「……その代わり、私を世界一幸せな妹にして下さい」
「世界一幸せな妹……」
「その方がよっぽど兄さんからの気持ちを素直に受け取れると思った。それに、これだって付き合っていくって事にもなるし」
「……それが本心なら……」
「そうだよ。……日記の頃の様に……『妹の私』を愛してくれますか?」
「……それが望みなら、もちろん」
「百合愛さんとも別れないでいてもらえる?」
「この形で行くなら……別れる理由は……」
「良かった。じゃ、さっそくリクエスト。この妹と今度、遊園地デート、してくれる?」
「え……、ああ、任せて」
妹は安堵の表情で胸の内で唱えていた。
―――どうかこの選択が正しいものでありますように……。
**
新たな妹としてのスタート、それもちょっとだけ恋人風味の妹としての。我慢してた服とかも一緒に選んだりして、まだ行けてなかった遊園地へ。
そこは何て事も無い夢の国を模した世界。車イスで入れるアトラクションも僅かだろうし、そもそもハリボテの世界なのに―――と思っていた。
だがそこは “かの有名な" 夢の国。完全にナメていた。
アーケードで買い物、ギャラリーで「あっホラ、あれ見て!」と指をさし、アドベンチャーランドや舞台の歌に酔い知れて。
車椅子でも楽しめる数々のバリアフリーな計らいは、成ってみて初めて知るあり難さ。
専用車イス付きライドに乗り換える玩具の世界とかもある。きっと、何となく園内を見て回るだけ、等と思っていた
自分の車椅子でも乗れるフライングカーペット型ライドや周遊型アトラクションの
そして大型いかだで冒険島へ。島に着くといつも以上に張り切って車椅子を押す
「あそこで記念写真撮ろう!」
先ずはセルフィーにして二人のショット。次は
パシャッ――――
普段そんなのをしたこともない
そうしてあれこれ楽しんで日も暮れて来た頃、お待ち兼ねのパレードがやって来る。
心踊らせるマーチが、遠くから聞こえてきた。
賑やかなメロディーが、少しずつ近づいてくるにつれて、二人の胸も高鳴ってゆく。
「もうすぐだね!」
華やかなファンファーレが響き渡ると、煌びやかな電飾、色とりどりのフロートが目の前に現れる。キラキラと輝く衣装を身につけたダンサーたちが、笑顔で手を振りながら、軽やかに踊り、歌い出す。
フロートの上には、愛らしいキャラクターたちが子供たちに向かって手を振っている。
パレードのテーマは「夢と希望」。
夢の世界を表現したそれは、あたかも映画のワンシーンを見ているかのよう。
こんなワクワク、一体いつ以来?或いは初めて? そんな
「すごいね……」
車椅子で目を輝かせながらパレードを熱く見つめる
「俺、
そう呟いて
観客にも事前に配られていた風船。
「私も、願い事を書いてみようかな」
そう呟き、
「世界一番幸せな妹♡」
そう願い、風船を空高く放つと、パレードの音楽に乗って空高く舞い上がっていった。
そして傍らに立つ
「今日はありがとう!」
そう呟き、優しく微笑んで見下ろす顔をじっと見つめた。
パレードは、二人の心を温かく包み込み、忘れられない思い出となった。
……今、全快した感情が訴える。嬉しくて、嬉しくて……。地に足がついてないような (車イスだから当然か) 、なんかフワフワした感覚だな。
こんな造られた夢の世界でも本当に愛しい人と居られればこんなにも幸せ。
結局、それが全てなんだ……
車イスになったお陰で圧倒的に増えた共有時間。人生何が幸いするかわからないものだ。
~日記の中の澄美怜の幸せ
そのピークは二度目の告白の日だった。成就のない両想いだった。それでも真の両想い。
『私は両想いなんだよ』と書かれた文字は幸せそうに踊っていた。
限りなく恋人に近い義妹。日記にはそこに至るまでの様々な足掻き、苦しみが至る所に赤裸々に綴ってあった。
気付いてみれば『忘れた記憶をアルバムや日記で見返す』 のと、『失くした記憶を日記で補完する』のとでは大した違いはなかった。
何故なら感情が残っているお陰で結局思い出したのと区別つかない程だったからだ。何かもう、昔の自分に近づいた気がしていた
……こんな体だけど、意外と今が人生の絶頂なのかも知れない……勿論とても幸せだからというのもあるけど……
―――恐らく不随の範囲が拡がって来てる……
それを思うとこれ以上の幸せは今後得られないかも知れない。
いや、今それを考えるのはよそう。
この遊園地での思い出を大切にするために……