散乱するガラクタは、多種多様であり、ここにも多数の罠が仕掛けてあると分かる。
ひっくり返ったパイプ椅子、円形の小さなゴミ箱、段ボール箱、青いマット。
青いポリバケツ、白い三段ラック、黒いボストンバッグ、バーベル。
「これ? 中に、クレイモアがあるわっ! パイプガンもねっ!」
「俺たちが、解除する…………みんな、下がっててくれ」
ポリバケツをひっくり返して、中身を確かめるモイラと、パイプ椅子を退かす賢一。
「この地雷は、使えるわね? ボストンバッグに容れて運ぶわ? メイスー、護身用にパイプガンは上げるわ」
「メイスー、後で設置方法を教えるからな? それは弾を抜いてるが、太いパイプを後ろの細いパイプに引くと、散弾は発射される」
「はい、でも使う必要がないのが、一番いいんですが…………」
「これは、ギャング達の密造品ね?」
モイラは、ボストンバッグに次々と、クレイモア地雷を容れていき、それを背負った。
パイプガンの使い方を教えながら、賢一は暴発しないように銃身を下に向けて、弾を抜く。
それを受け取りながら、メイスーは腰に下げた小さなバッグへと押し込む。
エリーゼは、以前の取材時に、戦場で見た事があるため、不意に呟いた。
「このドアを開けるぜっ! ゆっくりとな」
「敵は出てこないでしょうけど、気をつけてね」
ダニエルは、罠があるかも知れぬと、警戒しながら、ドアを静かに開いた。
慎重に動く彼を見ながら、エリーゼは背後で、スカンジウムを構える。
「誰だ、あの男は? 奴が、通信兵か?」
室内には、兵士が右側の壁に背中を預けており、ダニエルは苦しそうな表情を浮かべる彼を睨む。
「誰だっ! ギャング達かっ! ここは、通さないっ!!」
「うわっ! な、なんだよっ! いきなり、銃を向けるなよ」
「ダニエル、ボロナイフを下げな」
「私を見れば分かるでしょう? 白人観光客よ」
M4カービンを向けてくる兵士に対して、ダニエルは驚いて、両手を上げた。
しかし、モイラから、うっかりボロナイフを握ったままだと指摘されてしまう。
そんな二人を余所に、エリーゼが冷静に、自分たちの潔白を証明しようとする。
相手は、正体不明なこちら側を、ギャングだと思っていると考えたからだ。
「どうかな? 最近の観光街やビーチには、
「その様子だと、足を怪我しているんだな? 俺たちに敵意があるなら、とっくに殺している」
「我々は、通信兵を捜索しに来たんだ? 君が、その兵士なのか?」
東南アジア系の兵士は、こちらを信用せず、銃口を向け続けたまま、睨みを効かせる。
ゆっくりと、賢一は説得しながら近づいていき、ジャンも、その後ろに続く。
「…………いや? 俺はアダムス二等兵だ? 他の連中のために、急いで罠を設置して走ろうとしたら、このざまだ」
アダムス二等兵は、賢一たちを見て、ギャングではないとしたのか、銃を下げた。
「なんで、足を怪我しているんだ?」
「立てるか? 市役所まで、連れていってやろう」
賢一とジャン達は、アダムス二等兵へと、左右から近づこうとした。
「これは慌てて、仲間たちの場所まで走ろうとしたら、足を
「生き残りは、どこに居るんだい?」
「彼等も、市役所まで連れていってあげないと…………」
アダムス二等兵を、二人が立ち上げようとすると、彼は苦悶の表情を浮かべる。
モイラは、他の部隊員を探して、目をキョロキョロさせると、メイスーも部屋を見渡しながら探す。
「ここは、備品庫らしいが? 他の連中は奥に立て込もっているはずだ…………そこのドアから入っていける」
「分かった、任せなっ! 取り敢えず、行ってみるよ」
「連中の説得を頼むぜ、肩を貸してやるから捕まってくれ」
「怪我人に、無理はさせたくないが、撃たれたくないからな」
アダムス二等兵が、この部屋から、さらに奥を指差すと、モイラはドアを静かに開く。
そして、賢一とジャン達が両脇を支えながら、彼を隣室に連れていこうとする。
「よし、こっちには、ブービートラップは無いね? あ…………まずったわ」
「ヤバイな、直ぐに引き返すっ! アダムス、アンタは隠れててくれ」
「あ、ああ…………」
「全員、ゾンビ化していたのか?」
モイラが室内に突入すると、そこでは防弾ゾンビと化した兵士たちが、フラフラと歩いていた。
その中には、背中に通信機を背負っている者や大柄なゾンビも見えた。
賢一は、アダムス二等兵を、今出たばかりの部屋に戻しながら、ドアを閉めた。
そして、ジャンも敵を睨みながら、タガネを握り締めると、ファイティングポーズを取る。
「グアアアアッ? グア?」
「いや、来ないでっ!!」
「頭を狙って、はっ! ヘルメットが邪魔ねっ!」
「グッ!? グアアッ!!」
中華包丁を振るった事で、防弾ゾンビは腕を斬られるが、それでも怯まずに歩いてくる。
メイスーは、刃を向けながら、近寄ってくる相手と距離を取ろうとする。
ハチェットを勢いよく、相手に叩きつけたが、エリーゼの攻撃は、見事に弾かれてしまう。
仕方ないので、今度は顔面や首を狙って、彼女は再び打撃を繰り出そうと、姿勢を低く身構えた。
「大柄なのには、
「グオオーーーー!!」
大柄な防弾ゾンビは、腕や顔を攻撃するしかないが、賢一の特殊警棒では、大した事はできない。
しかし、彼は近づきながら繰り出される腕の振り回しを避けつつ、何とか反撃に移ろうとする。
「コイツら、アーマーを装備しているからだけじゃないっ! 元は軍人だから、かなり手強いぞ」
賢一は、仲間たちと共に力を合わせ、ゾンビたちを次々と倒そうとしていく。
ところが、刑務所の時と違って、防弾ゾンビ達には、生半可な攻撃では怯まない。
アーマーを装備しており、体力も多い連中は、手強く、倒すのには手間がかかるだろう。
特に、防弾ゾンビ化している大柄なゾンビは、どうやっても殺せないように思える。
「うらあっ! て、やっぱり、効くわけないかっ! でもなっ! こうやって、お前の気を引いてればっ!」
「グオオオオオオ」
「俺が裏から攻撃してやるぜっ! オラオラッ!」
「手足は、装備が無いからねっ!」
特殊警棒により、賢一が繰り出した叩きつけは、大柄な防弾ゾンビの肩に当たる。
だが、その一撃も筋肉により、見事に阻まれてしまうが、それでも別に良かった。
何故なら、ダニエルとモイラ達が、隙を突いて、後方に回り込んでいたからだ。
二人は、それぞれの刃物を、腰に突き刺したが、そこからは血が吹き出るだけだった。
「ナイフが深く刺さらないっ!? どうすりゃ、いいんだよっ!!」
「こう言う時は、慌てずに何度も攻撃するんだよっ!! わあっ!?」
「グオオオオーーーー」
「ガアアアア」
戦いは熾烈を極めたが、賢一たちは、皆で勝利を掴むことを信じていた。
しかし、ダニエルの握るボロナイフは、刃を赤く血に染めるだけで、大柄な防弾ゾンビを倒せない。
モイラは、多用途銃剣を、腰に何度も差し込むが、その間に周りから防弾ゾンビ達が近づく。
動きが遅いとは言え、獲物を前にした連中は、小走りで、腕や頭を振りまくりながら襲ってくる。
「周りの奴等も、強いっ! くっ! 頭を叩こうにも、ヘルメットが邪魔だ」
「ウッ!」
「銃もダメですっ! ここは左の方が、ガラス張りになってますからっ!」
「グワア~~!!」
「グルアアアアッ!!」
「ウォーーーー」
「近づくと、痛い目を見るわよ」
ジャンは、タガネを突き刺そうとするも、防弾ゾンビが被るフリッツ・ヘルメットに阻まれた。
同じような過ちを繰り返さぬように、メイスーは、中華包丁で、敵の手首を切り落とす。
二体同時に、連中が迫ってくると、エリーゼは両手で、ハチェットを思いっきり左右に振るう。
こうして、賢一たちは、軍人ゾンビ達に苦戦しながらも、何とか奮闘するのだった。