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第36話 敗北の悔しさ


デュエルが終わった後は学園での生活の事をいくつか聞かれた後、連絡先だけ交換して今回は解散となった


寮へと帰る時、久慈川さんは何か言いたげな様子だったが何処か遠慮しており、無言のまま帰路に着く


その優しさが今の俺には少しありがたかった


俺は自分の部屋へと到着するとそのままブレザーをベッドに脱ぎ捨てて拳を壁へと叩きつけた


「負けた……!終始掌の上だった……!」


《強欲なトリックスター・アルセーヌ=グリード》を出した時に攻撃の手を緩めてHP11以上のままにするべきだった?

いやどのみちその場合は職業アビリティで殴られて自傷した後に《希望の光》が飛んでくるだけだ


デッキ破壊……ダメだな、ユニットを出さないしプレイヤー自身が超貫通で攻撃してくる時点でこっちが守りきれない


こちら側のデッキを引き切ることでの特殊勝利……こっちも守りきれる気がしない。

恐らく《神速の聖剣》が来た時点でアウトだ


罠によるOTK……これが一番可能性はありそうだがこっちもこっちで守る手段が少ない


さっきの試合は《隠れ身》を無理矢理対処させた上で《神速の聖剣》を奪えたから武器による攻撃手数をかなり減らせてただけで他のデッキじゃ話にならない


ユニーク上級職とまだ上級職にすらなっていない盗賊との差……ここまで大きいとは思わなかった


余りにも悔しい……


「…………。」


俺はデスクに広げられたデッキの中から1枚のカードを取り出す


「…………悪かったなランタン王ジャック、初陣だったのにまともに活躍させてやれなかった」


ランタン王ジャックの能力は相手の手札に圧をかけるタイプの能力


封印を警戒してしばらく後に出しても良かったがこの能力は早いうちに出してこそ意味がある


「……!」


俺は今自分で口に出して気が付いた。

今までの俺であれば口には出さなかったようなその言葉に


「いつの間にか俺もこの世界に馴染んでいたのか……」


今までであればデュエルなんて賭事がある分質が悪くリスクを考えて受けるのを最低限にしていたはずだ。

だが今の俺は売られた喧嘩は積極的に買い続け、リスクのある勝負でも自分から首を突っ込むことがあった


それにカードへの呼びかけに関してもそうだ。

俺自身は元々カードに意思が宿るなんて完全に半信半疑でしかなかったと言うのにこの対応……


俺は懐からブランクカードを取り出す


『…………?』


まるで首でも傾げるような思念にも近いイメージが直接頭に響く


今までの俺は死からの転生のせいでこの世界の現実から目を逸らし過ぎていたのかもしれないな……


俺はブランクカードを見つめながら呟く


「お前はどんなカードになるんだ?」

『…………?』

「流石に分からないか」


俺はカードを全て閉まった後ベッドに倒れ込むように横になる


上級職……選択した職業を使いこなした先にある職業か……


「…………俺が上級職への手掛かりを見つけられてないのは恐らく方向性が決まっていないからだろうな」


上級職への転職は自分のプレイスタイルによって方向性が大きく異なると聞く


だが俺は決まったプレイスタイルを持っておらず相手によってそのデッキも運用も全く違う物へと変化させる


上級職への方向性が決まった者は感覚でなんとなくそれを感じ取れると聞くが正直この辺の話になってくると若干オカルト地味ているせいかどうにもピンとこない


「今見えない事について悩んでいても仕方ないか……」


俺は一旦考えるのをやめてそのまま眠りについた




――――――翌日――――――




昨日の寝方がマズかったのか若干首が痛いが考えが少しまとまったおかげか頭は少しスッキリしている


後で久慈川さんに礼を伝えておかないとだな……


「……っとこんなもんか」


俺は朝一でデッキの調整をして《いたずらの化身・ランタン王ジャック》を活躍させる事をコンセプトとしたデッキを新たに組んでいた


流石に昨日のような初陣ではコイツも可哀想だし俺としても納得出来ない、せめて一度くらいはコイツを主体で活躍させてやりたいと思い新しくデッキを作った


デッキ完成後に軽く身支度を済ませているとタブレット端末のメール機能が作動して通知が届く


「桜木先輩からだな"放課後少し話がしたい"か……

場所は生徒会室か……若干気まずいが行くしかないな」


俺は組み直した本気のデッキとランタン王ジャックをメインとした《隠れ身》デッキ、デッキ破壊主体のデメリットデッキをデッキケースにセットして寮を出る




寮を出てからしばらく歩いていくとなんだか悩んでいる様子の久慈川さんを見つけたので声をかける


「おはよう、久慈川さん」

「あ、浅麦君!おはようございます。

その……もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫……というと昨日の事か。

悪いな、気を使って貰って」

「い、いえ……珍しくものすごく悔しそうな表情をしていたので内心かなりショックを受けていると思っていたのですが……」

「まぁな……心の整理はついたけど思う所が無いわけじゃない

だけど何時までも解決しない事について悩み続けていても仕方ないからな。

それにあれは単純に俺の実力が足りてなかっただけだ、次に戦う時は手加減無しでも戦えるレベルまで強くなるだけだ」


その為にも桜木先輩の用が終わった後、図書室に寄って少し歴史書の類を探すつもりだ


盗賊の上級職の情報を少しでも集めたい


恐らくこの学園であればネットなんかでも調べても出ないような情報も集められるだろうからな


「浅麦君が元気になってくれてとても良かったです」

「あぁ、ありがとう」


その後はしばらく久慈川さんと昨日のデュエルについて話し合い、昨晩俺一人では見つけられなかった反省点を見つけることが出来てとても有意義な時間だった


その後学園の授業も順調に進み、放課後を迎える


俺は荷物を纏めてさっそく呼び出された生徒会室へと向かう準備をしていると教室の扉が勢いよく開けられる


「浅麦君はいるk……ぁぁぁぁぁああああ!?へぶし!?」


…………何故か戦葉会長が俺の名を呼びながら教室へと入ろうとしてまたしても廊下と教室の扉の境目で躓いて顔から地面へとぶつかっていった


なんというかこの人普通にしている分には普通にクールな印象もあってカッコいい人物なんだが所々ドジだったりポンコツな部分が目立つからかなり残念なんだよな


「大丈夫ですか?」

「いたたたた……すまないな浅麦」

「それでご要件はと言いたい所ですが……まぁ言わずもがな今朝のメールの件ですよね」

「話が早くて助かる、さっそく生徒会室に向かうぞ」

「態々呼び出さなくてもこちらからちゃんと出向きますよ?」


すると戦葉会長は顔をそらして若干気まずそうにしながら答える


「いや……そのな?

桜木から昨日の様子だと相当悔しがっているみたいだしそう簡単に折れるような奴では無いだろうが一応様子を見てきてくれと頼まれてな」

「だからって会長が態々来なくても良い気がしますが?

生徒会長としての仕事もあるんじゃないですか?」

「それは問題ない、私は基本デュエル以外の事はからっきしでな……いつも大した仕事は振られていないんだ」


それはそれでかなり問題ではないのだろうか?


そして俺は後ろから肩を強く掴まれる


「黒木?」

「後で良いから話聞かせろ……」

「あ、あぁ」


…………よく考えたら既にこの光景がかなり異常か


変な噂にでもならないでくれると良いんだがな




生徒会室の前に到着すると戦葉会長が開けた扉から俺も入室して先輩方から指示された来客用の席へと向かう


俺の対面には桜木先輩が座っている


「よく来てくれたね、これでも少し心配していたんだが杞憂だったらしい」

「いえ……それよりも本題に入りましょう」

「話が早くてこちらとしてもありがたいよ」


すると桜木先輩は先程までの優しげな雰囲気は鳴りを潜め、真面目な雰囲気になる


「一つ聞きたい、今年の一年生にやたらと多い実力至上主義者……君はどんな印象を受けた?」


っ!そう来たか……って事はそれなりに問題を起こしていると見たほうが良いなあいつら


「一言で言うなら……矛盾していますね」

「というと?」

「俺から見たあいつらは実力至上主義こそ掲げてはいますが実際の所この学園に入学出来たという事実に天狗になり、対して強くなる努力もせずに自分の自尊心を満たすために動いてるように見えました」


特に久慈川さんのあの件なんかがそうだ


自分での努力を怠り、他者から奪うことで自分のほうが強い、ふさわしいと豪語する


更に自分より強い者、認めたくない者は拒絶し、なんとしてでも貶めようとするその行動


余りにも矛盾しているのだ


「これは俺の想像に過ぎませんし確証があるわけじゃないですけど……こいつら誰かしらに扇動されてません?」


ずっと煽てられて調子に乗ったような連中がここまで多いといっそ違和感しかない


それに実力至上主義が多い学園にしては一年と他の奴らで明らかに態度が違うのも気になった


職業学の厭味田先生も実力至上主義者ではあるがここ数日で俺の事を認めてくれたのか見下すような発言は少なくなった


まぁ盗賊そのものを見下しているのは変わらないようだが少なくとも実力さえあれば認識を変える人物であったのは確かだ


「さすがだね、概ね我々と同じ意見だ。

元々以前からその兆候はあったんだが実は今年の1年を中心としてその"矛盾した思想"が広まりつつあるんだ

まるで誰かに煽てられてるみたいにね」

「2年生や3年生の先輩方に先生にもですか?」

「3年生や先生達はまだそこまで心配していない。

彼らはこの学園で田戦い続けていただけあって基本ストイックだし調子に乗ったらどうなるか身を持って知っているからね」


そうなると問題は2年生の方というわけか……これまた面倒なことになりそうだな……





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