桜木先輩は俺達の意志を確認してからすぐに争奪戦にエントリーしてくれた
争奪戦までに残された期間は残り1周間……中々にギリギリなタイミングで声をかけてくれたと思っていたが元々明日のホームルームには全クラスに通達するつもりだったらしい
この学園は基本的にスケジュールがそこまで余裕が無いらしく、元々この手のイベントの時間調整は難しいらしい
その後俺達は生徒会室から退出して一度図書室へと向かっていく
「今回の争奪戦ですけど複数のデッキを使用する事は出来ないそうですがどうするつもりなんですか?」
争奪戦での複数デッキの使用不可、これは以前から元々あるルールらしく、相手に対するピンポイントなメタデッキを組まれて効率的に上級生のポイントを取りに行く者達が出てくるかららしい
まぁ分からなくもないが俺以外にそこまでやるやつがいるのだろうか?
「一応対策は考えていなくもない、フィクスシャッフル自体は禁止されてないからな」
「へっ!?」
久慈川さんは俺の言葉を聞いて若干ジト目になる
こりゃ俺が元々やろうとしていた事バレたな
「正直結構デッキ構成が難しくなるがシャッフルの仕方で構築が大きく変わるデッキにするつもり……と言いたいところなんだがな。
今回ばかりは本気のデッキで行くつもりだ」
「ほっ……」
正直今回が3年生なんかとの対戦を見越していなければ半分ずつで全く違うコンセプトのカードを採用したフィクスシャッフル次第でデッキ構成が大きく変わる特殊デッキを使うつもりだったがまぁ良いだろう
「それよりも久慈川さんもまたいつものデッキでいくのか?」 「うーん、実はこの間の授業でデッキ破壊型のを一度組んでから別のコンセプトのデッキも組んでみたくなっちゃって新しいデッキを作ったんだ。
それを使ってどこまでやれるか試してみるつもり」
デッキ破壊か……俺の使うデッキ破壊と久慈川さんの扱うデッキ破壊は厳密にはコンセプトが少し違う
俺のデッキは相手の手札や山札を奪ったり手札オーバーでカードをゲームから除外する事をメインに組んでいるが久慈川さんの場合は徹底的に相手から受けるダメージを減らして耐久し、手札を腐らせて手札オーバーを狙う時間稼ぎのコンセプトだ
しかも久慈川さんのカードには山札を増やすタイプのカードもあるため、耐久勝負となると《被ダメージ軽減》や《回復》がある分久慈川さんの方に軍配が上がる
それに確か久慈川さんは山札のカードを増やすタイプのカードも持っていたはずだ、恐らく俺のどのデッキとも相性はあまり良くないだろう
「相手の心が折れないと良いな……」
「どういう意味ですか!?浅麦君にだけは言われたくないんですが!?」
久慈川さんはプンスカと怒りながらポカポカと叩いて来るが力が弱過ぎて小動物がじゃれているようにしか見え無い
「むぅ……」
「ははっ、悪い悪い。」
その後俺達は他愛のない話をしながら調べごとを終え、寮へと戻っていった
1週間後
俺達二人はコンディションを整え、デッキの調整をギリギリまで試行錯誤した上で指定された会場へと向かっていた
今回の争奪戦の会場は学園からリニアで3駅先にある駅から歩いて数分の場所にある大型実技試験用フィールドという場所
ここはこの学園の所有する土地の中でも少々特殊なエリアであり、前世での東京ドームと同じレベルの広さを持つ空間の全てが超巨大な『デュエルフィールド』となっているらしい
会場へと入場した俺達は受付で今回使うデッキを登録し、それぞれの案内に従って別々の控え室に向かっていく
どうやら学園の実技棟地下にもあった大型『デュエルフィールド』と同じような感じのようだ
「今回の試験は現実の肉体を使ったものではなく、広大な仮想フィールドに投影された肉体を用いて他のプレイヤーを探して勝負を仕掛けるタイプか……誰が誰と当たるのかは分からない上に戦う相手を吟味する為に一度隠れるというのも手か」
期限は今日1日あるとはいえ時間にも制限はあるし人によっては十分なポイントを稼いだ者は何処かに隠れてやり過ごす場合もあるだろう
なら俺は一度見晴らしの良い所を探しておきたいところだな
『争奪戦開始の時間が近付いて参りました。
参加者の皆様は端末にデッキとタブレット端末をセットしてその場でお待ちしてください』
アナウンスが来たのを確認して俺は端末に自身のデッキケースとタブレット端末を接続し、開始時間を待つ
確か今回の争奪戦は実際のユニークレアのカード自体も試合を観戦するんだったか
『争奪戦開始まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…開始します』
俺の意識はいつものように移っていき、目を開くとそこには広大な遺跡跡と思われる建造物の残骸がそこら中にある平原だった
割と隠れられる場所はある上に見晴らしも悪くない隠れるなら……
「あそこが一番良さそうだな」
俺は周囲を見渡して見つけた一際大きく目立つ木に狙いを定めて移動する
幸いな事にまだ近くには誰もいないようで、特に気配等は感じない
「この木は……登れそうだな」
俺は大きな木の質感をある程度触って確かめて十分登れることを確認し、ひとまず葉っぱが生い茂る上部へと向かって登ってゆく
幸い手掛かりは結構多くある上に現実ではない為に崩れたり削れたりしない分登りやすい
葉が生い茂って身体を十分隠せる場所を探して移動した俺は比較的楽な姿勢を取れそうな枝を探して腰掛け、葉っぱの隙間から周囲を探索しつつ他の生徒を探していく
現在この遺跡平原とでも言うべき場所にいる生徒は俺を含めてざっと4人……俺のように何処かに隠れている可能性も否定しきれない以上まだ他にもいる可能性はあるが現在目視できる範囲ではそれだけだな
俺以外の三人は二人が1年で一人が2年生か……狙うなら2年生の方だな
俺は右腕に装着された装置を起動し、ポインターを起動して2年生の先輩に狙いを定める
今回の勝負の仕掛け方はかなり特殊で狙った相手にポインターを向けて起動することが条件となっている
ポインターでロックされた人物はデュエルを必ず受けなければならずデュエルが成立した時点でお互いのプレイヤーは専用のデュエル用のフィールドへと転送される仕組みらしい
ポインターを起動して2年の先輩をロックすると先輩はビクッとした様子で辺りを見渡していた
まぁ先輩の見える範囲じゃ誰もいないように見えるからな
そして先輩は右腕の装置を操作してデュエルが成立したのか目の前の視界が切り替わっていく
「マジか……よりにもよって噂の一年坊か
ってか何処にいたんだよ……」
俺の対面に立つ先輩は呆れたような表情でそう尋ねる
先輩の服装は全身鎧にハルバードと一際目立つ大盾……騎士の上級職である重騎士か……さすが二年生といった所か
「平原に1本だけやたらと大きな木がそびえ立っていたでしょう?
あそこの葉っぱに隠れてましたよ」
「あぁ……なる程な、それは警戒しなかった俺が悪いか……。
とはいえ後輩に簡単に負けてやるほど俺は甘くはないぞ!」
「胸をお借りしますよ先輩!」
「「デュエル!!」」
試合開始の合言葉と同時にフィールド中央に天秤が現れて俺の方へと傾いた
俺が先攻か……そうなると攻め寄りの姿勢で運用した方が良さそうだ
俺はフィクスシャッフルしたデッキから引いた手札を見て、序盤からの動きを決める
今回はかなり本気で汎用性を突き詰めたデッキ構築をしており、先攻か後攻かでカードの使い方を大きく変えられるデッキ構成にしている
この『DaR』はその仕様上先攻の方が比較的攻めに回りやすいようになっている為、後攻になってしまうとどうしても後手に回りやすくなってしまう
だが基本的にカードゲームは後出しジャンケンに近い要素があり、最初から守りに徹すると決めているのであれば実は後攻の方が相手に合わせて動くだけで自分のやりたいように動ける為にユニットの処理カードや攻めるためのカードのバランスはかなり重要な要素の一つとなる
「俺のターン、MPを1支払い前列左側に《デーモンシャドウ》を召喚する」
『ーーー!』
《デーモンシャドウ》0/1《隠れ身》
なんだかんだ言って最初のターンに召喚するユニットとしては《デーモンシャドウ》はかなり汎用性が高い
序盤のユニット処理に使っても良い上に中盤や後半まで生き残れば攻撃力だけであれば1コストとは思えないレベルの物となり、十分な脅威となる
「ターンエンドをすると同時に《デーモンシャドウ》の能力発動、自身が《隠れ身》状態の場合自分のターン終了時に攻撃力を+1する」
《デーモンシャドウ》0/1→1/1《隠れ身》
「オレのターン、MPを1消費して《プチナイト》を召喚する」
『プチッ!』
《プチナイト》1/1《挑発》
「ターンエンドだ。」
《プチナイト》……確か死亡時に手札にコスト2のトークンカードユニットである《衛兵ナイト》を加える能力だったな
重騎士は基本的に守りに秀でた職業でありそのユニットの大半が《挑発》を持っている。
この守りを突破するのはかなり難しそうだな
「俺のターン、MPを2消費して前列中央に《プチナイト》に対してアクションカード《計画的襲撃》を発動。
ユニット1枚に2ダメージを与えて相手のデッキからカードを1枚盗む!」
『プチーーー!?!?』
《プチナイト》1/1→死亡
《プチナイト》の死亡時効果により先輩の手札に1枚カードが加わり、俺の手札には先輩のデッキからカードが1枚やってきた
奪ったのはコスト5の《棘盾の騎士》……《挑発》に加えてダメージを与えたユニットに2ダメージを与える厄介な能力を持ったユニットだ
この手のカードを採用しているとなると下手に正面戦闘するのは控えたほうが良さそうだ
「ターンエンドと同時に《デーモンシャドウ》の能力発動。
攻撃力を更に+1する」
《デーモンシャドウ》1/1→2/1《隠れ身》
次はどんなカードを出してくる?
俺は先輩がどのような手で来るのかを予想しながら今ある手札を見返してどのように動くかを考え続ける
やっぱりカードゲームは序盤から相手の動きを予想するのも醍醐味だ