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第77話 相手にいかなる犠牲を強いてでも共に居たいと願う様な事があれば






「勿論の事だと思う。―――小学3年の出来事をそれこそ度々書いてあったの。自害を止めてくれたお兄ちゃんが『生きててくれなきゃやだ、だから絶対に守り続ける』って言ってくれたのを死ぬ程喜んでた。

 だから何があってもこの人が望んでくれる限り、この人のために生きてそれを叶え続ける事が自分の全てだと……。それが真の願いのはず」



「……俺は今でもその気持ち、変わってない。俺もずっとそのつもりだよ」


「……じゃあ、どうして百合愛ゆりあさんて人と親交を深めたの? その事に悩みまくってた……。もう望まれてないんだって……日記には涙の跡まで……」


 深優人みゆとは少しうつむき、躊躇ためらいながらも、


「それは……言いにくい事で……百合愛ゆりあちゃんの許可なく言っていいか……プライバシーに関わる事だから少し曖昧な言い方になるけど、その親交が俺と澄美怜すみれとの約束の妨げにならないと、いや、むしろその方が……って互いに認識していて……」


 澄美怜すみれ深優人みゆとの実妹と信じていた百合愛ゆりあは生涯をかけて深優人みゆとと共に澄美怜すみれを守って行こうと決心していた事を、口で語られずとも心の伝達で分かっていた。

 しかし口頭で確認出来るような年頃の話ではないが故に他言出来る話でもない。それがこの曖昧な言い方の理由。


「?……良くわからない。それに約束の妨げにならない理由があったとしても日記での私は到底そんな風に思えてなかった。……ま、でもいいの。今はその望みも変わっちゃったかも……って考えてるから」


「俺が信じれないから? ……でも信じて欲しい。約束を破るなんてこれっぽっちも……」


「違うの。むしろ逆。もしこの体がこんなままならお兄ちゃんにずっと迷惑が掛かる。その約束を果たすという事が何を意味するか……。

 それはあなたの自由を奪ってでも自分の物にしたい、心の底からそう割りきらなきゃならないの。あなたに守られ続ける事 = だから生きてく……って約束、今はそれがあなたの人生の束縛になっちゃうの……それもこんな体で。

 この世であなたの幸せを一番望む人・スミレがそんな決断出来るとは思えない。それは今の私も日記の中の私も同じ。だから」


「俺は少しも束縛なんて思わない。むしろそうされたい。今だって澄美怜の世話が出来て嬉しいんだ」


「フフ……本当に日記の通りの深優人みゆとさんなんですね。でもあなたなら選べますか? 誰より大切な相手の人生をいびつな形で束縛してしまう道を。『こう言う体を一生世話して下さい』 なんて……そんなのを言葉に出して望めますか?」


「それは……」


「難しい事言ってごめんなさい。今、ためらったその気持ち、それが今の私そのものなんです。どうしたらいいか分からない……」


「そうして迷う余地があるならチャンスが欲しい……」


「……。でもね、日記ではこうも言っていた。闇に取りつかれてヒキツケを起こして病院送りになった事、覚えてる?」


「え、ああ、大変だった……」


「その後、真実に目が覚めて兄を疑った事を激しく後悔して書かれたもの。

 最も大切にしてたものを捨ててまで私の願いを叶えようとした兄に救われたって」


「最も大切にしてたもの……」

「約束を守る為に、妹として守り続ける誓い」

「……うん……確かに……」


 ……あの時、澄美怜すみれのためにそれを捨ててまで『恋人になる』って言ったら正気に戻ってくれた……


「その時、私は妹のままでいる事を志願したと」

「そう。……その後……どっちの愛が大きいか澄美怜すみれと比べ合った」


「だからその時の日記にはね、この兄にもしもの事があったらこの人の為に死ねたらそっちの方が本望だ……って。元々死に場所を求めていた人生なんだしって。

 そしたらどんなラノべ・アニメ妹でさえもいまだ成し得ない偉業、『真の妹伝説』に成れるのに、なんて書かれてた」


「死に場合なんて……あの子は生きるって約束してくれた……」


「そう。でもどちらも本当の澄美怜の思い」

「そんな風に思ってたなんて……」

「それ程……いや、死ぬほど……好きで、愛して、感謝してた。そして―――それでも消えたがってた……」


「そんな……。でもそんな中でも俺を支えようとしてくれてたなんて……」

「あなたに全て捧げたいと書いて有った」


 今にも泣きそうになる深優人みゆと


「……確かに俺にこだわってくれてた……。そう! なら、必ずしも死にたがってただけじゃない!だって実妹じゃないと分かったあとも、再び告白しに来てくれた……」


「いえ、それも消えて行くためにそうしたと」


「違う! それは想いが成就しなければ、だった筈。だって俺が『あの一言』を言いかけたら、全て分かってくれて……生きてく事を再び約束してくれたんだ!」


「そうですね……。どちらもが本当の気持ちなんでしょうね」


 その一瞬、意味深な笑顔を見せた澄美怜すみれ


「だからその答えが出た時、様な事があれば、その時こそここに来ないと、ですね」


 それは本人が見せた事のない―――強いて言えば別の何かが憑いて言わせているようにさえ見えた。


 少し間をおいて憑き物の目から戻った澄美怜すみれは、笑みながら普段の口調でこう言った。


「なにせ、真の願いを叶えてくれるって神様が言ったんですから。フフフ……」


「俺はそうなって欲しい」


「どちらが私の……あの日の澄美怜すみれの本心なんでしょうね。……もっとも、さっきの願掛けで体が治っちゃえばそんなの関係無いですね。だって記憶喪失のお陰で今の私は不安症も悪夢も忘れちゃって……もう守られる必要も無いみたいだし」


「激突して頭を強く打ったショックで消えてしまったのかな……」


「そうかも……。だからきっと悪い事ばかりじゃないですよ」




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