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第28話 軍人の死体が…………


 散乱するガラクタは、多種多様であり、ここにも多数の罠が仕掛けてあると分かる。



 ひっくり返ったパイプ椅子、円形の小さなゴミ箱、段ボール箱、青いマット。


 青いポリバケツ、白い三段ラック、黒いボストンバッグ、バーベル。



「これ? 中に、クレイモアがあるわっ! パイプガンもねっ!」


「俺たちが、解除する…………みんな、下がっててくれ」


 ポリバケツをひっくり返して、中身を確かめるモイラと、パイプ椅子を退かす賢一。



「この地雷は、使えるわね? ボストンバッグに容れて運ぶわ? メイスー、護身用にパイプガンは上げるわ」


「メイスー、後で設置方法を教えるからな? それは弾を抜いてるが、太いパイプを後ろの細いパイプに引くと、散弾は発射される」


「はい、でも使う必要がないのが、一番いいんですが…………」


「これは、ギャング達の密造品ね?」


 モイラは、ボストンバッグに次々と、クレイモア地雷を容れていき、それを背負った。


 パイプガンの使い方を教えながら、賢一は暴発しないように銃身を下に向けて、弾を抜く。



 それを受け取りながら、メイスーは腰に下げた小さなバッグへと押し込む。


 エリーゼは、以前の取材時に、戦場で見た事があるため、不意に呟いた。



「このドアを開けるぜっ! ゆっくりとな」


「敵は出てこないでしょうけど、気をつけてね」


 ダニエルは、罠があるかも知れぬと、警戒しながら、ドアを静かに開いた。


 慎重に動く彼を見ながら、エリーゼは背後で、スカンジウムを構える。



「誰だ、あの男は? 奴が、通信兵か?」


 室内には、兵士が右側の壁に背中を預けており、ダニエルは苦しそうな表情を浮かべる彼を睨む。



「誰だっ! ギャング達かっ! ここは、通さないっ!!」


「うわっ! な、なんだよっ! いきなり、銃を向けるなよ」


「ダニエル、ボロナイフを下げな」


「私を見れば分かるでしょう? 白人観光客よ」


 M4カービンを向けてくる兵士に対して、ダニエルは驚いて、両手を上げた。


 しかし、モイラから、うっかりボロナイフを握ったままだと指摘されてしまう。



 そんな二人を余所に、エリーゼが冷静に、自分たちの潔白を証明しようとする。


 相手は、正体不明なこちら側を、ギャングだと思っていると考えたからだ。



「どうかな? 最近の観光街やビーチには、美人局つつもたせが出るからな」


「その様子だと、足を怪我しているんだな? 俺たちに敵意があるなら、とっくに殺している」


「我々は、通信兵を捜索しに来たんだ? 君が、その兵士なのか?」


 東南アジア系の兵士は、こちらを信用せず、銃口を向け続けたまま、睨みを効かせる。


 ゆっくりと、賢一は説得しながら近づいていき、ジャンも、その後ろに続く。



「…………いや? 俺はアダムス二等兵だ? 他の連中のために、急いで罠を設置して走ろうとしたら、このざまだ」


 アダムス二等兵は、賢一たちを見て、ギャングではないとしたのか、銃を下げた。



「なんで、足を怪我しているんだ?」


「立てるか? 市役所まで、連れていってやろう」


 賢一とジャン達は、アダムス二等兵へと、左右から近づこうとした。



「これは慌てて、仲間たちの場所まで走ろうとしたら、足をくじいただけだ」


「生き残りは、どこに居るんだい?」


「彼等も、市役所まで連れていってあげないと…………」


 アダムス二等兵を、二人が立ち上げようとすると、彼は苦悶の表情を浮かべる。


 モイラは、他の部隊員を探して、目をキョロキョロさせると、メイスーも部屋を見渡しながら探す。



「ここは、備品庫らしいが? 他の連中は奥に立て込もっているはずだ…………そこのドアから入っていける」


「分かった、任せなっ! 取り敢えず、行ってみるよ」


「連中の説得を頼むぜ、肩を貸してやるから捕まってくれ」


「怪我人に、無理はさせたくないが、撃たれたくないからな」


 アダムス二等兵が、この部屋から、さらに奥を指差すと、モイラはドアを静かに開く。


 そして、賢一とジャン達が両脇を支えながら、彼を隣室に連れていこうとする。



「よし、こっちには、ブービートラップは無いね? あ…………まずったわ」


「ヤバイな、直ぐに引き返すっ! アダムス、アンタは隠れててくれ」


「あ、ああ…………」


「全員、ゾンビ化していたのか?」


 モイラが室内に突入すると、そこでは防弾ゾンビと化した兵士たちが、フラフラと歩いていた。


 その中には、背中に通信機を背負っている者や大柄なゾンビも見えた。



 賢一は、アダムス二等兵を、今出たばかりの部屋に戻しながら、ドアを閉めた。


 そして、ジャンも敵を睨みながら、タガネを握り締めると、ファイティングポーズを取る。



「グアアアアッ? グア?」


「いや、来ないでっ!!」


「頭を狙って、はっ! ヘルメットが邪魔ねっ!」


「グッ!? グアアッ!!」


 中華包丁を振るった事で、防弾ゾンビは腕を斬られるが、それでも怯まずに歩いてくる。


 メイスーは、刃を向けながら、近寄ってくる相手と距離を取ろうとする。



 ハチェットを勢いよく、相手に叩きつけたが、エリーゼの攻撃は、見事に弾かれてしまう。


 仕方ないので、今度は顔面や首を狙って、彼女は再び打撃を繰り出そうと、姿勢を低く身構えた。



「大柄なのには、迂闊うかつに近寄るなよっ!」


「グオオーーーー!!」


 大柄な防弾ゾンビは、腕や顔を攻撃するしかないが、賢一の特殊警棒では、大した事はできない。


 しかし、彼は近づきながら繰り出される腕の振り回しを避けつつ、何とか反撃に移ろうとする。



「コイツら、アーマーを装備しているからだけじゃないっ! 元は軍人だから、かなり手強いぞ」


 賢一は、仲間たちと共に力を合わせ、ゾンビたちを次々と倒そうとしていく。


 ところが、刑務所の時と違って、防弾ゾンビ達には、生半可な攻撃では怯まない。



 アーマーを装備しており、体力も多い連中は、手強く、倒すのには手間がかかるだろう。


 特に、防弾ゾンビ化している大柄なゾンビは、どうやっても殺せないように思える。



「うらあっ! て、やっぱり、効くわけないかっ! でもなっ! こうやって、お前の気を引いてればっ!」


「グオオオオオオ」


「俺が裏から攻撃してやるぜっ! オラオラッ!」


「手足は、装備が無いからねっ!」


 特殊警棒により、賢一が繰り出した叩きつけは、大柄な防弾ゾンビの肩に当たる。


 だが、その一撃も筋肉により、見事に阻まれてしまうが、それでも別に良かった。



 何故なら、ダニエルとモイラ達が、隙を突いて、後方に回り込んでいたからだ。


 二人は、それぞれの刃物を、腰に突き刺したが、そこからは血が吹き出るだけだった。



「ナイフが深く刺さらないっ!? どうすりゃ、いいんだよっ!!」


「こう言う時は、慌てずに何度も攻撃するんだよっ!! わあっ!?」


「グオオオオーーーー」


「ガアアアア」


 戦いは熾烈を極めたが、賢一たちは、皆で勝利を掴むことを信じていた。


 しかし、ダニエルの握るボロナイフは、刃を赤く血に染めるだけで、大柄な防弾ゾンビを倒せない。



 モイラは、多用途銃剣を、腰に何度も差し込むが、その間に周りから防弾ゾンビ達が近づく。


 動きが遅いとは言え、獲物を前にした連中は、小走りで、腕や頭を振りまくりながら襲ってくる。



「周りの奴等も、強いっ! くっ! 頭を叩こうにも、ヘルメットが邪魔だ」


「ウッ!」


「銃もダメですっ! ここは左の方が、ガラス張りになってますからっ!」


「グワア~~!!」


「グルアアアアッ!!」


「ウォーーーー」


「近づくと、痛い目を見るわよ」


 ジャンは、タガネを突き刺そうとするも、防弾ゾンビが被るフリッツ・ヘルメットに阻まれた。


 同じような過ちを繰り返さぬように、メイスーは、中華包丁で、敵の手首を切り落とす。



 二体同時に、連中が迫ってくると、エリーゼは両手で、ハチェットを思いっきり左右に振るう。


 こうして、賢一たちは、軍人ゾンビ達に苦戦しながらも、何とか奮闘するのだった。

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