空から落ちてきた少女は下敷きにした男を気にすることなく、少年に向き直る。心なしか足がグリグリしているのをレガリアはみのがなさなかった。
「キミがレガリアくんね?」
突然現れた不審人物メスに自信の名前を呼ばれ、少年は頷く。
「間に合ってよかった。あなたを迎えに来たの。」
「迎え……。」
「そう。ケガはない?立てる?」
「あ、はい。」
差し出された女の手に思わず伸ばしかけた自分の手を止める。
(果たしてこの不審人物の手を取ってもよいものか……。)
「こっちを無視してるんじゃねぇ!」
女の背後から叫んだのは白い服の男。抜き身の件が空を切って振り下ろされようとしていた。
「危ないっ!」
「私にケンカを売って後悔しないでよね。」
独り言のようにつぶやいて女は軽くその身を反転させる。翻った右手に剣が握られていたのをレガリアの視界はとらえた。
剣と剣がぶつかり合う鈍い音、切るような空気の震え。そしてサクッと軽い音がしてあっさりと決着はついた。
それは瞬きの間だった。
「強い……。」
人間をしかも立て続で見ることなどめったにないし、まして剣で戦う姿を初めて見るレガリアにもその真剣さと緊張感はいやでも伝わってくる。
本能が囁く。危険だと。この女には逆らってはいけないと。
「あんたたち精霊騎士団ね。仮にも誓いを立てた制霊術師が剣でいきなり攻撃なんて術者の質が知れるってものね。」
緊張感とは裏腹に放たれた言葉は男たちの何かを刺激したらしく、空気はさらに張り詰める。
「それとも精霊と契約すらできないのかしらね。そんな人間を派遣するなんて騎士団もよっぽど人不足なんでしょうね。かわいそうに。」
「女!言わせておけば。」
「いけっ!緑の精霊〈ツタノハ〉!」
「水の精霊〈アマミズ〉」
男たちの言葉に従って精霊が姿を表す。主の命令するままにそれらは力を顕現する。
「風の精霊〈ジェルフェ〉火の精霊〈サラマンドラ〉」
静かな言葉と共に呼ばれた精霊たちは女を取り巻いて姿を現した。
「格の違いってやつを教えてあげるわ。」
「ツタノハ縛り上げろ!」
言葉と同時に精霊は蔦を伸ばして二人を縛り上げようとする。
刹那。
風が走り精霊もろとも蔦を切り、紅蓮の炎が水の精霊を食らう。
「なっ!」
「高位精霊だと!?」
「帰って上官に伝えなさい。この三人は私が預かる。文句があるならスヴェ村アクアのリーシャ・ディ・クロフォードに会いにに来なさい。私は逃げも隠れもしないわ。」
自信満々の声で女は男たちに告げる。
「ちっ!」
「騎士団を敵に回したこと後悔するがいい!」
立ち去り際に吐き出された言葉に、リーシャは肩をすくめた。
「後悔することなんて一個もないわね。」
ゴキブリのごとし逃げ足でいなくなる男たちを尻目に、リーシャは傍らにたたずむ少年とドラゴンたちに振り替える。