「現状2年への対応としてはまともに対応するなと警告しているが時間稼ぎにしかならないだろうね」
「それに最近奇妙な噂が流れてるっス」
「奇妙な噂……ですか?」
先輩も噂の件に関しては未だに分かっていない部分がかなり多いのか首を傾げながら言う
「なんでも実力至上主義者の上位者連中が本来使えないはずの職業のカードを使うらしいんスよ。
聞いた限りだとそのカードは凄い黒いオーラのような物を纏ってるらしいっス」
そりゃまたベタな……。
確実に面倒事が起きているのがほぼ確定してしまったという事実に俺は軽く頭を抱える
だが俺は本来使えないはずの職業のカードという部分で妙な既視感を覚えた
「そう言えば久慈川さんからカードを奪ってたあいつも本来使えない僧侶のカードのはずなのに自分の方がふさわしいとか言ってたような……」
「やっぱりか……」
ただ少なくともあいつには確証はなさそうな感じだった、恐らくはあいつ自身も半信半疑だったのだろうな。
とはいえ少なくとも噂は既にある程度浸透していると見たほうが良いだろうな
「浅麦君、君は現状実力至上主義者達に特にマークされている。
恐らく我々よりも君が接触する方が早そうだから伝えておくが油断しないようにね」
「元々油断は一切ありませんよ、デッキは試作品をよく使ってますけど戦う時は全力ですし。
それに俺の戦い方は副会長はよく知っているでしょう?」
なにせ俺が暴れていたゲーム版『DaR』の被害者だし
「はは、確かにそうだね」
その後は生徒会の先輩方と軽く雑談をしてから俺は生徒会室を出た。
「あっ、浅麦君!」
「久慈川さんか、態々待ってたのか?」
「はい、それに生徒会の話も少し気になりましたから」
「あー、正直あんまり口外しない方がよさそうだからとりあえず実力至上主義者連中が奇妙なカードを使い始めたって事だけ伝えとく。
久慈川さんも一度狙われてるんだし気を付けたほうが良いと思う」
「分かりました」
まぁ久慈川さんのデッキに対して対策無しで挑もうものなら痛い目を見るのは目に見えてるんだがな
「あ、そう言えばさっきパックを引いたらこんなカードが出たんですけど私のデッキに良いと思いませんか!」
「ん?どれどれ……げっ」
俺は思わず頭を抱える
久慈川さんが引いたカードというのはアクションカード《施しと罪悪》、3コストの僧侶系のカードの一つであり効果は"ユニット一体を選択し、そのユニットの攻撃力を−3する代わりにHP+4する"という効果だ
これは味方にも使えるカードではあるが、この効果の説明文には相手のユニットとも味方のユニットとも明記されていない。
つまりこのカードは敵味方関係なく使えるカードであり、久慈川さんがもし相手に使おうものなら《アイアンボディ》を貫けるようなユニットが一発で貫けなくなる程に弱体化し、元々抜けないユニットは簡単に置物と化してしまう
普通のデッキであればデメリット故に使い道が少ないカードだが攻撃力の無いユニットしか使わず、相手のユニットを倒せない久慈川さんのデッキには恐ろしい程のシナジーを発揮していた
なんというか……だんだん俺の戦い方に染まってきてないか?
「とりあえず俺としては上限である3枚全部入れておくのをオススメする。
特に久慈川さんの場合俺みたいな『フィクスシャッフル』前提の組み方はしてないからドロー出来るかどうかは運次第だしな」
俺の場合は決まったタイミングで決まったカードを使う事が多いからその分デッキのバランスはかなりギリギリであり、同じカードがかなり少ないデッキとなっている。
まぁ重要な要素のあるカードなんかは複数枚入れてすぐにでも引けるような位置にする事もあるがな
「そう言えば浅麦君が持ってきていた新しいデッキってどんな構築にしてるんですか?」
久慈川さんは俺のレッグホルダーに入っているデッキの一つを指さす。
「あぁ、《隠れ身》主体の盤面操作デッキでな。
ちょうどこの間手に入れたランタン王ジャックでカードを出せばダメージ、出さなければ手札が溢れてカードを消されるの2択を迫るつもり」
「悪魔の所業ですよ!?」
それこそ今更だ、むしろ今回は選択の余地があるだけマシな方でもある
「で、でもそのカードってコストは重いですけど1回のダメージはそこまで大きくなかったですよね?」
「まぁな、だから増やして盤面に並べる」
「デスヨネー」
戦葉会長とのデュエルの時も別に使おうと思えばランタン王ジャックに使えなくも無かったのだが……恐らく1〜2ターンで対処される可能性が高かった為に1コストで出せる《デーモンシャドウ》をコピーする方に軍配が上がった。
ただやはり《隠れ身》持ちを攻撃する手段は限られており、こちらが配置する位置を致命的に間違えさえしなければそうそう全滅するような事はないだろう
「あれ?じゃあなんで今日の浅麦君はデッキ破壊と今回の《隠れ身》デッキを分けてるんですか?
そのジャック王ランタンってデッキ破壊でも入れられるんですよね?」
「確かに入れられるには入れられるんだがコストが若干重いのもあってバランス調整の目処がまだ立ってなくてな。
それに会長との戦いが初陣だったのにあんなアッサリと対処されたから俺としても少し悔しくてな」
「やっぱり結構悔しがってたんですね」
正直どうしてもこのコストはタイミングを見ないとこっちが崩壊しかねないから難しい
まぁこの辺りは実際使ってみないことには分からない部分も多いから何とも言えないんだがな
「浅麦君はこれからどうするんですか?
やっぱりそのまま寮に戻るんですか?」
「いや、一度図書室に寄って盗賊関連の歴史を漁っていこうと思う。
俺が目指すことが出来る可能性を少しでも調べておきたい。」
「というと……あっ!上級職ですね!」
「そういう事、一応『怪盗』とか『義賊』とかの一般的な上級職は知ってるんだがユニーク職含めた一般的にあまり知られてない職業はまだ知らないからな」
ある程度盗賊の上級職の持つ方向性さえ絞れれば俺にも可能性が見えてくるはずだ
図書室へと移動した俺達は入学して初めて寄った図書室に唖然とする。
「図書……室……?」
「もはや図書館だろこれ……」
図書"室"とはあるが実際に入ってみるとその場所は本館の1〜3階まで繋がった吹き抜けの空間になっており、凄まじい量の本棚と検索用と思われるディスプレイ端末がいくつも備え付けられていた
パッと見ただけでも数千冊はあるだろうことが見て分かる
「これは……目的の本を探すだけでも大変そうですね」
「幸い検索は出来るみたいだからかなり数は絞れるはずだ。
流石に盗賊関連の書物がそんな枚数あるとも思えないしな」
俺は備え付けのディスプレイ端末を操作してキーワード検索から盗賊関連の書物を探そうとする。
「"盗賊"……"上級職"……関連書物343冊……」
「ものすごく多いですね……」
「意外と知られてないだけなのか?
それにしてもよく集められたな……」
俺はたまたますぐ近くにあった検索にヒットした本を手に取り、読書スペースへと移動する
「これは……?」
「『手品師』……!聞いたことはあったが盗賊の上級職の一つだったとは」
"『手品師』"、世間一般の認識としてはどの職業からの派生なのか不明な上級職の一つであり、その特徴としては相手を騙す事に特化している事
フィールドにユニットを召喚する際に実際に召喚するユニットの上にそのユニットのコスト以下の好きなユニットカードを乗せて召喚しても良いというこの職業特有の特殊な
更に《マジック》には特殊な効果があり、実際に出したユニット未満のコストのカードを重ねた場合重ねたカードのコストだけを消費した状態で出せるが次のターンの始まりまでに攻撃を受けた場合マジックが解除されて自分の最大MPを重ねたカードとの差分と同じ量減らすという効果を持つ
「この職業って確か重ねて出したとしても手札が2枚減っているのが一目で分かるからあまり強くないって評判でしたよね?」
「いや、それは使ってた人の使い方が悪かっただけだと思うぞ
実際に『DaR』にはカードの持ち方に関わる明確なルールは存在していないからな」
俺はカードを重ねた状態で手に持って広げる
デュエルフィールド内ではカードから手を離して浮遊した状態で並べられており、かなりカードが見やすいが別に手に持ってはいけないわけではない
あらかじめカードを重ねておき、最初から手札の枚数をごまかしておけばそもそもバレようが無いのだ
とは言え本来のコストを踏み倒せると言ってもその本来のコストのカードを出せるだけの最大MPが無ければそもそも召喚自体が出来ないため序盤からガンガン動けるような効果ではないのだがな
「これって手品というか詐欺じゃないんですか……?」
「『詐欺師』は『詐欺師』で別にあるぞ」
「あるんですね……」
『詐欺師』も『手品師』と同じ盗賊派生の職業であり、こちらのコストをガンガン下げたり、逆にコストをガッツリ上げたカードを相手の同じコストのランダムなカードと交換したりといった特徴を持つ嫌がらせに特化した職業だ
とは言え嫌がらせの性能と手間をを考えると普通にカードを盗む方が早いんだかな……
「確か『義賊』が相手のカードを盗んで味方を強化する職業で『怪盗』が相手のカードを盗んでから見た目だけは同じのデメリットのみのカードを混ぜる職業でしたよね?」
「個人的に『怪盗』の偽カードは戦術的に面白いとは思ってるんだが出来れば俺としては盗賊の汎用性をそのままにした職業が無いか探したいんだよな」
上級職というのは基本的に何かしら特化した職業が多い、だがそれに特化しすぎてしまえば今まで使えていたデッキはが使えなくなってしまうなんて事もあるからな
この辺のバランスはどうしても難しいな