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第13話

「え~と、レガリアと、黄金竜ゴールドドラゴンのラシェルに古代竜エンシェントドラゴンのニギイルで間違いないかな?私はリーシャ。よろしくね。」




 白髪を一つに束ね、深紅の瞳の持ち主はニコニコとそういった。


 よろしくなくとも、よろしくしなければ身の危険であるということを彼らの本能は敏感に感じたに違いない。リーシャの言葉にただただ首を縦に振るしかなかった。




 「それじゃぁ、イーサのところに連れて行ってくれる?」




 そういって差し出された手をレガリアはあっさりと握り返した。その行動に他ならぬ本人が一番驚いたわけだが……。


 レガリアがリーシャの手を取り、立ち上がった瞬間、何かが空で光った気がした。




 「?」




 「レガリア?どうか……。」




 レガリアの視線を追ってリーシャも空を見上げた。




 「っち。」




 意識よりも体が先に動いた。


 上空はるかかなたで光ったそれはぐんぐんと速度を上げて迫ってくる。それは音速と呼ばれる速さ。


 レガリアを抱きかばうような形で横に飛び、次の時には吹き飛ばされそうな風圧に身を挺した。一瞬髪を引っ張られたような感覚に、髪留めがそれの爪に引っ掛けられたと気づくよりも、地面ではねた髪留めを見てその事実をリーシャは理解した。


 起き上がったころには、また遥か上空でそれは旋回していた。あざ笑うかのように鳴き声が響く。




 「金色トカゲの分際で……。」




 「な、なんでゴールドドラゴンが攻撃してくるんだ。」




 青ざめた顔でレガリアはつぶやく。




 「ここにはちゃんとドラゴンがいるのに……。」




 「ドラゴンがいるからこそ攻めてくるのよ。」




 「え……?」




 リーシャの言葉が意外だったのか、レガリアも二匹のちびドラゴンも言葉が出ない。




 (自分の置かれてる状況がわかっていないかもって話だったけど、本当に何もわかってないわけか。)




 己の置かれた状況を何も理解していないこの少年が人語を理解し、服を着るという習慣を行っていたのはせめてもの救いだったのかもしれない。




 (素っ裸だったらどうしようかと思ったのよねぇ。)




 少なくとも取り越し苦労に終わった安堵感と、余計になった荷物に気持ちは複雑である。




 「とにかくあれを何とかしないと……。」




 「何とかって大人のドラゴン相手にどうするつもり……。」




 レガリアの心配をしっかり無視し、れーしゃは身を屈め、剣の柄に手を当てる。




 「大地に抱かれ眠るもの、水と炎の加護を持って鍛えられ、風の歌に守られて光と闇の狭間にあるもの……。」




 まるでリーシャの言葉に応えるように剣は輝きを放つ。




 「太陽だ……。」




 小さく漏らしたレガリアのつぶやきに、ラシェルとニギイルは顔を合わせる。




 『いっぺんに色々ありすぎておかしくなったか?』




 『人間に追い回されて、凶暴なメスまで現れて、大人のドラゴンに襲われたら誰だって現実逃避したくなるんじゃないか?』




 ドラゴンたちは言いたい放題である。


 そうこうしてる間にドラゴンは身を翻し、地上の獲物を再び襲いにかかる。


 風に乗り、先ほどよりも勢いを増したドラゴンの鋭い爪が風圧を連れてやってくる。




 「危ない!」




 叫びもむなしくレガリアの声は風に乗って消えてしまう。じっと目をそらすこともせず微動だにしないリーシャが一瞬動いた。


 それは自然のかで育ち、音速で動くドラゴンと共に暮らしていたレガリアですら、動いた。ということしかわからなかった。


 狙った獲物に思うような攻撃が届かず、ドラゴンの翼がしなり天空に舞う。




 「爪が……。」




 上空に身をとどめたそれと、いまだに剣の柄を握る女は互いににらみ合っている。うっかりその間に飛び込もうものなら焼き殺されそうなすごみである。




 周囲を見渡して、獣の牙のようなものが四つ落ちていることにレガリアは気づいた。




 「切り落とした……?鋼のように硬いドラゴンの爪を?」




 誰に問うわけでもなかったが、自然と口が思うことを発していた。


 しかし、そう思ったのはレガリアだけではなかったようで、そばにいた二匹のドラゴンは自分の爪とリーシャを交互に見つめ、身を縮めた。


 しばらく見つめあったのち、先に動いたのはドラゴンのほうであった。それも意外なことに攻撃を仕掛けるためではなく、どこかへと飛び去って行った。

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