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第45話 チョト、いや、かなりエロくない?!







 お前~! と逆上男に蘭のポニーテールはムンズと捕まれ『ギャーッ』


―――どうしようっ、でも蘭を守らないと!



 寸時、澄美怜すみれは思い出した。慌てて店を出た瞬間、持てる限りの荷物を無造作に掴んだ時、何故か持っていたフタ付きの特大カフェオレカップもそのまま手にしてた事に気付き、もうなりふり構わずフタを外して男の顔面に目掛けてブチ撒けた。未だアツアツのそれが男の目に入り、


「ぬぉあっちいぃ……」


と後ろ向きで顔を押さえた。その隙に『行くよっ!』と蘭の腕を強く掴み走り出す。


 いざという時、その強さを発揮する。普段はあんなにただ優しいこの姉が―――


 かつて、公園でいじめっ子に絡まれた時も。他にも誤解で悪者になってしまった時に担任の先生まで談判しに行ってくれた日も。自分の大事なものには凄く芯の強い所を見せてくれた。久しぶりに見たその勇姿。


―――やっぱり好きだ……お姉ちゃん!


 まるで王子様に助けられるお姫様気分で夢の中の出来事の様に引っぱられてゆく。


 迷いなく路地から目抜き通りへ駆け抜け、デパートまで妹を引っぱって行く。人が引っ切り無しに出入りするそこならばもう心配はない。


 10Fの大型ホールのベンチまで行った所でヘタって座り込む。息を落ち着かせ顔を見合わせるとス卜ップモーション。そして同時に大笑いした。


 蘭は笑い終えたあとも胸が熱くて、この事だけで頭が一杯だった。


 ……とんだプチ冒険なっちゃったな。でも……。お気に入りのキャップはもう戻って来ないけれど、偶然風にイタズラされてなければこんな冒険級のことなんて……

 じゃなきゃお姉ちゃんの勇姿も見れなかった……だからあれはお姉ちゃんとの思い出だいと考えたら安いもんだ。うん。この日をきっと一生忘れない……。


 蘭にはそんな風に思えた。


  *


 家に帰り就くと、その夕飯時、大興奮でその武勇伝を家族に話す蘭。その夜はこの話で持ちきりだった。


 特に自分のピンチを颯爽と助けてくれた姉のカッコイイ姿を熱く雄弁に語った。


 でも蘭は一つだけ話さなかった事がある。


 今回のお出掛けは姉を保護者として、というのは立て前だったという事を。大好きなお姉ちゃんがこの所恋愛モードになってしまって干渉する時間が激減、寂しさを感じていた。


 お兄ちゃんの方しか気持ちが向いていない事は痛いほど分かっていた。そんな大好きなお姉ちゃんをいつかお兄ちゃんから引き剥がして、遠くへ二人でお出かけしてみたくて……


 本当はちょっとした姉妹デー卜だった事、言えずに自分の中だけにしまっておいた。 そしてこの冒険は蘭にとっての宝物になった。


 *


 その武勇伝を温かい目で見守って聞いていた深優人みゆと。だが少し心配もしていた。

 その冒険の一瞬の恐怖がフラッシュバックしない様にと案じていた。


 夕食後、フロから出て部屋へ戻ろうとした時、2階のトイレの電気が点いていてドアが少し開いている。消し忘れか?と、通り掛かるついでに消そうと近づいて行くと、深刻そうな声で


、絶対に閉めないで、あと見ないで」


 と言う澄美怜の声。やはりパニック障害が。もし発作が出たらすぐ飛び出すつもりでこんな……


―――そう、極度の不安症で閉塞状態への拒絶があるとドアを閉める事さえ恐怖となる。直ぐにそれを察する深優人みゆと


「わかった。何かあったら直ぐ呼んで」


 そう声だけかけて、目を逸らして自室へ入る。うら若き乙女がそうするぐらい恐さが勝っている。

 直ぐ後で何かケアする必要があるかも知れない、と気構える兄。


 ほどなくして蘭が兄の部屋に来て同じ見立てを話して来た。そこで計画を練る二人。



 澄美怜すみれが自分の部屋に戻り、しばらく落ち着いた頃合いを見計らって作戦開始。

 いかにもそれっぽく「お姉ちゃん、ちょっとこっち来て」と兄の部屋へ誘導する。


「お兄ちゃんが腕立て伏せの負荷をもっとかけたくてさっき私が乗ったんだけど軽すぎちゃって、お姉ちゃんぐらいがいいかもって」


「え! ムリじゃない?」


「良いから乗って。背中に座る感じで。足着かないように」


「うん、お兄ちゃん体壊さないでね」


 だが澄美怜すみれの想像を越えて、それは十回続いた。真っ赤な顔して潰れた深優人。


「ぐあーっ、はぁ、はぁ、キッツーっ、でもちょうどの負荷だ」


「やっぱお兄ちゃんスゴーイ」


 姉妹二人で感激する。そこで蘭が気を利かせて更にこう言って煽った。


「でもちょっと腰がキビしそうだから次はおんぶガエルにした方がいいんじゃない?」


『!!!』


 澄美怜の目がギラリと輝いた。



 ……蘭ちゃん、それグッジョブよ!


「じゃ、もう一度乗ってみるね」


 急に積極的になる澄美怜すみれ。手を床についてから、兄の背にそっと胸から体を載せて行く。うなじに鼻先が触れる。


 ……この合法的スンスン。はぅ――っ、そしてこの胸のドキドキがモロに伝わるカンジ。チョト、いや、かなりエロくない?!  





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