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第24話 病院から出発


 賢一とモイラ達は、病院の薄暗い受付外来を、ゆっくりと歩いていた。


 二人は、受付カウンターの左側にある売店に向かっていこうとする。



「この病院の薬局には、薬がないし? 病院内の保管庫にもないし…………」


「別の病院に行くはずが、内戦とゾンビ騒ぎで、ここに来るしかなかったと?」


 東アジア系の看護師と黒人看護師たちが、深刻な表情をしながら立っている。



「はあ? 薬不足か? 助けてやりたいが、他にやる事があるからな…………しかし、見捨てるワケには」


「いかないね~~? 私達が薬局に行って、薬を取ってきてやろうか」


 周囲には、ゾンビの襲撃から逃れた人々が集まっているが、中でも看護士たちが目立つ。


 白いナース服を着ている、彼女たちが話す内容は、患者のために何か出来ないかと悩んでいる。



「メトプロロールさえ、ここの病院にあれば…………」


「私たちじゃ、取りに行けないし」


 東アジア系の看護師と黒人看護師たちが、先ほどと同じく話を続けている。


 苦悩と、ゾンビに襲われるかも知れない恐怖感に満ちた表情を、彼女たちは互いに浮かべていた。



「アンタら? 薬が欲しいのか? 名前を書いた紙をくれれば、他の薬局から持ってきてやるぞ」


「私たちは、救出部隊みたいな物だからね? ついでに、運び屋も請け負うけど?」


 賢一は、看護士たちに話しかけると、モイラも同じく、二人の頼みを聞いてやろうとした。



「え? でも…………いいんですか? 外は、危険なのにっ!」


「そうよっ! 街には、ゾンビやギャング達が潜んでいるのよ?」


「まあ、俺たちも正直に言うと、不安はあるが、困っている人々を、放置する事は出来ないからな」


「ギャングの銃弾やゾンビ達は、怖いけど、それでも、誰かが行かなくちゃねっ!」


 東アジア系の看護師は、驚いた表情になり、黒人看護師も、ビックリしながら大丈夫かと思う。


 彼女たちの目には、不安が浮かんでいたが、賢一は二人に微笑みかけ、勇気を与えようとした。



 モイラは、自信満々に答えながら、ドンッと胸を叩いて、双丘を揺らした。


 その余りにも、堂々とした姿に、外来にたむろする人々全員から注目が集まった。



「ねえ? それなら、ここに行って貰えるかしら? ここから近いんだけど、私たちは行けないから」


「他の薬も持ってきて、貰えるかしら? このメモに必要な物は、書いてあるから? あと、行き先も」


「ここは…………次の行き先と被るな? 目標地点より少し向こうだ? これなら、行く事ができる」


「依頼は、確かに受けたわっ! もう少ししたら、出発するから任せなっ!」


 東南アジア系の看護士が、薬を調達してくるように頼むと、黒人看護士は、メモ用紙を渡す。


 渡された紙を見て、賢一とモイラ達は、薬局の位置が、地図が役場と近いことを確認した。



「じゃあ、頼みましたわ」


「私たちは、仕事に戻りますから」


「ああ、任せてくれ…………と、飯を食いに来たんだったな」


「あら? 本題を忘れてたわ」


 東南アジア系の看護士は、受付外来から、廊下に向かっていき、黒人看護士は反対側に歩いていく。


 賢一とモイラ達は、腹を空かしている事に気がつき、二人とも売店に行こうとした。



「お前ら? 売店なら、停止中だとよ? なんでも、非常事態だから配給制にしているらしいぜっ!」


「それに、食べ物の配給は終わったらしいわ? 店頭のは無くなったし? 昼の病院食も無くなったとかね? あとは冷凍保存しているのしかないとか?」


「はあ? それじゃ、俺たちは何を食えばいいんだよ? まさか、ゾンビの血液を飲めなんて、言わないよな…………」


「冷凍保存しているのは、出さないのかい? それを食べればいいじゃない?」


 売店へと向かって、二人が歩いていると、前方から、ダニエルとエリーゼ達が現れた。


 彼等の話を聞いて、賢一は愚痴り、モイラは困った表情を浮かべながら、両腕を震わせる。



「いいや、安心して…………兵隊たちから、ギャング連中の車を貰ったけど、アイツら、コンビニ弁当を盗んでたのよ」


「クーラーボックスに入ってたしっ! それを分けてやるから、あっちで、食いながら話をしようぜ」


「それを、先に言ってくれな? じゃあ、奥に向かうとしますか」


「何の料理があるか、楽しみだね~~! 戦場での兵隊の楽しみは、料理を食べる事だけだからねーー♫♬」


 エリーゼとダニエル達は、廊下の奥へと歩きながら、食べ物に関して語る。


 二人に着いていきながら、賢一は疲れた表情で、モイラは気分よく進んでいく。



「あっ! 二人とも、待ってましたよ?」


「遅かったな? 何処に居たんだ? ふぁ~~?」


「悪い…………疲れて、ボウッとしてたわ」


「アタシは、死体を運んだあと、ゾンビが来ないかと、警戒してたね? 兵隊たちの手伝いさ」


 姿が見えなかった、二人を見ると、メイスーは椅子に座りながら声をかけてきた。


 ジャンは、いかにも眠そうな顔で、欠伸をしながら両腕を天に向けた。



 食堂に幾つかある白い丸テーブルへと向かう、賢一とモイラ達の目に、美味しそうな料理が入った。


 プラスチック製の容器に載せてある、スパゲッティが並べてあった。



「さて、飯を食わせて貰うか? 頂きますっ!」


「ガツガツ食うよっ! お腹が空いてるからねっ!」


「それで? これから、どーーすんだ?」


「昼から、いったい何をします?」


 賢一とモイラ達が、フォークを掴むと、ダニエルとメイスー達は、午後の予定を聞いてきた。



「ギャングの車を貰ったんだろう? なら、それに乗って、次の目的地に向かう」


「次は、役場の防衛部隊に合流するんだよっ! その後は、薬局に立ち寄りながら、缶詰め工場に行く」


「なら、用事は先に済ませとかないとね」


「向こうも、生存者たちが無事だと良いんだが…………」


 賢一は、スパゲッティを食べながら語り、モイラは複数の行き先を告げる。


 カメラのバッテリー残量を、エリーゼはチェックすると、ジャンはタガネを真剣な顔で握る。



「まあ、今から新派しても仕方がないさ」


 こうして、賢一たちは食事と話し合いを終えると、病院の外に出ていった。



「これか? さっきの撃ち合いで、見た奴だな? 灰色の軽トラか? よく、日本の田舎とか海岸で、ジジババが乗るやつだ」


「いいから乗って、私たちに遊んでいる暇はないわよ…………」


「こっちの準備は、出来ているからな」


「みんな、乗っているかい? なら、走らせて貰うかいっ!」


 駐車場に、置いてあった軽トラを見て、賢一は不意に呟いてから、運転席のドアを開けた。


 荷台後部の左側に座る、エリーゼは真顔で呟きながら、太陽光を受けて、眩しそうな表情になる。



 モスバーグM500散弾銃を、右手に握りながら、ジャンは荷台後部の右側に座る。


 助手席に腰掛けているモイラは、コルト45の安全装置を切り替えた。



「悪い、悪い、じゃあ? 出発させるぞっ!」


 軽トラは、駐車場の正門にまで走っていくと、一度手間で、段々と速度を下げながら停車する。



「出発するのか? 開けてやれ」


「分かった」


 白人兵士が頼むと、ピックアップを左側へと、黒人兵士は移動させる。



「さっきの戦いで、ギャング達が使ったやつだな?」


「だろうな? はやく、退かして欲しいぜ」


「この先は、また敵がくる可能性が…………」


 多数の弾痕が、空いているピックアップを見ながら、賢一は、再び軽トラを走らせ始める。


 ダニエルは、立ちながら屋根の上で呟き、メイスーは右側で、長い収納ボックスに座る。



「俺たちは、役場の方に行ってくるからな? 戻ってきたら、また空けてくれよ?」


「了解した、気をつけて行ってくれ」


 そう言って、賢一は軽トラを敷地内から出すと、白人兵士は、その後ろ姿を見送った。

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