目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第42話 暗躍する影

ュエルは賭操の降参により俺の勝利判定となり、俺の意識は肉体へと戻っていく


目を開けたあと映っていたのはその場で倒れ伏す賭操とアワアワと困惑している久慈川さん、そして俺たちを取り囲んで居たはずの生徒が大量に倒れている所だった


俺達がデュエルしている間に何があったんだ?


「あわわわわわ……あ!浅麦君!

無事に勝てたんですか!」

「あぁ、問題ない……がこの惨状は?」

「それが私にもわかりません、ついさっき皆さん全員がいきなり倒れてしまって……」


そうなるとタイミング的には俺が賭操に勝った事が原因か?


となるとやっぱり何かしらのカードが関わっているのだろう


「久慈川さん、ちょっと生徒会室まで行って先輩方を呼んできてもらっていい?

'この間の件でさっそく出会しました"って言えば多分伝わると思う。」

「へ?分かった!

急いで行ってくるね!」


久慈川さんはまだ少し慌てた様子を残しながらも図書室を出ていった


俺は彼女が居なくなったのを確認してから賭操の持ち物を漁り始める。

流石にこんなとこ彼女に見せるのもどうかと思うし何かしらこいつらが誰と繋がっているのか……それに《侵食》カードの原因も気になるから手掛かりを少しでも集めておきたい


「……!」


だが俺はコイツの持ち物を調べている時に賭操の異変に気付いた


賭操の身体に黒い亀裂が入り始めている


「負けたら負けたで口封じって訳か……生徒会の面々の調査が進んでない一番の原因これだな?」


この世界は実のところ割と何でもありな部分があり、デュエル以外で効果を発揮するカードがいくつも存在しており、中には自白効果のあるカードや相手を拘束するカード等もある


そんな現実にも強い影響を及ぼすカードを通称『アクティベーションカード』と呼ぶのだが恐らく《侵食》カードの原因もその《アクティベーションカード》の一種だと思っている


だがそのカードが別のカードから生み出されているという可能性も捨てきれない為考え出したらきりが無い


『デュエルフィールド』にセットされているデッキを取り外してみるとそのカードの大半は黒く侵食されて尽くしており、使えそうにない


デッキ構成はユニットカードが10のアクションカードが20、まぁあの状況でこのデッキなら降参するのも頷ける


肝心の《侵食》されたユニークレアは3枚入っており、そのどれもが真っ黒に染まっているが、問題はそこじゃない。

黒く染まったカードの全てが端っこから塵になっている


「本当に胸糞悪いな……」


だが塵になったユニークレアカード3枚から光の玉のような物が現れ、それらの全てが俺の周囲を旋回し始める


「なんだ……?さっきのカード達の魂か何かなのか?」


すると俺の懐のポケットから光が放たれ、そこにしまいこんでいたブランクカードが勝手にポケットから出て俺の前に出てくる


「っ!」


いったい何が起きようとしているのか見守っていくとブランクカードへと3つの光が吸い込まれていき、カードがより強い光を放ち始めた


ブランクカードの全く何も書かれていない文面にまるで焼き付くように文字と絵柄が現れ始める


だがそれは完全な形ではなく、その殆どが文字化けしているように読めず、絵柄も卵のような物体にランタン王ジャックの顔のようなよくハロウィン等で見かけるような模様が描かれているものだった


「これは……何に成長するのか方向性を決めたってことなのか?」


俺はブランクカードを手にとってそう呟くと肯定するようにカードは点滅する


この模様が意味する方向性……どう考えてもイタズラ等の相手に嫌がらせのような効果を与えるタイプだろうな


俺好みではあるが実際どんな能力になるか分からない以上は期待しすぎないほうが良いだろう




「こんな所か」


引き続きこいつらの持ち物を調査してみた結果全員から《侵食》の効果のある黒く染まったカードが発見されたが少しずつ塵になっていた


唯一塵にならず残っていたカードの中に『アクティベーションカード』の一種と思われるカードで《深淵侵食・アビスドミネイト》と《侵食:対価の楔》というカードが見つかったが、その両方のカードには名前以外が何も表記されておらずどのような効果を持つのかは詳しく知ることは出来なかった


名前で粗方予想は付くが碌でもない予感しかしない上に後者に至っては真っ黒に染まりきっている上にその絵柄に描かれた楔な模様が賭操の身体にも現れている為に既に発動済みで使用不可になっていると見て良いだろうな


恐らくだが噂になっていたのはこいつに操られていたと思われる取り巻き連中の方と思われる


塵になっていくカードは証拠隠滅としては都合が良いだろうしそもそもの末端で重要な物は持たせておらず意識もある程度掌握しているだろうから大した情報も聞き出せない


なんか過去に何度かこの手のカード犯罪に近い事例を耳にしたことがあるがよく思い出せない


あとで調べなおしてみる必要がありそうだ


すると外からドタバタと何人かの走るような足音が聞こえてくる


「つ、連れてきました!」

「大丈夫か……い?」

「話には聞いていましたがこれはいったい……?」


桜木先輩は一瞬固まった後に呆れたような表情をしており、夢見先輩は困惑している様子だ


「まさか君一人で?」

「半分正解ですけど俺が相手にしたのはあそこで倒れてる賭操だけですよ。

どうやらデュエルで負かした結果あいつが操っていた他の生徒達が軒並み倒れたみたいです」

「そうか……可能性の一つとして考えては居たがやはり操っている何者かが居たか。」

「とりあえずこの場所以外でも倒れてるやつが居るかもしれません。

ただこいつは多分ですけど捨て駒だと思います」


俺は賭操を引きずって先輩達の所へと連れて行く


「その根拠はなんですか?」

「これ見てもらっても良いですか?」


俺は賭操の袖を捲り、黒く侵食されたような亀裂の入った腕と、その根元にある幾何学的なマークを見せる


「これは……?」


俺はこいつが持っていた《侵食:対価の楔》を取り出し説明しようとするが既にカードの崩壊が始まり始めていた


流石にそう甘くはないらしい


「その崩れているカードは?」

「《侵食:対価の楔》という名前で恐らく『アクティベーションカード』の一瞬です。

今はカードが崩れすぎて分かりませんがこいつの黒い亀裂の大元にある模様と同じ模様が描かれた楔がカードには描かれていました。」

「口封じ……ですか……」

「そんな……」


久慈川さんは悲しそうな表情になる……だが俺としてはこいつが死んでいるのではなく意識を失っているだけであることに違和感を覚えている


目を覚ますかは分からないが直接命を奪わない理由があまり分からない


「それと噂の件ですけど事実ですね、実際に別の職業のカードを使ってきました」

「カード自体に違法性はあると思うかい?」

「どう考えてもクロ以外ありえませんね

他の職業のカードは一つの例外もなく名前に《侵食:n》という名前に書き換えられていた上に能力として毎ターン終了時に攻撃力が上がって最大HPの下がる《侵食》という能力を付与されてました。

しかも死亡時には死亡でも除外でもなく消滅という処理がされてましたよ」


基本的にこの世界においてカードの改造などは違法行為にあたる


理屈としては前世における人体実験に対するタブーに近いものがあるが一番の理由としてはカードへの影響は実際のデュエル世界の住人にも影響が出てしまい、別のカードにまで悪影響を及ぼしてしまう例が確認されているのだ


「肝心のカードは?」

「《侵食》系のは何一つの例外もなく塵になってます。

あとはユニークレアのカードが3枚塵になりきる前に光の玉みたいのが出てきましたけどブランクカードに吸い込まれました」

「そうか……後で今回の件の詳細を報告しに生徒会室に来てもらっても良いかい?

我々は彼らを少し調べることにするよ」

「分かりました」


俺はとりあえず《侵食:対価の楔》と《深淵侵食・アビスドミネイト》と《侵食》に関わるタイプのアクションカード達を桜木先輩達に渡してから図書室を去ることにした


正直まだ調べ物は終わっていないのだが仕方あるまい、また今度久慈川さんと共に訪れるとしよう






「副会長、これはやはり……」

「あぁ、恐らくそうだろうね。

このマークには僕も見覚えがある」

「国際指名手配中のカード犯罪組織『デュエニュクス』……5年前に当時15歳であった現チャンピオン達によって一度壊滅させられ、残党となったはずの彼らが何故ここまで大きな活動をしている……?」


現生徒会副会長であり、当時10歳でありながら事件に巻き込まれていた一人である生徒会副会長の桜木は当時を思い返しながら深刻そうな表情をする


「普通に考えれば壊滅した犯罪組織が5年で活動を再開するのは通常ではあり得ないです。

それに他の職業のカードを使用可能にしている《侵食》という能力……それにこの口封じの手口……。

少なくとも彼らのバックに実力至上主義者達が付いているのは間違いないだろうね」


彼は浅麦から受け取ったカードを手に取り、考え込む


「今回の件は思っていた以上に根深い問題になりそうだ。

『デュエニュクス』め……一体何を手に入れた?」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?