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第38話 侵食された力

その後も図書室に俺達は籠り、盗賊関連の上級職を探し続けた


「『暗殺者』……ステルス時に攻撃性能が上昇したり相手を即死させる効果を持ったカードの多い職業か。

即死も強いが防御能力が著しく低いな」

「『軍師』、マスそのものに付与効果を与えてその上に召喚されたユニットに効果を付与する職業。

これも盗賊派生だったんですね?」

「罠カードを強化効果にしたような感じだな」


とはいえ343冊もある中から一々探すのは余りにも手間な為に俺達は取りあえずタイトルからこちらが調べたい物と完全に一致しているかを一度見てそこから更に調べる本を絞っていった


「『猟師』……『狩人』なんかの別の職業からも派生可能な複合上級職。

『狩人』の相手を指定して前衛後衛、《挑発》なんかを無視して好きな相手へ攻撃出来る《狙い目》と『盗賊』の《罠》、《隠れ身》を軸とした職業。

流石にちょっと方向性が違いすぎるな」

「『強盗』、攻撃すると同時に相手のカードを確率で奪う能力を持つカードのある職業ですか……さすがにちょっとこれは……」


まぁ簡単に見つかるとは思っていなかったがやはり何かしら特化した物や他の職業と合わさったような能力の職業がどうしても多い


「ん?『奇術師』……罠カードや《隠れ身》、カードのすり替え等の盗賊の能力をより幅広く活用可能な上級職……っ!」

『少し違う』


この職業の文字を見つけた途端、脳裏に妙な声が聞こえた気がした


違う……?どういう事だ?


「……ん……ぎ……ん……あさ……く……浅麦君!」

「ん?あぁ、悪いボーっとしてた」

「急にどうしたんですか?『奇術師』の職業を見てから様子がおかしかったですけど」

「……俺にも分からない。

ただ一つ言えるのは……この職業は方向性としては間違えてないけど俺に示されている上級職とは少し違うらしい」

はふ

さっき聞こえた声がなんなのか……上級職への道が見えると感覚でなんとなく分かるとは聞いたことはあったが声が聞こえるなんて聞いてないぞ?


「ダメですね……後はどれも何かしらに特化してたり他の職業との複合系ばかりしかありません」

「ひとまずはヒントが得られただけでも良しとするべきか。

何も進展が無かった訳でもないしな」


あの声は『奇術師』を観た際に少し違うとだけ言っていた。

つまり方向性そのものは間違っているわけではないのは判明した


後は『奇術師』に近い職業をなんとか見つけ出すか俺が道を見つける必要がある


夜6時……いい加減寮へと戻らないと門限を越えて帰れなくなるな


かなりの数の本を漁ったがやはり盗賊系の上級職に関する情報はかなり少なかった




翌日の放課後、今日も俺達は図書室へと入り浸って盗賊関係の本を漁っていく。

だが今日は昨日に比べて明らかに人が少ないのが少し気になった


「……?なんかおかしくないです?」

「人が少ない割にやたらと視線を感じることか?」

「はい……これって一体……」


まぁ答えは一つしかないだろうな


「コソコソ隠れてないで出てきたらどうだ?」


すると図書室の至る所にある本棚の影から何名かの生徒が顔を出してきた


ただ様子がおかしい、その瞳は何処か虚ろでまるで意識があるようには思え無い


そして図書室入口からそんな生徒を何人も引き連れた男子生徒が現れる


それによく見たらこいつら1-Aの連中だ、何人かに喧嘩を売られて倒した覚えがある


「やぁやぁどうもどうも、随分と熱心に探し物をしているじゃあないか

盗賊風情が無駄な事を」


わかっては居たがやはり実力至上主義者か


「何の用だ?」

「おやおや、君なら分かってるんじゃないのかい?

私はこの学園に分不相応な君を追い出しに来たんだよ」

「そんな事だろうと思ったよ、どいつもこいつも思考回路が同じだから分かりやすい」

「何とでも言うがいいさ。

あぁそうそう、君が持っているユニークレアのカードも全部渡して貰おうか。

それは君程度の人間が持って良い物じゃない」

「どうして自分じゃ使えないようなカードを欲しがるのやら……」


少なくとも生徒会の面々の忠告通り何かきな臭い事があるのは間違いなさそうだ


それざ噂通り他の職業のカードを使うとかならどういうからくりなのか……あの様子を見る限りまともなものじゃ無さそうだが


「さて、ちょうどここには『デュエルフィールド』も設置されている。

君にも少しは抗うチャンスくらいはあげようじゃないか」


少なくともこの数の生徒に囲まれてる時点でまともに帰す気はどう見ても無さそうだ


なら真正面から食い破るしか無いだろう


俺はタブレット端末を見てあいつの情報を軽く見る。


1-A"賭操 闘夜とそう とうや"、職業『決闘者』


『決闘者』……相手のユニット1枚を指定してそのユニットと自分以外での戦闘を不可能にする《決闘》、更に相手のユニットを死亡させた時に有利な効果を発揮する《勝鬨》の効果を持ったユニットを主体にしたデッキだ


職業スキルは《決闘》中のユニット全員の受けるダメージを1軽減する《金剛身体》。

味方ユニット1体に"敵ユニットを死亡させる度に+2/+2する"という能力を与える《勝利への咆哮》。

指定したユニットへの攻撃力を2下げる《威圧》。

これら3種類の職業アビリティを持っており、どれもユニット同士の殴り合いで大きく有利に働くものばかりだ


真正面からユニット同士の殴り合いに発展してしまえばこちらがやられて相手をどんどん強化してしまう。

だが下手に特殊効果が強いユニットを出しても素の能力か低い為逆に鴨にされる


普通に考えればかなり厄介な相手だが今回俺はこの職業に対して大きく有利なデッキを一つ持っていた


さっそくアイツを活躍させる事が出来そうだ


「どうせ断っても面倒な事にしかならないのは分かりきっている。

御託は良いからさっさとやるぞ」


俺はすぐ近くにある『デュエルフィールド』へと歩み始める


「盗賊風情が……私に勝てるなんて思い上がるなよ?」


俺はあいつの言葉を無視してデッキホルダーから決めたデッキを外して『デュエルフィールド』へとセットし、端末を接続する


そして俺は『デュエルフィールド』を起動して意識をフィールドの中へと移した




俺が目を開けると、そこにはいつものコロシアムのような光景はなく、大量の本や本棚が浮遊する巨大な図書館のような空間だった


態々設置している部屋別で違う景色にしているのだろうか?


俺は足元にあるあしあとマークの描かれた台座に乗ると、それが浮遊して移動し始め、上部にある大きなフィールドへと向かっていく


フィールドへと到着すると、そこにはいつものようなカード配置用の台座とユニット配置用のマスが全て木製のフィールドの上に配置されていた


俺はデッキを取り出してさっそくフィクスシャッフルを行っていく。

少しすると相手側にも賭操が現れ、同じくデッキを取り出したが俺はそのデッキに対して違和感を覚えた


なんだあのデッキ……?やけにどす黒いオーラのような物を放っている


装備の見た目は胸当てに関節などを保護する最低限の金属鎧と剣というかなりの軽装……特におかしな部分は見当たらない

ってことはどう考えても職業じゃなくカード自体に何かあるな


「お前程度じゃお目にかかれ無いカードを使ってやるよ」


あのカードは一体……それ以前にデュエルフィールドに対して悪影響が無ければ良いんだが……


あいつのシャッフルが終わりお互いに準備が終わったのを確認した俺達は同時に合言葉を叫ぶ


「「デュエル!!」」


天秤は……向こう側に傾いた、つまり俺は後攻のようだ


「私のターン、MPをアビリティポイントへと変換してターンエンド」


最初のターンは流石に定石通りか


「俺のターン、コストとしてMPを1消費して前列右側に《デーモンシャドウ》を召喚してターンエンド。」

『ーーーーッ!!』


《デーモンシャドウ》0/1《隠れ身》


「ターンエンド時効果発動、《デーモンシャドウ》が《隠れ身》を継続しているなら攻撃力+1」


《デーモンシャドウ》0/1→1/1《隠れ身》


「チッ……《隠れ身》か。」


決闘者はその特性上相手のユニットとの戦闘がメインになる職業だが《隠れ身》の能力上決闘での指定を行う事は出来ない


更に基本的に《決闘》持ちのユニットは全てプレイヤーへの攻撃不可という特徴を持っており、相手のユニットを倒した時にそれが解除される仕様となっている


つまりこちらから攻撃して倒す分には《決闘》の効果は発動しない上に相手は攻撃をする事は出来なくなる


流石に全部が全部決闘持ちユニットなわけがないだろうがこれで相当動きを制限出来るだろう


「私のターン、コストとしてMPを2消費して前列中央に《侵食:守護騎士像》を召喚する!」

「なっ!?」


《侵食:守護騎士像》1/4《侵食》《挑発》


相手の前列中央に純白の騎士を模した石像が出現する、だがその石像には所々に黒い亀裂のような模様が入っており、明らかに様子がおかしいのが見て分かる


そしてなによりも、おかしいのはそもそも《守護騎士像》は職業騎士の専用カードの為普通に考えれば《決闘者》がデッキに入れることは出来ないのだ


半信半疑だったが本当に噂通りだとはな……



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