。
ジャンは、バックパックのベルトに、モスバーグを仕舞うと、タガネを握り締める。
「タンゴダウン、次は…………? 残念だけど、斬るよ? 悪く思わないでね」
「グアアアア」
「それっ! このくらいでは、ビビらないわよ」
「この大型ナイフで斬りまくるぜっ!」
「グルアアッ!」
「ギャアアッ!」
ゾンビ達の呻き声が遠くから聞こえ、緊張感が漂う中、モイラは少年ゾンビも倒してしまう。
ハチェットで、真後ろから、サラリーマンらしき、ゾンビの頭を叩きつける。
ダニエルは、ロングナイフを振り回しまくり、周りの老人ゾンビやOLゾンビ達を駆りまくる。
こうして、彼等の奇襲に気がついて、動く死者たちが集まってきたが、直ぐに殲滅されてしまった。
「廊下には、もう居ないな? いや、ここに、まだ隠れていたかっ!」
「グッ! ウウ…………」
廊下の開きかかった、赤いドアを静かに動かした、賢一は敵を発見した。
こちらに背中を向ける、OLゾンビに、密かに近づいた彼は、AR15で羽交い締めにする。
「うりゃっ!」
「グゥ?」
賢一の奇襲を受けて、OLゾンビは、なす術なく、彼が取り出した特殊警棒に右目を突かれた。
「終わったな? ここは、トレーニングルームか? と言うか? 他のドアから、ゾンビが侵入しているようだな」
「ウガアアアアアアッ!!」
賢一は、並べれている、ランニングマシンやベンチプレス等を眺める。
すると、奥にある個室から、再びゾンビの咆哮が広い室内に轟いてきた。
「グオオオオオオオオ」
開かれたままのドアから出てきた敵は、大柄で筋骨隆々なゾンビだった。
「なんだっ! コイツはっ!? かなり、強そうなゾンビだが?」
「さっきと同じく、銃器は使えないよっ! 割れた窓から、敵を呼んじゃうからねっ!」
「やるなら、格闘武器しか無いわね…………」
「マジかよっ! ゴッドファーザー見たいに、マシンガンを撃ちまくれると思ってたのにっ!」
「そんな事より、どうやって、コイツを倒すんだ? 頭すら筋肉で固そうな感時がするが」
「ひたすら、頭を叩くしか無いんじゃないでしょうか? 取り敢えず、下手に近寄らない方が良いかと?」
賢一は、AR15を背中側のベルトに突っ込むと、特殊警棒を握り、大柄なゾンビと距離を取る。
対するモイラも、多用途銃剣の切っ先を、敵に向けながら、険しい目付きで相手を睨む。
ハチェットを、いつでも勢いよく振り回せるように、エリーゼは姿勢を構える。
仕方なく、ダニエルは、ゆっくりと音を立てずに、トンプソンを捨てて、ナイフを取り出す。
タガネを握ると、ジャンは後ろに回り込みながら、図体が大きな奴の隙を伺う。
メイスーは、中華包丁を持ちながら後退りして、怖がりながらも冷静に、状況を見極めようとした。
「ウオオオオオオッ!?」
「グオオオオオオッ!!」
「ガオオオオオオッ!!」
大柄なゾンビが、吠えると、奥から他の似たようなゾンビ達が、二体も現れた。
「はっ! おいおい、ジャンより体が、デカイのが追加で来やがったぞっ! 特殊警棒だけで、勝てるのか?」
「銃は使えないし、これは困ってしまったね~~? …………けれど? 六対三だから、丁度いいハンデになるよ」
「こ、これは不味いですっ! こんな大きい敵を、複数も相手にするなんてっ!」
「それでも、やるしか無いわっ! かかっていくわよっ!」
特殊警棒の先端を、ゾンビ達に向けながら、賢一は相手が襲ってくるまで待つ。
本当は、不味い状況だが、モイラは仲間たちを鼓舞するため、余裕ある態度を取る。
余りに強そうな大柄なゾンビを見て、メイスーは顔を青くして怯んでしまう。
エリーゼは、ハチェットを振るいながら走りだし、敵の脚を狙っていった。
「そうだなっ! 行くぞ、マッチョマンッ!」
賢一は、仲間たちとともに、この強敵に勝つ方法を、何とか見つけなければ成らなかった。