賢一は、軽トラのハンドルを握り、マンダエイ市内に聳え立つ、ビル街を抜ける。
周囲には、デパートやボウリング店が立ち並び、ダルそうに歩く、ゾンビ達の姿が見える。
「反応が鈍いな? 低速で走らせているからか? 連中、追ってこないと良いんだが?」
「きっと、エンジンを吹かせたり、銃声に反応するんだろうね?」
賢一は、道路の両脇にある歩道に立つ、ゾンビ達を見ながら、エンジン音に耳を傾けた。
軽トラは、ゆっくりと走っているが、それでも気を抜く事はできない。
いつ、フレッシャー&ジャンピンガー達が襲ってくるか、ギャング達が銃を撃ってくるか。
それを考えると、警戒心も自然と高まり、彼に過度な緊張感を与える。
助手席に座る相棒であるモイラも、鋭い目付きで、左右だけでなく、上方を睨む。
もしかしたら、ゾンビが上から降ってくるかも知れないし、スナイパーが存在する可能性がある。
だから、二人とも気を抜かないで、敵との交戦に備えて、身構えていた。
「おい、正面に人が見えるぜ? 軍と警備員? それに、生存者だっ!」
「本当だな、ふぅ~~? 今回は、危ない任務をしなくて良さそうだ」
「ヘスコ防壁に囲まれているね? 足りない部分は自動車を使っているようだわ」
「確かに、兵士たちも見えますね? これなら、安心できるはずです」
屋根の上で、ダニエルは両手を突いていたが、役場が見えてくると、騒ぎ始めた。
目的地が近づくにつれ、賢一の心臓は高鳴っていたが、実物を目にすると、一安心する。
二段に、積み上げられた四角い金網に包まれている、カーキ色をした布を見て、モイラは感心する。
その上に立ち、ヘスコ防壁から上半身だけを出す人間たちを、メイスーは眺めた。
当然だが、彼等は自動小銃や猟銃などを、こちらに敵意とともに向けてきていた。
「止まれっ! 市役所への侵入は許可していないっ!」
「俺たちは、救援部隊だっ! 通信機が動かないから調査に来ただけだっ!」
ヘスコ防壁は、城壁のように市役所を囲んでいたが、入口はコマンドウ装甲車で塞がれている。
その右側から、プーニーハットを被る白人隊長らしき人物が、声だけを出して、賢一たちを怪しむ。
「それが本当かは、分からないだろうっ! 現在、身分証の無い人間、または市役所の関係者でないと入れないっ!」
「また、これだね?」
「仕方ないさ? でも、どうするんだ…………武装解除でもするのか?」
ヘスコ防壁から、上半身を出して、隊長が怒鳴りながら、M4カービンを構える。
それを見て、軽トラの車内で、賢一とモイラ達は、愚痴りながら困り果ててしまう。
「あっ? 待って、下さいっ! 彼女なら知っていますっ!」
その時、ヘスコ防壁から、若い黒人兵士が顔を出すと、いきなり慌てだした。
「チャイニーズ・レストランで働いている店員ている料理人ですっ! 名前は、メイスー!」
「貴方は…………チェスターさん?」
フリッツ・ヘルメットを被る、チェスターは、少し離れた場所に立つ、隊長に叫ぶ。
メイスーは、彼の名前を呟きながら、目をキョトンとさせて、呆けた顔になる。
「メイスー、知り合いなのか? と言うか、常連客って、やつか?」
「ええ、たまに店へと、足を運んでくれるんです」
賢一が質問すると、メイスーは座席に向けて、後ろから声をかける。
「知り合いか? いいだろうっ! 入れてやれっ! ただし、妙な真似をしたら射殺からなっ!」
「分かった、撃たないでくれ」
白人隊長の命令で、入口を塞いでいる、コマンドウ装甲車が後退し始める。
それに合わせて、賢一たちは、ゆっくりと軽トラを走らせながら、敷地内に入った。
当然だが、その間も兵士と警備員に加え、生存者たちまでもが、彼等に殺気と銃を向ける。
それは、車両が駐車場内の右側に曲がり、静かに停車しても、暫くは続く。
「俺たちは、伝令や救援部隊って、感じなんだ? なぜ、通信機に出ない?」
「連絡が無いから、こっちから来たんだよ? 私らは、それを確かめに来たんだ」
「通信兵のクライブ伍長が、行方不明だっ! 彼が居ないから無線機は使えないっ!」
ドアを開けず、賢一とモイラ達は、ここに来た目的を話すが、白人隊長は理由を語る。
「ボドワン軍曹に率いられた、彼等の部隊は、ここから近い、スポーツジムに向かったが、帰って来ないんだ」
「なぜ、彼等はスポーツジムに行ったんだ? 貴重な無線機を持った兵士を生かせた理由は?」
白人隊長が話すと、賢一は、ふと頭に浮かんだ疑問を問いかける。
「ギャングとゾンビ達による襲撃だっ! 我々が、ここに到着した時は、すでに銃撃戦が行われていたっ! それで、部隊が混乱の最中、別々な場所に退避してしまったんだ」
疲れたと言わんばかりに、白人隊長は、困った表情を浮かべながら、理由を話した。
「特に、スポーツジム周辺は、大量の敵が押し寄せてきて、手に負えなかった」
「なるほどな? 分かったっ! 俺たちが、行方不明の連中を探してくるっ!」
「それが出来たら、今度は歓迎してよっ!」
白人隊長の言葉を聞いて、賢一はスポーツジムを目指そうとして、軽トラを動かす。
モイラは愚痴を言いながら、両腕を組んで、市役所を目にした。
上から見ると、山の字型をしている建物には、スナイパーや機関銃手が、窓に立っている。
彼等も、こちらの様子を伺いながら、銃口から何時でも火を吹かせられるように待機していた。
「と言うワケで、行く事にしたが? メイスー、エリーゼ? 降りなくていいのか?」
「いえ、私も着いていきます…………安全な場所とは言え、一人だけ残るのも何だか、アレですし」
「私なら、心配は要らないわ、イラクやアフガンには何度も言ってるから」
モイラは愚痴を言いながら、両腕を組んで、市役所を目にした。
上から見ると、山の字型をしている建物には、スナイパーや機関銃手が、窓に立っている。
彼等も、こちらの様子を伺いながら、銃口から何時でも火を吹かせられるように待機していた。
「と言うワケで、行く事にしたが? メイスー、エリーゼ? 降りなくていいのか?」
「いえ、私も着いていきます…………安全な場所とは言え、一人だけ残るのも何だか、アレですし」
「私なら、心配は要らないわ、イラクやアフガンには何度も言ってるから」
賢一は、低速のまま、軽トラを走らせながら、荷台に乗っている二人に声をかける。
気弱なメイスーは、皆に着いていく事を選択すると、エリーゼは肩に、ハチェットの刃を乗せる。
「メイスー? 君は、ここに残らないのか?」
「あっちも言ってるぜ、どうするよ」
「メイスー、残ってもいいんだぞ…………」
チェスターの言葉を聞いて、ダニエルとジャン達も、メイスーを残そうとする。
「チェスターさん、皆さん、お気持ちは有りがたいですけど、私も戦いますっ! 役に立てるかは分かりませんが…………」
「それなら、問題ないわね? 足手まといに成らなきゃ良いだけだし」
「戦うと言うなら、海兵隊員は反対しないさっ! ライフルマンは、一人でも多い方が困らないからね~~!」
メイスーは、M1カービンを手に持つと、皆とともに、スポーツジムに同行すると宣言する。
エリーゼは、右手に握るハチェットの刃を後ろから眺め、モイラは鋭い目付きで呟く。
「そうか? チェスターだったか? そう言うワケだから、彼女は任せてくれ」
「ああ、だが、無事に帰らせてくれよ」
そう言うと、賢一は軽トラの走る速度を上げ初め、チェスターは後ろ姿を見ながら呟いた。
彼等が出ると、入口は再び、コマンドウ装甲車により、閉じられてしまった。
「さて、また外に出たが? スポーツジムに行ったと言うが?」
「ここから、右側の奥に看板が見えるわ」
アクセルを踏み込み、軽トラの速度を上げながら、それらしき建物に賢一は向かう。
モイラも、同じ方向に目を向けると、兵士やギャング達の死体などが見えてきた。
もちろん、ゾンビ達も何体か、ヨロヨロと徘徊したり、肉に噛みついている姿が分かる。
だが、数は少なかったので、危険は無さそうに思えたが、六人は油断しないで近づいていった。