それは三階の攻略の最中で起きた。
三階は三人で組んだ場合の動きをやってみようということになり交代で魔物を狩っていた。何度目かの交代でその時はフロンティアとテディが見学だった。
流れる様な動きにやはりベテランの動きは凄いなと感心しながらフロンティアはその先頭をみつめていた。三階もさほど難なく進んでいたこともあり油断していたというのもあったのかもしれないし、テディに至っては何やら考え事をしていた様子であった。だからこそ彼の反応が遅れたのかもしれない。
「テディ!!」
気が付いたらフロンティアの体が動いていた。魔法を行使するよりもそばにいたその小さい体を押しのけたほうが早かったわけだが、フロンティアのそれは完全な脊髄反射でもいえる。
腹部に走る焼ける様な痛みに顔をしかめてフロンティアは先ほどまでテディが立っていたであろう場所に倒れこむ。
「ティア!!」
状況の読めないテディは倒れこんだフロンティアに駆け寄りその身を支えて状況を理解しようと彼女の体を確認する。脇腹のあたりで裂けたシャツからは血が滲み出て見る間に白地を赤く染めた。次にとらえたのはクロウ、トマホーク、ヴァイスが最後に仕留めようとしていた魔物がまさに息絶えたところだった。
とどめを刺したはずなのに顔面蒼白となった男たちが今まさにこちらに駆けてくるところだった。魔物の正体を見て取り、テディも自分の体から血が抜ける感覚に冷や汗が止まらない。
「ティア、ごめん!」
声をかけるやいなやテディはシャツの破れ目を割いて広げ、その傷を確認する。
まるでレイピアで刺されたような傷にすぐさま口づける。
「あの魔物の針には毒があります。」
冷静に喋ろうとしているのに震えているその声はトマホークのものだ。その魔物の生態自体は皆理解していたがテディの手早い対処に任せるしかできない。
毒が回り始めているのかフロンティアの顔から血の気が引き真っ青になっている。
「ティア!しっかりしろ!」
大して強い魔物ではないが厄介なことにこの魔物は三種類の毒を使い分ける能力を備えている。その為早急に毒を抜くか、毒が回って症状が出なければ薬での対処ができず、そのうち一種類は死に至る毒であるというのもまた厄介だった。
傷づ力血を吸い出しては吐き出すテディの横でクロウトマホークが懸命にフロンティア意識をつなぐ。死を覚悟した魔物の最後の一撃なのだ最悪の場合も考えられる。
うつろな瞳のフロンティアは唇を動かそうとするが微かに震えるだけで音を紡ぐことができない。わずかに開かれた瞳に瞼が落とされようとしていた。
「ティア!だめだ!逝くな!!」
叫ぶようなクロウの声にわずかにその目が開き右手がゆっくり動く。自身の傷口に手を当てて、眉間の皴と共に力が込められる。
淡い光と共に次第にフロンティアの顔色は落ち着き、やがて穏やかな寝息が大きくもないのに響いた。張り詰めた空気が一変し、男たちは安堵の息を吐いた。
「とにかくここではを休ませられない。」
「この先の通路脇に開かれた空間があるはずですからそっちに行きましょう。」
トマホークの案に男たちは頷き、クロウがその身を抱え上げた。