空港の出発ロビーのカウンターエリアに見送りに来た澄美怜。そこで最後の別れのやり取りに名残惜しむ薊。
「……ああ――っ、あっという間だったね。寂しくなるよ」
それを耳にして心の中で愚痴る
……この場面でそんなセリフ、反則だよ、だって目から勝手に……。
「泣き虫だねー。な~に、別に一生会えなくなるとかじゃないしメールもするからさ。またいっぱい話そう!」
「そんな優しく言われたら……はぐっ……」
どっと零れて来る涙。
「あーもう。分かったよ。ならスミレが必要な時、また何処からともなく現れてあの時みたいにガッツリ叱ってカツ入れてあげるから」
袖で涙を拭ってコックリと頷く澄美怜。
「だから何があっても負けちゃダメだよ。応援してるんだから。
「薊さん…… 」
「ホントに任せたんだから、今のポジションだけは誰にも取られたらダメだよ」
長らく反目してた分だけ、その優しい言葉は更に涙を吹き出させる。
「こらっ、いつまでも泣いてたら私がその内戻ってきてもらっちゃうぞ」
「ふふ……ダメです。グスッ」
「いーや、貰う!」
「ダメです! 任されたから、負けません。グスッ」
「そーだよほら、泣くな! そーやってメソメソ陰キャしてるから
わざと発奮させるのもこの人らしい優しさ。
「あー、そーゆ―事今言いますか? 私より先なんて悔しい! あ、でもそれ、兄のファーストじゃないですよ」
「えっ、どーゆ―事? え、誰なの? どーなの?」
ガクガクと肩を掴んで揺さぶって、「教えなさい!」と迫るが、その顔は微笑んでいる。
――― 名残惜しくて……
「ちょっイタ……イタいですぅ~」
「えー、どーせ小さい頃のチュッチュっとかって良く分かってないヤツでしょ」
「いえ……イタっ、私とはそんなもんだからファーストじゃなくて……」
「違うの?」
ガクガク、――― 最後の戯れ合い……
「とにかくそれとは別で~ アタッ」
「何い~ だれなの―っ! このタイミングで言うーっ?!」
「アドバイス通り負けずに仕返しを……」
そこへ、『薊ーっ、もう行くわよー』 と遠くから親の呼ぶ声が。タイムリミットだ。
「ふふふ。それじゃあ、行くね…… いつかまたね」
背を向け去ってゆく薊に大きく手を振って叫ぶ澄美怜。
「ずっと元気で。私もメールしますーっ」
騒がしくも楽しい人は去り、そして飛行機が見えなくなるまで見送った。
こうして2つの初恋は友情と共に過ぎ去って行った。
だが妹としての恋はまだ終わっていない。出口の見えないトンネルも続いてる。
しかしこの出逢いと別れは
……本当にありがとう。
私を目覚めさせてくれた人。
第一章 【序】目覚め <完>
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全編で序・破・急の三章構成の当作の内、ちょっとコミカルで少し謎めいた第一章の終幕です。
謎の症状の殆どは第二章で明らかになりますが、澄美怜の兄に対する単なる淡い感情を恋だと気づかせてくれ、すんでの所で自害を踏みとどまらせてくれたこの薊の存在は、後の澄美怜の考えに影響を与え、そして繋がっていきます。
仄かな芽生え、そして彼女の有する特殊な身辺事情をゆっくり描いた第一章に対し、次章では澄美怜にとって更に愛とは何かを
第二章 【破】愛の真実
ご期待下さい。
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第22話 イメージBGM▼ i-AM
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